「いわき病院事件」・矢野さん

11月26日(日)、高知在住の矢野啓司さん・千恵さんご夫妻のご来訪をいただきました。

矢野さんご夫妻は、昨年12月6日に、最愛のご子息を28歳で殺人事件によって突然失うという体験をされました。見ず知らずの人間であった犯人が、入院先の精神病院「いわき病院」からの外出中に起こった事件でした。犯人は病院から社会復帰訓練のための外出をし、100円ショップで包丁を購入し、その直後に矢野さんのご子息・真木人さんを刺殺したのです。

「精神科の患者だから責任能力は問えない」と弁護を引き受ける弁護士すらなかなか見つからない状況の中、矢野さんは絶望することなく全力を尽くして、懲役25年の実刑判決を勝ち取りました。

さらに、現在は、犯人の外出を許可した病院を相手取って民事訴訟を起こしておられます。犯人は当日の午前中に頭痛を訴えて医師の診察を求めていたにも関わらず、診察を受けられない不満が看護記録に残されているそうです。

精神障害を持つ人による重大犯罪は、衆議院議員時代の私の大きな仕事の一つでした。
「心神喪失者医療観察法案」という、世にもおかしな法案を政府が出してきたときに、民主党の対案を作って提出しました。
その柱は、責任能力を問う唯一の根拠たる精神鑑定を、現行のように安易に簡易鑑定で済ませるのではなく、鑑定センターを作ってきちんと行うということ、そして、重大犯罪を犯した患者を手厚い人手で集中的に治療できるような精神科ICUを作ること、さらには、精神科医療の質の全体的な底上げをし地域の受け入れ態勢を整えて社会的入院を解消すること、というものでした。

矢野さんの経験されたことは、まさにこれらの柱が本当に必要なものだということを裏づけています。

「精神科の患者だから責任能力は問えない」と皆が及び腰になった(中には矢野さんを嘲笑した人すらいるそうです)のも、鑑定という仕組みがきちんと機能していない証拠です。本来は精神科の患者すべてに責任能力がないわけではないのですが、精神科の診察券を持っているだけで警察が無罪放免にするなど、いい加減な運用が目についてきました。これも、精神科患者に対する一つの偏見と言えるでしょう。

また、この領域があいまいなままになってしまっていることが、「精神障害者=危険」という偏見を生み、精神障害を持つ人のノーマライゼーションが進まないという問題意識も共有することができました。

「いわき病院事件」というのは矢野さんが使われている呼称ですが、精神衛生法を精神保健法に変えるきっかけになった「宇都宮病院事件」と同じように、今回の事件が、精神科医療の質を本当に高めるきっかけになれば、という思いでそう呼んでいるそうです。

誰もが「無理だ」と言う中、矢野さんご夫婦は息子さんへの愛情ゆえに、決して諦めずにここまでやってこられました。現在の民事訴訟も、「医療過誤訴訟は、医療側が圧倒的に有利」と言われる中で、果敢に取り組んでおられます。矢野さんが作成した膨大な量の資料を見せていただきましたが、どれほどのエネルギーを傾けておられるかがよくわかりました。資料のコピー代だけでも十万円単位のお金がどんどん出て行くということで、たまたま経済的・時間的にゆとりのある自分たちだからやっているけれども、普通の犯罪被害者にここまでのことをやるのは無理だと矢野さんはおっしゃっていました。

これだけエネルギッシュな活動をされている矢野さんですが、「息子を自分の会社で働かせなければ、あの日あのときに息子があの場所にいることはなかった。そうすれば息子は殺されずにすんだ」という罪悪感に苦しまれています。未だにお墓すら作れない精神状態だそうです。

11月25日から12月1日までが犯罪被害者週間となっていますが、日本でほとんど目を向けられてこなかった犯罪被害者の現状を直視する必要があります。

また、心神喪失者医療観察法案の審議のときに厚生労働大臣が約束した社会的入院の解消期限がどんどん迫ってきているというのに、病棟の看板を「退院支援施設」とかけ替えれば退院とみなそうとするようなおかしな行政が続いています。

