「社会保障と憲法」について○水島小委員 民主党の水島広子でございます。 本日は、中村参考人、小塩参考人、お忙しい中、貴重なお話をいただきましてありがとうございます。 私からも早速質問をさせていただきたいと思います。 まず、原則的なことについてちょっとお伺いしたいんですけれども、憲法二十五条に規定をしております生存権、これは本当に、これからいよいよ貧富の格差が広がっていきそうな日本の中で、日本がきちんと守っていかなければいけない重要な条項ではないかと私は思っているわけでございますけれども、先日も、たしか森喜朗さんが、何だか、子供も産んでいない女性が後で税金でお世話になろうとは何だとか、そういう発言をされたとも聞いておりますし、また、人によっては、子供も産んでいない人が介護保険のことを論じる資格などないと言ってみたりとか、時々そういう政治家の方による暴言のようなものが耳に入ってくるわけでございます。 これらの発言は、やはり憲法第二十五条の生存権ということを考えますと、基本的に憲法に違反する発言と考えてよろしいんでしょうか。 中村参考人、小塩参考人、両参考人に確認させていただきたいと思います。 ○中村参考人 具体的なことが憲法違反かどうかは、ちょっと差し控えさせていただきます。 ○水島小委員 別に森さんの発言が云々、そういうことではなくて、やはり子供を産んでいる人、産んでいない人、いろいろな人がいるわけですけれども、そういう人たちが、結局、老後、自分がどんな健康状態になろうと経済状態になろうと、それはきちんと税金なりなんなりで公的に最低限の生活を保障される権利を持っているというのが日本国憲法の考え方であって、子供を産んでいない人は税金でお世話になっていけないというのはこれに反するものだという、その一般的なところだけ確認したいんです。 ○中村参考人 二十五条は、すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営むということでございますので、これは全く……。 それから同時に、二十五条の規定は、十四条の法のもとの平等の規定がありまして、当然、生存権というのは同時に法のもとの平等というのと密接不可分な関係がありますので、おっしゃった趣旨はそのとおりだと思います。 ○小塩参考人 私は経済の専門家ですので法律のことはよくわからないんですけれども、一般的なことを申し上げますと、女性もそうです、男性もそうなんですけれども、子供をどれだけ産み育てるか、あるいは結婚をするしない、そういうのを全部含めてライフスタイルをどういうふうに選択するかというのは完全に個人の自由ですので、そこに公的な制度がバイアスをかけるというのは問題ではないかと思います。 ただ、子供を産み育てるということに対して社会全体で支援していきましょうというのは、結果的に見ると子供を産み育てるという行動にバイアスをかけますけれども、それは是認していい、もっと積極的に進めていい方向ではないかというふうに考えております。 ○水島小委員 答えにくい質問だったと思いますけれども、ありがとうございました。 次に、二十五条、どうしてもやはり生存権ということになりますと、生活保護を初めとした制度との関係が深くなるということは中村参考人もるるお話しになったとおりなんですけれども、私自身も精神科医をやっておりましたので、病気を機に家族から縁を切られてしまった患者さん、生活保護からまた社会復帰へと、そのようなプロセスを一緒にたどった経験を持っております。 生活保護を受けるというのはやはりまだまだ偏見もございますし、また役所の窓口での対応というのも非常に厳しいものがありまして、本当にもうぎりぎりのところまで身をはがれてやっと生活保護が受けられる。 その時点では、人間としての尊厳も奪われるような、そんな発言を聞かされることもあるわけでございます。 私は、生活保護を受ける際に嫌みを言うエネルギーがあるのであれば、そのエネルギーをもっと就労支援とか自立支援に向けていくべきだと思っておりまして、この生存権という権利はもう権利としてきちんと確保した上で、そのほかに例えば働く権利であるとかいろいろな権利があるわけですから、それらをもっとプラスの方向に発揮していくべきだと思っております。 そうやって考えてみると、非常に現行の制度にはまだまだいろいろな制度間の隔たりがあるなと感じておりまして、例えば母子家庭の方たちに対する児童扶養手当の問題を見ましても、これから削減される方向に行く。 今どうにか働いていて、勤労収入と児童扶養手当で何とかぎりぎりの生活をしている母子家庭の方たちが、児童扶養手当を失うことによってそのトータルの収入を確保できなくなって結局生活保護世帯になっていくというふうに、そこの間にはかなり生活の大きな隔たりがあって、その制度間を非常に弱い立場の方たちが右往左往しながら振り回されているというような印象を持っているわけです。 