アメリカ報告5 ―― ゲイのカウボーイ映画

 このタイトルに「?」と思われた方もいらっしゃるかと思いますが、実は、今アメリカで大変ホットな話題になっているのがこの映画です。

 Brokeback Mountainという映画なのですが、単なるカウボーイ映画かと思いきや、実はゲイの恋愛映画、というものです。なぜ話題になっているのかというと、アメリカでは、(ブッシュ大統領を見ればわかりますが)カウボーイというのは「男らしさ」の象徴。そのカウボーイがゲイだという設定そのものが、一部の人たちには受け入れがたいことになっているのです。

 聞くところによると、すでにユタ州ではこの映画を上映禁止にしたそうです。「そんなの憲法違反では?」とアメリカ人に質問してみましたが、「ユタでは14歳の少女との結婚が許されているのだ。あそこは私的クラブみたいな州だから、自分たちが決めれば何でも許されるらしい」との答えでした。
 とにかく、そのくらいに、赤の州(赤は共和党の色。赤の州というのは、大統領選でブッシュが勝った、保守的な州ということ。ちなみに、青は民主党の色で、カリフォルニアは青の州ということになります)を中心として反発が強いそうなのです。

 ただ、12月9日にたった6つの映画館(もちろん、サンフランシスコ、ニューヨーク、ロサンゼルスといった場所の映画館)で封切られたこの映画は、先週は683軒の映画館で上映されるまでに広がってきています(それでも、人気映画に比べればまだまだ3分の1以下という規模だそうです)。サンフランシスコやニューヨークだけではなく、リトルロック(アーカンソー州)やバーミングハム(アラバマ州)といった南部の都市でも予想以上に多くの人が観たそうで、アメリカが今や単に「赤の州」「青の州」に分けられるわけでもない、ということを示しているようです。
 この映画が今年のアカデミー賞のオスカーを受賞する可能性が高い、ということになって、騒ぎが大きくなっているようです。オスカーを受賞すれば、もっと多くの映画館が上映するようになり、「アメリカにゲイが広がる」と懸念している保守層がいるとか。ゲイについて全く理解していないといわざるを得ませんが、それほど恐怖が強いようなのです。

 私はまだ観ていませんが、実際に観た人の話を聞くと、「とにかく素晴らしい映画で、偏見が全くなくなった」という人から、「陳腐なラブストーリー。ゲイに対する偏見はもともとないが、映画としてはつまらない」という人まで、さまざま。ただ、ゲイも要するに人を愛する人間なのだということを描き出し、これだけ社会的な議論を引き起こしたという点では、やはり優れた映画なのだと思います。機会があったらぜひ観てみたいと思っています。