矢野さんの体験については、ご著書「凶刃」(きょうじん)(ロゼッタストーン刊)をご覧ください。
また、どこにでも出向いて体験をお話しになる用意があるそうです。
「凶刃」は事件からわずか2ヶ月後に出版された本で、矢野さんの生々しい悲しみと怒りに満ちていますが、そんな中でも、加害者の親も不適切な医療の被害者と言えるのではないか、という公平な視点を失っていない姿に感銘を受けました。

学校仲裁所

 米国の中間選挙の結果は、米国滞在中、振り子を元に戻す生命力を感じていた私にとっては期待通りでした。振り子が振り切れてしまいそうな日本も、生命力を身につけていかなければなりません。

 さて、前回のメルマガに関連して、北海道・恵庭市議会議員で社会福祉士の藤岡登さんから大変勉強になるメールをいただきましたので、ご本人の許可のもと、ご紹介いたします。

 ノルウェーの学校仲裁所制度についてです。

以下、いただいたメールより引用==================

 先週、ノルウェーの福祉と教育を見てきました。ノルウェーはノーベル平和賞の国だけではなく、いじめを克服した国、とも言われています。そのヒントの一つが私たちが訪問した「学校仲裁所(School Mediation , Student Mediation…)」と言う制度ではないかと思いました。この制度はノルウェーだけでなく、世界各国に見られる制度のようです。ノルウェー政府は制度の導入当初全国で導入を試みたようですが、残念、政権が変わって(労働党政権が下野しました)、そのおかげで全国への波及は進んでいないと、訪問した学校で伺いました。
 
 制度のことを簡単に書きますと、もめ事の仲裁員(Mediator)がいます。もちろん生徒です。もめ事を起こした当事者は、双方の合意によって、この仲裁所へ行きます。仲裁員は裁判官ではなく、どちらが良いか悪いかの裁定をするものではありません。仲裁所のルール(①あったこと事実だけを言う②相手のことを悪く言うことから始めない③相手が話しているときに口を挟まない④相手を理解するよう努力する・・・などなど)に従って話し合いが行われます。仲裁員はこのルールが守られて話し合いが進められように、のウォーッチャーであり話し合いのファシリテーターです。大人は一切口を出しません。ここで劇的なことが起こります。話し合いを進めている内に、「相手によって傷ついたのは自分だけではない」事にお互いが気づくのです。

「相手のことを理解するように努力する」というルールは、とても大事なことのように思えました。この気付きで双方は、もめ事の時の自分たちよりも一段高いステージに自分たちを押し上げることになります。話し合いは自然に、「では同じもめ事が起きないためにはどうしたらよいか?」を提案し合うステージへと移ってゆきます。合意が出来たら文書化して双方と仲裁員がサインして終わりです。後日、話し合いの通りに進んでいるかのどうか、仲裁員に報告を求められることもあります。

 ここで大事なのは、大人が一切関与しないことです。もちろんノルウェーでも、もっと大きないじめや暴力も実際にはある、と聞きました。しかし、こうした積み重ねで、低学年のうちは仲裁所へ行って解決することが多くても、高学年になるとその場で、自分たちで問題を解決する様になるそうです。実際、この10年ほどの間で仲裁所に持ち込まれる件数は半減した、と説明を受けました。

 子どもは、「自身で問題を解決する力」を育てれば、大人に頼ることなく自分たちでもめ事を解決するようになります。これまで日本では、もめ事が起きたときに先生など大人が割って入って「ケンカは止めろ」と言ってきました。その場は収まっても、大人がいなくなると又、もめ事をぶり返すことになります。この過程で強いものがいじめて、弱いものがいじめられる構造が出来上がってゆきます。教育再生会議のように、ここにもっと強い大人が入り込むのですから子どもたちはこれをどう受け止めて新しい反応を示してゆくのでしょう? 不安ですね。
 