やはりそのあたり、もう少しこの二十五条の精神を前向きに生かして、憲法二十五条だけではなくて勤労の権利もあるわけですけれども、そのようないろいろな権利をきちんと享受できるように現行制度をもう少しスムーズなものに変える必要があるのではないかと立法府として感じているわけですけれども、そのあたりは中村参考人はいかがお考えでいらっしゃいますでしょうか。 ○中村参考人 今おっしゃったことは私も基本的に賛成でありまして、二十五条の生存権を具体化するに当たって、戦後はやはり生活保護から出発したという、これは他の社会保障制度が未成熟であったということからそうだったと思うんです。 その後、社会保険制度が公的年金、健康保険を含めて充実し、さらに社会福祉の領域というのは最近特にまた充実させてきておりますので、やはり社会福祉なり社会保険が充実することによって、生活保護というのはやはり最後の手段であると思いますので、できるだけその生活保護の最後の手段というのはもう最後の手段として使われるということで、他の社会保障制度をやはり豊かにしていくということが基本的な考えとして必要だと思います。 それから、同時に、二十七条の勤労権と申しますか労働権といいますか、やはり仕事をまず各人が持てるようにするということが大事、まず第一で、もともと生活保護も勤労できる場合には勤労するということが前提になっておりますので、まずは勤労権を保障するという視点がやはり大事だと私も思っております。 ○水島小委員 次に小塩参考人にお伺いしたいと思います。 年金と生存権の関係ということでお話をいただいたわけでございます。 先ほど最低保障、先生のお言葉で言うと、今度それを基礎年金でということなんですが、とにかく最低保障年金に当たるものと生活保護との関係で大体目安をお話しになったわけです。 先ほど先生、基礎年金の水準、一人六万七千円、これは老夫婦二人で生活保護だとこのくらいということで大体一致するとおっしゃったんですけれども、ちょっと細かい質問になりますが、単身の場合はどのようにお考えでいらっしゃいますでしょうか。 ○小塩参考人 これはあくまでも二人のケースでして、単身になりますと、単純に二で割るというわけではなくて、もう少し高目になる水準を基礎年金として与えるべきじゃないかという議論は出てきて当然だろうというふうに思います。 ○水島小委員 次に、先ほど先生ちらりとお触れになったんですけれども、女性と年金について、これは大きなテーマになりますが、先ほど第三号被保険者のこともおっしゃっておりました。 やはり女性の方が婚姻状態によってかなり老後の経済状況を大きく左右されたり、また賃金格差も大きいですので、厚生年金だからといって必ずしも満たされているわけではないわけでございますが、主にこの第三号被保険者のあたりに特定してまいりまして、女性と年金について先生がどのようなお考えをお持ちかというのが一つ。 あともう一つ、もう時間もなくなってきますのでまとめてお伺いしますけれども、今、スウェーデン方式の年金制度というものが注目をされているわけでございますが、これは、最低保障年金と所得比例の一階建て方式の年金、私は所得の捕捉がきちんとできるのであればかなり理想的な年金制度ではないかと思っておりますけれども、このスウェーデン方式の年金についての先生のお考えをあわせてお聞かせいただきたいと思います。 ○小塩参考人 一番目の女性と年金の問題なんですけれども、一番大きな問題は第三号被保険者の存在、それから遺族年金の問題なんです。 私は、先ほど少し指摘させていただきましたけれども、女性の方々がどのようなライフスタイルを選択しようが、年金という仕組みが一つの方向にバイアスをかけてはいけないというふうに考えております。 そういたしますと、現在の第三号被保険者問題というのは非常に大きな問題を抱えているというふうに思いますし、それから、遺族年金の場合も、離婚する、しないで数字が変わってくるとか、あるいは拠出実績が十分反映されないというふうな問題があるというのも承知しております。 そういうようなことを考えると、最終的には年金は、全部ではないと思うんですけれども、個人単位の仕組みに変えていくべきではないかというふうに考えております。 これが一番目の御質問に対するお答えです。 それから、二番目のスウェーデン方式についてでございますけれども、このスウェーデン方式はいろいろなところで注目されているわけなんですけれども、私も積極的に日本でも検討をしていいのではないかというふうに考えております。 先ほどの御指摘のほかにも、例えば財政均衡調整方式と申しまして、できるだけ若い人たちの支払った保険料の範囲内でやりくりをしましょうという仕組みも一部日本でも導入が考えられていますけれども、それは非常に重要な仕組みだろうと思いますし、それから、若いときの拠出実績と年金の水準がなるべく連動するようにしましょうというふうな仕組みも今までの日本の中では余り重視されていなかった面だろうと思いますので、それも参考になるというふうに考えております。 ○水島小委員 どうもありがとうございました。 |