「トラウマの現実に向き合う ― ジャッジメントを手放すということ」刊行しました

「トラウマの現実に向き合う ― ジャッジメントを手放すということ」
という本を刊行しました。
治療者向けの本ですが、一般の方にもお読みいただける内容です。

トラウマにご関心のある方はもちろん、評価(ジャッジメント)を手放すということにご関心のある方、ゆるしにご関心のある方にもお勧めできます。

比較的著者の思い入れの強い本ですので、ご一読いただけると嬉しいです。

トラウマの現実に向き合う ― ジャッジメントを手放すということ

岩崎学術出版社

定価 2100円(税込)

アマゾンで購入する方は
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4753310140?ie=UTF8&tag=mizucx-22&linkCode=xm2&camp=247&creativeASIN=4753310140

★★★ 目次

はじめに
 
第1章 「不信」という現実に向き合う──治療の土台づくり

第2章 「コントロール感覚の喪失」という現実に向き合う──治療のメインテーマ

第3章 「病気」という現実に向き合う──治療の位置づけ

第4章 「文脈」という現実に向き合う──トラウマの位置づけ

第5章 「身近な人たち」の現実に向き合う──トラウマと対人関係

第6章 「ジャッジメント」の現実に向き合う──燃え尽きを防ぐ

第7章 治療者自身の現実に向き合う──自らの価値観やトラウマ

第8章 「トラウマ体験」という現実に向き合う──ゆるすということ

 
★★★「はじめに」より抜粋

 トラウマ治療において、「安全」というテーマを終始一貫して守ることは生命線だと思う。これは特定の戦略や技法以上にずっと大切なことである。もちろん特定の戦略や技法は効果的な治療のための必要条件だとは思うが、十分条件ではない。そもそもが、「持続エクスポージャー療法など、トラウマ関連の病気に対する治療法を知っていること」と、「実際に臨床の場でトラウマ体験者の役に立つこと」とは必ずしも一致しない。

 治療関係も一つの人間関係である以上、「信頼」というテーマを抱えたトラウマ体験者にとって、治療に入るということは多大なる勇気を必要とする場合も少なくない。患者に初めて会ってから、「トラウマ関連の病気に対する治療法」に入るまでの間が、ある意味では最も治療的なプロセスを要するとも言える。

 治療導入の難しさだけでなく、一歩間違えると、すでに傷つきやすくなっている人をさらに傷つけ、すでに対人不信を持っている人をさらに対人不信に陥らせてしまう。また、治療者側の姿勢によっては、容易に燃え尽きてしまう領域でもある。「どのような姿勢でトラウマ体験者に向き合うか」ということは、個別の治療戦略や技法よりもさらに本質的に、治療の成否に関わることだと思う。個別の治療戦略や技法について言えば、そもそも、どんな治療法も万能ではなく(そしてそれを用いるどんな治療者も万能ではなく)、ある患者にとってある治療者によるある治療法の効果がうまく出ない、ということは当然起こりうることである。

 本書を通してトラウマ治療に向き合う治療者の姿勢について考えていきたいが、今までに多くのトラウマ体験者に関わってきた経験からは、その鍵は、「治療者は病気の専門家ではあるが、人間の専門家ではない」というところにあると私は思っている。治療者が立ち入れるのは、病気に関する部分だけである。その点を忘れてしまい、人間としての相手に評価を下してしまうところにさまざまな問題が起こってくるのだと思う。そこに支配関係が生まれたり、新たなトラウマが発生したり、治療への絶望感が起こったり、治療者の燃え尽きが生じたりするのだ。「治療者は病気の専門家」という部分は、成功する治療を支える重要な要素であり、決して軽視すべきことではない。しかし、それが本当に発揮されるのは、「治療者は人間の専門家ではない」という部分が十分に認識されたときなのだと私は信じている。これは実はどんな病気についても言えることだが、ことトラウマ関連の病気については特に意識すべきことだと思う。

 本書ではこの点を掘り下げながら、トラウマに向き合う治療姿勢について考えていきたいと思う。トラウマを持つ人の役に真に立ちたいと思っている方、自らの燃え尽きや苛立ちを感じつつある方のお役に立てば幸いである。