 学校仲裁所で、しっかりもめ事を解決する力を身につけた子どもたちが将来、政治家になったり外交官になったりしたら・・・あらゆる紛争は話し合いで解決できるよう、人類は新しい一歩を踏み出すことになるのではないでしょうか。ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥングの言う、「社会制度としての戦争を廃止しなければならない。専制政治や奴隷制、選民思想や植民地主義や家父長制などと一緒に歴史の排水溝に流してしまえ!」と言う社会が実現することになります。

=============引用終わり

 私はノルウェーの政策をたくさん学ばせていただいたというのに、学校仲裁所制度については知りませんでした。さすがノルウェー、こんな制度もあったのかという思いでおります。
この制度は、修復的司法と同様の手法のように思われます。単に善悪を裁くことは本当の意味での再犯防止にはならないし、被害者にとっても乏しい情報の中恐怖感だけが残る、という問題意識が修復的司法の出発点だと思いますが、現実にはまだまだ多くの課題を抱えています。より小さなコミュニティである学校こそ、まさに修復的司法の先駆けとして見本を示せるはずです。私がかつて視察したイギリスでも、修復的司法のトレーニングを受けた専門警察官がスクールポリスとして配置され、成果を上げていました。

カリフォルニア州オークランド市は、治安の悪いことで有名な市ですが、そのオークランドの修復的司法のプロジェクトはアティテューディナル・ヒーリングを中核に据えています。前回のメルマガで「アティテューディナル・ヒーリングはいじめの特効薬」と書きましたが、行政もそれを認識するに至ったというわけです。本当に効果的なことに向けて、世界各地で先進的な取り組みが始まっています。日本も、やらせ質問などで時間と資源を無駄に使っている場合ではありません。

新メールマガジン発行のご案内

いつもメールマガジンをお読みいただきありがとうございます。

このメールマガジン(無料版)は、今まで通り、水島広子の活動報告やオピニオンを伝えるために続けてまいりたいと思っております。

さらに、11月3日からは週刊の有料メールマガジン(月額 525円・税込み)「☆~こころの健康便~☆ 心の姿勢を変えれば、生き方が変わる」をスタートすることになりました。毎週金曜日にお届けします。

これは、アティテューディナル・ヒーリングや対人関係療法の考えをご紹介しながら、皆さまのご質問やご相談にお答えしつつ、こころが健康になるお手伝いをしようとするものです。

内容が役に立つと言っていただけるように努力いたしますが、アティテューディナル・ヒーリング活動へのカンパの意味も込めて一人でも多くの方にご購読いただければ幸いです。お知り合いにもご紹介いただけますようお願い申し上げます。

http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/51/P0005192.html

を訪れていただければ、ご登録いただけます。

水島広子のホームページ表紙の下の方からも、ご登録の手続きをしていただけます。

なお、当月無料というシステムになっていますので、10月・11月にご登録くださった皆さまは、11月分までは無料で読んでいただくことができます。

この無料メールマガジンも、不定期ですが、今まで通り続けてまいりますので、引き続きよろしくお願い申し上げます。

アティテューディナル・ヒーリングのワークショップを終えて

おかげさまで、10月14日(土)にアティテューディナル・ヒーリングの第一回ワークショップを終えることができました。

北は北海道、西は大阪からさまざまな方にご参加いただき、大変豊かな時間を共有できたと思います。

参加者の方のご感想を

www.ah-japan.com/kanso.htm

に載せてありますので、ぜひご覧ください。

今後のご参加をお待ちしております。(日程はwww.ah-japan.com/workshop.htmにて随時更新中)

対人関係療法ワークショップのお知らせ

以前から「対人関係療法のワークショップはないのか」というお問い合わせをいただいてまいりましたが、このたび下記の日程でワークショップ(専門家向け)を行うことになりましたので、お知らせいたします。

対人関係療法ワークショップ 入門編 ~対人関係療法の理論から実際~

日時: 2007年1月28日(日) 10:00-16:00(昼食休憩1時間)

対象: 専門家(メンタルヘルスに関わっている方、関わる予定の学生さん)

講師: 水島広子

場所: 水島広子こころの健康クリニック(東京都港区元麻布)

