選択的夫婦別姓の討論をして

5月24日に、ビデオニュース・ドットコム(ビデオニュース・ドットコムについては、末尾の*をご参照ください)のお招きで、久しぶりに選択的夫婦別姓についての討論をしました。

討論の相手は、埼玉大学教養学部教授の長谷川三千子さんでした。
ビデオニュースの方たちは、選択的別姓に反対している現職国会議員に出演依頼をしていたそうですが、皆さん辞退されたそうです。
政治家が自らの主張を訴える機会を辞退するとは不思議な話です。選択的別姓に反対などしていると、選挙に悪影響を及ぼす時代になってきたのでしょうか。
その結果として、私は哲学者の方と討論することになったのでした。

そうは言っても、賛成派・反対派が一対一でじっくりと討論したことは今までほとんど例がないそうで、それはそれで貴重な討論だったようです。

長谷川さんの主張は、「夫婦別姓制度」(儒教国にあった制度。生まれたときの父の姓を一生名乗る制度)と、「夫婦同氏制度」(現在の日本の制度。婚姻中の夫婦が同じ氏を名乗る制度)を選択できるようにするという考え方が混乱している、というもので、現実に生きる人間としてはそれのどこが問題なのか、ついによくわかりませんでした。
また、「結婚生活というのは、いろいろな我慢の連続なのに、どうしてたかだか苗字のことが我慢できないのか」という疑問も呈されていました。(これについては、「たかだか苗字」と思うのは長谷川さんの価値観であり、万人の価値観ではないということをお伝えしておきました)
討論の中では、哲学者と精神科医の違いでしょうか、ということになりました。つまり、「ものごとはかくあるべき」ということを論じる哲学者である長谷川さんと、一人ひとりがどのように悩んでいるかということに注目する精神科医との視点の違いなのかもしれません。そして、私は政治は後者の視点からなされるものであってほしいと思っており、長谷川さんは反対なのでしょう。

選択的夫婦別姓の議論は、ずっと、この2つの立場の対立だったと思います。

そして、私が人の「怖れ」に強い関心を抱くようになったのも、そこに原点があります。他人の自由を奪うことを正当化するほどの強い「怖れ」は、どうすれば解消することができるのだろうか、ということを考えるようになったのです。

「ものごとはかくあるべき」という考え方も、「怖れ」のひとつの形です。「~すべき」「~あるべき」という考え方が、どれほど心の平和を奪うか、ということは驚くほどです。その結果として、奪われるのは心の平和だけではなく、実際に社会の平和まで奪われてしまいます。
現実を現実として受け入れた上で、理解し、共感し、解決できることはしていく、という姿勢を妨げるのが、まさにその「怖れ」なのです。

今回の討論で意味があったと思ったのは、長谷川さんが私の家族観などをよく聞いてくださり、「水島さんのような考えでやっていらっしゃるのなら、それは立派な夫婦よ」と言ってくださったことです。歪曲された宣伝の影響もあるのでしょうが、別姓夫婦というのは「単なるわがままな人たち」だと思っておられたようです。「怖れ」を手放す第一歩は、相手への理解であり共感であるわけですから、こういうプロセスを積み重ねることも必要なのだろうと改めて思いました。

長谷川さんも、「皆さん、長谷川三千子と討論と聞くと辞退する方が多いけれど、今日は水島さんとちゃんとお話ができて良かったわ」と喜んでおられました。

それにしても、別姓どころか新しい姓を作ることも珍しくないカリフォルニアに住んでいた期間を経て、日本はまだこんなところでウロウロしているのだなあ、と改めて実感しました。
討論の中でも言いましたが、「結婚すること」と「どちらかが姓を変えること」が不可分なものになってしまっている日本の現状は、結婚のあり方を歪めていると思います。

先日も党首討論についての感想を北海道新聞に取材されましたが、そのときに、「家族の価値というのは、法律で決めたから実感されるものではない。それよりも、家族で夕食がとれるような労働状況になっているか、というような観点から考えるのが政治の仕事。実際に価値のある家庭であれば、子どもは家族の価値を尊重するようになる」という話をしましたが、別姓の議論についても全く同じことを感じています。

収録したものは現在インターネット上で見られます。

http://www.videonews.com/

政策討論クロストーク 第3回(2007年05月24日)
選択的夫婦別姓の是非を問う
賛成派:水島広子氏(精神科医・前衆議院議員)
反対派:長谷川三千子氏(埼玉大学教養学部教授)

* ビデオニュース・ドットコムは、日本人ビデオジャーナリストの草分けとしてテレビ朝日ニュースステーションやTBSニュース23などで精力的なジャーナリスト活動を行ってきた神保哲生氏が、「日本にも広告に依存しない独立系の民間放送局が必要」との考えのもとで1999年11月に立ち上げた日本初のニュース専門のインターネット放送局です。このため、有料会員制をとっているそうです。月会費500円ですべての番組が見られるというの魅力的ですが、会員登録をしなくても冒頭部分は見られるようです。