11月29日、NPO法人フローレンス(東京都中央区)にお招きをいただいたので訪問し懇談してきました。今後の日本の社会作りに向けて可能性を感じましたので、ご報告します。
私は常々子育て・子育ちのカギは地域だということを述べてまいりました。家庭の子育て力は地域の子育て力に比例するものであって、現在落ちているのは「家庭の子育て力」ではなく「地域の子育て力」なのだ、ということを国会でも発言してきました。私が労働政策で重点を置いている「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)」も、本人の生活の質を上げると同時に、地域において「自分の子ども以外の子どもを気にかけられる大人をどれだけ増やすか」ということが、その発想の根底にあります。
でも、地域の再生、ということを考える場合に、日本にはこれといったモデルがなかったことも事実です。その鍵を握るのは専門性を持つNPOなのだろうということはわかっていましたが、行政に分断されてしまったりして、なかなか具体的なモデルに出会えずにきました。
フローレンスは、その一つのあり方を示しているNPOだと思います。
そもそも、設立のきっかけがユニークです。代表理事の駒崎弘樹さんはITベンチャーを経営していた新進気鋭の二十代ですが(写真私の右隣の青年が駒崎さん)、彼のお母さんがベビーシッターをなさっていたことから、子どもが熱を出して仕事を休んだことが理由で解雇された人の話を聞き、「病気の子どもの面倒をみるという当たり前のことをしたのに、なぜ仕事を辞めなければならないのだろう」という素朴な疑問を抱いたことがそもそものきっかけだったそうです。そして、病児保育の現状を調べ、現状に適していない補助金制度の問題もあり、ほとんどが赤字経営で伸び悩んでいる、ということを知り、持続可能なモデルを自分で作ってみようと思ったそうです。その際にイメージしたのは、「近所の助け合い」。駒崎さん自身、お母さんが働いていましたが、病気の時には、同じ団地に住む方が面倒をみてくださったそうで、そのような地域を再構築するということがフローレンス事業のイメージなのです。
現在、フローレンスは、「子どもレスキューネット」という病児保育事業を第一の柱としています。子どもが病気なので助けてほしいという連絡をフローレンスにすると、スタッフ(有償ボランティア)が駆けつけて、まず病院に連れて行ってくれ、保育園に預けることが無理な状態であれば、子育て経験豊かなスタッフが自分の家で看護する、という仕組みになっています。会員になった子どもは、事前にスタッフの自宅を訪問し、スタッフとその環境に慣れ親しむ機会を持ち、スタッフ側でも、その子の健康状態などを把握しておきます。病気になったときに突然知らない人に預けられる、というわけではないところも重要なポイントです。看護するスタッフには医療資格は問いませんが(病児保育についての研修制度はあり)、提携小児科医が常に電話連絡をとれる態勢にあります。
入会時に1万円、月会費4000円~(健康状態によって多少の差あり)を払うと、月1回までの利用は無料。2回目からは、1時間あたり1000円、という体系です。(送迎のための交通費は別体系)
定員40名のところ、希望者が200名もおり、現在160名が待機中という状況。子どもの面倒をみるための有償ボランティアの数が一番の弱点で、現在広報戦略を練っているところだそうです。
フローレンスのバランスが良いと思ったところは、病児保育だけに特化していないところです。病児保育については、常に、「大人側の都合ばかりに子どもを合わせて良いの?」という疑問がついて回るものだからです。病気のときくらい、自分の家庭で親と共に過ごすことが許されても良いのではないか、ということです。どうしてもというときのための病児保育は必要ですが、本来は、大人の働き方を改善することで対処すべきだというのが正論です。育児休業・介護休業法の改正で、わずか年5日間の看護休暇は制度化されましたが、今の日本の現状を見れば、それが本質的な解決になっていないことは一目瞭然だと思います。
フローレンスでは、中小企業だけを対象として、ワーク・ライフ・バランスのコンサルティング業務を始めています。このコンサルティングは、イギリスでは政府が率先してやっていることですが、ワーク・ライフ・バランスを福祉という視点だけで見るのではなく、むしろ、それぞれの労働者の満足度・安心感を高めることによって、労働生産性を上げて国際競争力を高めようという考え方です。イギリスでは、貿易産業省が担当しています。イギリスでは、在宅勤務やフレックスなどを導入してワーク・ライフ・バランスを改善したところ、企業の収益性も高まった、というデータもあります。日本にはそのようなデータがなかったこと、大手先進企業の実例を挙げても、「そういうところは恵まれた企業だからできるのでしょう」と言われて終わり、というような状況が続いてきました。
フローレンスでは、本来、ワーク・ライフ・バランスなどほとんど無縁そうな中小ベンチャー企業を相手に、コンサルティング事業を展開し、ワーク・ライフ・バランスを改善することによって生産性が高まるというデータを作ろうとしています。データを集積すれば、日本の「常識」が打ち破られることになるでしょう。応援したい活動です。
現在では、単なる病児保育にとどまらず、「フローレンス・パック」として、より「地域」を意識した総合プランも準備されています。地域の再構築、そして、ワーク・ライフ・バランス、という、今の日本でもっとも重要なテーマに真正面から取り組んでいるフローレンスの皆さんに、新しい可能性を感じました。
今のように、政治が国民の代弁者としての機能を失ってしまっているときこそ、NPOが伸びるときなのかもしれません。
なお、フローレンスには、今年はじめには厚生労働省も「参考にしたい」と話を聞きに来たそうです。フローレンス自身は、補助金行政には組み込まれていません。それは、補助金目当てに、結局は使い勝手の悪い、持続不可能なものになってしまうのでは、本来の趣旨に反する、という代表理事の判断だそうで、こうした毅然とした姿勢にも、可能性を感じたところです。
現在、東京都江東区と中央区で事業を展開していますので、ご在住の有償ボランティアをご紹介いただければ助かると思います。(子育て経験があり、意欲がある方)
今後、東京都23区全体に展開していく予定とのことです。
12月10日には「子どもの村」のシンポジウム(京都)に参加しますが、「子どもの村」は、虐待をされた子どもたちが大規模施設に収容され続ける現状を改善するために立ち上がったNPOです。また、私が支援を続けてきているチャイルドライン、自立援助ホームなど、質の良いNPOが力を伸ばし、連携していくことによって、地域を新しい形で再構築していくことができるだろうと思っています。
その際に、フローレンスの理事の方たちのように、マーケティングやITなど、営利事業でも十分に通用する専門性を持った人材がNPOで活躍していただけると、可能性がさらに広がるのだということを感じさせられた日でした。
フローレンス ホームページ http://www.florence.or.jp/