定員: 10名

参加費用: 10,000円(学生証をお持ちの方は7,000円)

  参加ご希望の方、お問い合わせは、メールあるいはファクス(03-3470-5355)でご連絡ください。

今後のワークショップのお知らせは基本的にホームページ上でさせていただきますが、今回は都合がつかないけれども今後参加を検討したいという方がいらっしゃいましたらご連絡いただければ、優先的にお知らせいたします。

テレビ出演のお知らせ

10月13日(金) 18:55~20:48、「所さんの こんな見方があったんだ! 天才脳強化スペシャル!」(TBS系全国ネット)にゲスト出演します。

本日収録をしてきましたが、大変勉強になる番組でお勧めです。私もたくさん勉強させていただきました。(そんなわけで、「天才脳」としての私自身の出番はパッとしませんでしたが)

普段はテレビを見ないという方も、おもしろい番組ですので、ぜひご覧ください。

山田みやこ総合選対結成大会および水島広子帰国報告会のお知らせ

来年4月8日の栃木県議会議員選挙に向けて、このたび山田みやこ議員の総合選対委員長を引き受けることになりました。

依頼を受けたときに、栃木県民でもない現在の自分の立場を踏まえて少々考えました。でも、2001年の県議補選にどうしても女性候補を、と考えて山田みやこさんにお願いして出ていただいたのは私ですし、その後の山田さんの活躍ぶりは、ぜひ引き続き3期目も務めていただきたいと思わせるものがあります。

市民派としての原点を全く見失わずに、政治家としての実力をつけてきた山田さんを、最近では本当に頼もしく拝見しています。

県民であるかどうかを超えて、ぜひ生き残っていただきたい女性議員として、自分にもできるだけのことをさせていただきたいと決意いたしました。

また、栃木は私にとってはすでに第二のふるさとですし、帰国後もしばしば立ち寄らせていただいています。栃木県のお役に立てることがあれば、素直に嬉しいと思います。

このたび、山田みやこさんの総合選対結成大会に私の帰国報告会も兼ねたものを開いていただけることになりました。
ご都合のつく方はぜひご参加いただけますよう、お願い申し上げます。

日時 2006年10月11日
   18時30分 ~ 20時
場所 コンセーレ 大ホール
   宇都宮市駒生1-1-6 電話 028-624-1417

ラジオ出演のお知らせ、児童虐待防止イベントのお知らせ

★ ラジオ出演のお知らせ

10月21日  栃木放送 「土曜・ちゃっかり亭」
14:00-15:00 「今日のお客様」のコーナー (番組全体は13:00-16:00)

★ 児童虐待防止イベントのご案内

毎年行われているイベントです。児童虐待防止に向けて、全国から集まった人たちが心を一つにします。私はアティテューディナル・ヒーリングのワークショップと重なってしまって残念ながら参加できませんが、ご都合のつく方はぜひご参加ください。

虐待死した子どもたちへの鎮魂の祈り&パレード
~子育て・子育ちに夢と希望をもてる社会を!~

日時:2006年11月11日(土) 13:30-16:00
(鎮魂セレモニー 13:30-14:30、パレード15:00-16:00)
会場:星陵会館(東京都千代田区永田町2-16-2)

虐待防止全国ネットワーク
http://www.geocities.jp/zenkokunet1/

パックインジャーナル

 本日は「愛川欽也のパックインジャーナル」に出演しました。自民党総裁選、消費者金融問題、タイのクーデター、東京都教育委員会に対する地裁判決、北朝鮮への経済「制裁」、ロシアの天然ガスプロジェクト「サハリン2」認可取り消し、と盛りだくさんでしたが、実にこれだけのことが短期間に起こっており、最近はニュースが多かったと言えます。

