学校仲裁所

 米国の中間選挙の結果は、米国滞在中、振り子を元に戻す生命力を感じていた私にとっては期待通りでした。振り子が振り切れてしまいそうな日本も、生命力を身につけていかなければなりません。

 さて、前回のメルマガに関連して、北海道・恵庭市議会議員で社会福祉士の藤岡登さんから大変勉強になるメールをいただきましたので、ご本人の許可のもと、ご紹介いたします。

 ノルウェーの学校仲裁所制度についてです。

以下、いただいたメールより引用==================

 先週、ノルウェーの福祉と教育を見てきました。ノルウェーはノーベル平和賞の国だけではなく、いじめを克服した国、とも言われています。そのヒントの一つが私たちが訪問した「学校仲裁所(School Mediation , Student Mediation…)」と言う制度ではないかと思いました。この制度はノルウェーだけでなく、世界各国に見られる制度のようです。ノルウェー政府は制度の導入当初全国で導入を試みたようですが、残念、政権が変わって(労働党政権が下野しました)、そのおかげで全国への波及は進んでいないと、訪問した学校で伺いました。
 
 制度のことを簡単に書きますと、もめ事の仲裁員(Mediator)がいます。もちろん生徒です。もめ事を起こした当事者は、双方の合意によって、この仲裁所へ行きます。仲裁員は裁判官ではなく、どちらが良いか悪いかの裁定をするものではありません。仲裁所のルール(①あったこと事実だけを言う②相手のことを悪く言うことから始めない③相手が話しているときに口を挟まない④相手を理解するよう努力する・・・などなど)に従って話し合いが行われます。仲裁員はこのルールが守られて話し合いが進められように、のウォーッチャーであり話し合いのファシリテーターです。大人は一切口を出しません。ここで劇的なことが起こります。話し合いを進めている内に、「相手によって傷ついたのは自分だけではない」事にお互いが気づくのです。

「相手のことを理解するように努力する」というルールは、とても大事なことのように思えました。この気付きで双方は、もめ事の時の自分たちよりも一段高いステージに自分たちを押し上げることになります。話し合いは自然に、「では同じもめ事が起きないためにはどうしたらよいか?」を提案し合うステージへと移ってゆきます。合意が出来たら文書化して双方と仲裁員がサインして終わりです。後日、話し合いの通りに進んでいるかのどうか、仲裁員に報告を求められることもあります。

 ここで大事なのは、大人が一切関与しないことです。もちろんノルウェーでも、もっと大きないじめや暴力も実際にはある、と聞きました。しかし、こうした積み重ねで、低学年のうちは仲裁所へ行って解決することが多くても、高学年になるとその場で、自分たちで問題を解決する様になるそうです。実際、この10年ほどの間で仲裁所に持ち込まれる件数は半減した、と説明を受けました。

 子どもは、「自身で問題を解決する力」を育てれば、大人に頼ることなく自分たちでもめ事を解決するようになります。これまで日本では、もめ事が起きたときに先生など大人が割って入って「ケンカは止めろ」と言ってきました。その場は収まっても、大人がいなくなると又、もめ事をぶり返すことになります。この過程で強いものがいじめて、弱いものがいじめられる構造が出来上がってゆきます。教育再生会議のように、ここにもっと強い大人が入り込むのですから子どもたちはこれをどう受け止めて新しい反応を示してゆくのでしょう? 不安ですね。
 
 学校仲裁所で、しっかりもめ事を解決する力を身につけた子どもたちが将来、政治家になったり外交官になったりしたら・・・あらゆる紛争は話し合いで解決できるよう、人類は新しい一歩を踏み出すことになるのではないでしょうか。ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥングの言う、「社会制度としての戦争を廃止しなければならない。専制政治や奴隷制、選民思想や植民地主義や家父長制などと一緒に歴史の排水溝に流してしまえ!」と言う社会が実現することになります。

=============引用終わり

 私はノルウェーの政策をたくさん学ばせていただいたというのに、学校仲裁所制度については知りませんでした。さすがノルウェー、こんな制度もあったのかという思いでおります。
この制度は、修復的司法と同様の手法のように思われます。単に善悪を裁くことは本当の意味での再犯防止にはならないし、被害者にとっても乏しい情報の中恐怖感だけが残る、という問題意識が修復的司法の出発点だと思いますが、現実にはまだまだ多くの課題を抱えています。より小さなコミュニティである学校こそ、まさに修復的司法の先駆けとして見本を示せるはずです。私がかつて視察したイギリスでも、修復的司法のトレーニングを受けた専門警察官がスクールポリスとして配置され、成果を上げていました。

カリフォルニア州オークランド市は、治安の悪いことで有名な市ですが、そのオークランドの修復的司法のプロジェクトはアティテューディナル・ヒーリングを中核に据えています。前回のメルマガで「アティテューディナル・ヒーリングはいじめの特効薬」と書きましたが、行政もそれを認識するに至ったというわけです。本当に効果的なことに向けて、世界各地で先進的な取り組みが始まっています。日本も、やらせ質問などで時間と資源を無駄に使っている場合ではありません。