 それぞれ興味深い論点はあります。消費者金融問題は、このところすっかりグレーゾーン金利(利息制限法で上限金利は15~20%と定められているが、刑事罰を伴う出資法では29.2%が上限となっており、消費者金融はこの間のグレーゾーンで金利を設定してきた)問題一色になっていますがでは、そもそもの問題意識であったはずの消費者保護を考えれば、どこにも相談することができずに多重債務に陥り身動きがとれなくなっていく人たちの相談・救済窓口の整備こそが急務だと言えます。国民のこれだけ多くが借金漬けになっている現状は明らかに異常であり、長い目で見た取り組みが必要です。借金漬けの中には病的と言えるものもあり、法律相談だけでなく心理相談も必要だと私は考えていますが、同時に、低金利の融資を受けられない「経済弱者」も重要な問題です。経済強者は有利な融資を受けてさらに成長し、経済弱者は高利貸しから借金して自滅する、という現象が起きているわけです。格差が広がる社会の中で、この点はしっかりと押さえておくべきです。

 北朝鮮への経済「制裁」にしても、本日の番組で田岡さんが指摘されていたように、本当は経済制裁ではないという事実関係の問題もあります。国連の安保理決議は決して制裁決議ではなく、それに基づいて日本が行ったものも、いわゆる経済制裁ではないのです。それを国内向けに「経済制裁をした」と総裁選前日に宣伝するのですから、おかしな話です。また、たいした実効性はないけれども北朝鮮を刺激することを、どういう戦略の中で打ち出しているのか、大きな疑問です。

 今日の番組で、「こんなことをやっているうちに北朝鮮が核実験でもしたらどうなるか」という話がありました。愛川さんなどは「やっぱり悪い国だった。言ったとおりだった」と安倍さんのポイントになるだろう、という読みでした。田岡さんは「いや、こんなことをして刺激したから核実験までさせてしまった」とマイナスポイントになるべきだ、と言っていました。正論は田岡さんの言うとおりだけれども実際にはプラスポイントになってしまうところが、まさに日本の「平和ボケ」なのでしょう。

 一般社会の中では、明らかに暴力的な人を見れば、その人と揉め事を起こさないようにする、というのが普通の智恵だと思います。どんどん相手を煽って、ひどい暴力を振るわれて、「ほらやっぱり悪い人だった。言ったとおりだった」と拍手喝さいになる、などということはないでしょう。北朝鮮に関して慎重姿勢の韓国を日本も見習うべきだと思います。以前から言っていますが、今どきは平和主義者の方が現実主義者であって、武力行使主義者は現実を知らない「理想」主義者(要は平和ボケ)なのだと思います。自分の言い分だけを一方的に叫ぶのではなく、相手の状況や特徴を十分に観察して最も効果的な戦略を立てる必要があります。「言うべきことは言う」というだけの平和ボケの人が首相になってしまうのだから心配です。

 タイのクーデターですが、民主的な選挙を野党がボイコットし政局を混乱に陥れ、軍部の介入を招き、最後は国王に調停してもらう、というのは、民主主義を考えると何とも情けない話です。私はタイを頻繁に訪れて国民性を知っているのである程度納得はできるのですが、やはり民主主義を成熟させようと思えば、その中で自分が果たす役割に責任を持つ必要があると思います。

 ただ、これは単なる他国の話ではなく、日本でもこの頃、サイパンの韓国人慰霊塔を訪問したり、東京都教育委員会の日の丸・君が代強制に対して「強制でないことが望ましい」と発言したり、という天皇の言動を見て、政治家よりもはるかにバランスのとれた人間的な感覚にホッとしているのは私だけではないと思います。一般に、政治家にはタカ派的な言動を求め、天皇にはバランスのとれた「人格」を求める、という傾向があるように感じています。政治家こそバランスの取れた人格が必要だと思うのですが・・・。

 パックインジャーナルは、司会の愛川さんをはじめ、ほかのコメンテーターの方たちも安心して話を聞いていられる方たちが多いので、私もただ聞きほれてしまいますが、権力から独立した唯一のメディアとして、これからもがんばってもらいたいです。安倍次期首相はメディアへの圧力をかけることで有名なので、なおさら、このような良質な番組には生き残ってほしいものです。皆さまもぜひ応援してください。

アメリカ報告25 ――ハワイ報告・イハラ議員(その3)

 私はイハラ議員に出会って、初めて「尊敬する政治家」と言える人を見つけたと思いました。今まで、選挙前のアンケートなどで尋ねられても該当する人がおらず、困っていたのです。
 
イハラ議員の特徴は、なんと言ってもその精神性にあります。
 イハラ議員の選挙区ではないハワイの人に「イハラ議員を知っているか」と聞いたところ、その人は政治に詳しい人ではなかったにもかかわらず、「知っている。とても尊敬されている政治家だ。『高潔』を体現した政治家だと考えられている」と答えました。

 まさに、イハラ議員は「高潔」のために生きているような人です。私生活と政治生活の一貫性などは当たり前です。全ての行動が、自分の「高潔」を高めるためのものになるように生きていると言います。そして、その態度を貫きながら政治活動を続けていく、というのは、一つの実験だと思ってやっているそうです。

 政治家としての投票行動は正直です。一人だけ賛成することも、一人だけ反対することもあるそうです。また、党派を超えて協力できる人とは協力します。これらもすべては「高潔」を高めることにつながります。
 
 ブッシュ大統領については、「彼のことも本当に愛そうと努力している」とのこと。その理由は、「アメリカ人は今まで政治的に眠っていた。ブッシュのおかげで、不安を基盤にしたやり方が全くうまくいかないということに皆が気づいて目が覚めた。いろいろな草の根の活動が始まっている」とのことです。

 イハラ議員は、政治家になるときに、自分の心と身体とスピリットをしっかりと守っていこうと自分に誓ったそうです。そのため、自分を忙殺することはしません。議会では精力的に働きますが、自分の誓いを破るようなことは決してしないそうです。これは、健康維持のための時間をきちんととるということでもありますし、有害な精神状態を引きずらないように、出合うことを日々許しながら生きていくということでもあるそうです。
 
 私の議員時代に、選挙区での会合出席をどうしても断れず、ほとんど私生活がなかった(それでも小さな子どもを抱えた私は議員の中では私生活があった方だと思いますが)、ということを話したところ、「それは共依存で、病的なことだ」と驚いていました。確かにその通りで、政治家に見捨てられたくない(顔をつぶされたくない)有権者と有権者に見捨てられたくない(落選したくない)政治家の共依存状態なのだと思います。

 選挙そのものはきちんとした分析に基づいて活動をするそうですが、ネガティブキャンペーンをどうしているかと尋ねると、「それは自分についてより詳しく説明するチャンスを与えられたと捉える」そうです。怒りもせず、無視もせず、きちんと説明するそうです。また、選挙の質を高める(=有権者により質の高い選択肢を与える)ことに責任を果たそうと決意しており、相手が卑劣なことをしたときには直接携帯に連絡をして説明を求めることもあるそうです。

 イハラ議員は、上級裁判所で行われた修復的司法の催しにも私を連れて行ってくれました(現職裁判官が法廷を使ってそのような催しを積極的に開いているのですごいと思いました。ちなみに、その日は音楽を使った活動をしている人たちがゲストだったので、法廷で初めてギターを聴きました)が、いくら話しても話が尽きませんでした。年も性別も国籍も違いますが、「私たちは政治的な双子のようだ」ということを確認して別れました。今まで日本に来たことがないそうですが、今度は必ず来てくれるそうです。9月の選挙を前に、「すっかり出遅れている」そうですが、必ず当選することを祈ります。 

イハラ議員のホームページ
http://www.capitol.hawaii.gov/site1/senate/members/sen9.asp

★ 日本に帰国します ★

 25回にわたるアメリカ報告をお読みいただきありがとうございました。米国では、アティテューディナル・ヒーリングを深く学べたのみならず、すばらしい人たちとめぐり会い、大変充実した半年間を過ごせたことに心から感謝しております。おかげさまで子どもたちも驚くほど成長しました。7月23日に米国を発って日本に帰ります。久しぶりの日本なので適応できるか心配ですが、また自分にできることをやっていきたいと思っています。メルマガはまたしばらく不定期になると思いますが、今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。