厚生労働委員会
(2003年5月28日)



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労働基準法改正案に関して





○中山委員長
 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。
水島広子君。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 本日は、この労働基準法改正に関しまして、主に有期雇用の部分についての質問をさせていただきたいと思っておりますので、大臣、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 まず初めに、有期雇用というものに関しての大臣の全体的な認識をお伺いしたいと思います。
 坂口大臣は、五月六日の本会議におきまして、有期契約労働者の多くが契約の更新を繰り返すことにより一定期間継続して雇用されている現状等を踏まえ、上限の延長を行おうとするものであり、これにより、有期労働契約により働く労働者においては、三年の契約締結が可能となることにより労働者の雇用の選択肢が拡大し、雇用の安定が図られ、長期的視点からの能力やキャリア形成が可能となるといったメリットがあると、そのメリットについて答弁をされているわけでございます。
 では、坂口大臣は、上限を延長することについてのデメリットはどのようなものであると考えられているでしょうか。

○坂口国務大臣
 おはようございます。
 有期労働契約期間の上限延長に伴うデメリットについてお話がございましたが、現在いろいろ懸念をされておりますことは、一つは、期間の定めのない労働者にかえて有期契約労働者を雇用したり、有期労働契約が事実上の若年定年として利用される可能性があるのではないかというのが一つ。
それからもう一つは、一年を超えるようなより長期の有期労働契約を締結した場合には、契約期間の途中でさまざまな事情の変化が起こる可能性が高いにもかかわらず、そのような場合にも中途解約ができずに、不当に労働者が拘束されるおそれがあるのではないか。
この二つのことが懸念として示されているというふうに思っております。
 過去のいろいろの裁判例等を見ましても、この辺につきましてはさまざまな角度からの最高裁あるいは高等裁判所等からの判決も出ておるところでございまして、かなりこの辺も整理をされてきているというふうに思っている次第でございます。

○水島委員
 判例においてはかなり整理されてきているという御認識であるわけですが、今大臣が懸念される点として挙げられた点については、まさに私も同感でございます。
本日、ぜひこの質疑の中で、その点について、大臣がその懸念をどのような形できちんと措置されているかということを明らかにしていっていただきたいと思っております。
 そもそも、大臣はこの有期雇用というものに関しては望ましい雇用形態と考えていらっしゃるでしょうか、それとも、あくまでも例外的な雇用形態というふうに考えておられるでしょうか。

○坂口国務大臣
 どのような雇用形態によって労働契約を締結するかということは、これは労使双方が労働条件などのさまざまな要件を考えて選択をし、締結をするものでありますから、雇用形態がどれがいいということを一概に言うことはなかなか難しいというふうに思います。
 しかし、最近の状況を見ますと、みずからの専門的能力を生かして働きたいという労働者の意識の高まりというのも、今までに比較をいたしますと大きくなってきているというふうに思います。
また、労働者の転職希望率というのも、これもまた高まっておりまして、終身雇用や年功賃金に関する意識変化というものがあることも御承知のとおりでございます。
 このような状況の中で、転職を繰り返す中でキャリアアップを図りたい、そういう方もございますし、あるいはまた、自分の専門的知識を生かして働きたい労働者にとって、有期労働契約がメリットの人もおみえになる。
 ただし、そうはいいますものの、そういう労働者ばかりではありませんから、有期労働ということによってマイナスになる可能性の方も私は率直に言ってあるというふうに思いますから、そういう皆さん方に対してマイナス面をより少なくしていくという努力が必要ではないかというふうに思っております。

○水島委員
 確認をいたしますけれども、つまり、有期雇用という形で働きたいということを進んで希望する方には、当然、有期雇用という制度があるべきであるけれども、有期雇用という形を望まない人にとっては、やはりこの有期雇用が実質的に働き続ける唯一の手段となることはできるだけ防いでいかなければいけないというような御認識ということでよろしいでしょうか。

○坂口国務大臣
 常用雇用というのが決してなくなるわけではございません、これからも続くものというふうに思っておりますし、経済の動向によりましては、企業の側も常用雇用というものをもっと重視する可能性もございます。
したがいまして、常用雇用を希望される方はやはりその道をできるだけ選ばれる、そういう選択が十分にできるような体制というのをつくっていかなければいけないというふうに思っている次第でございます。

○水島委員
 そういう御認識であれば、安心して質問を続けさせていただきたいと思います。
 今回、この法改正をするに当たりまして、有期雇用の緩和に関するニーズがあったということを言われております。
これはどういう調査結果に基づいておっしゃっているのでしょうか。
もちろん、規制改革委員会ですとか総合規制改革会議等の議論で経済界には有期労働契約の期間延長の要望があるということは私も承知しておりますが、労働者側からも積極的に要望があったのでしょうか。

○松崎政府参考人
 今回の見直しを検討するに当たりましては、御指摘のように、ニーズ調査といいますか、いろいろ調査をいたしました。
これは、こういった制度ができました後、平成十一年にも行いましたし、また直前の十三年にも行ったわけでございますので、その関係部分について御紹介させていただきたいと思っております。
 まず、御本人、働いている方の調査でございますけれども、まず平成十三年の調査結果によりますと、これは労働者御本人の調査でございますけれども、正社員でない理由と、有期を選んだ理由、そういった質問に対しましては、あなたの希望、都合といいますか、本人の希望、都合というのが四十何%ということで、断トツに多いという。
その理由としましては、期間終了後にやめられるとか、また個人的な事情で正社員として働けないといった事情から、自分の都合でというのが断トツに多くなっております。
 またそういった中で、では、具体的にもっと契約期間について長い方が望ましいかどうかということについても伺っているわけでございますけれども、これについては、もっと長い契約期間が望ましいという方が、これは三八%ということで、これはもっと短い方がいいというのは二%以下でございますし、大体今のが現状に合っているというのが多いわけでございますけれども、やはり長い方がいいという方も多いわけでございます。
その理由としましては、生活が安定するからといった理由を挙げておられます。
 また、実態を調べたところ、契約の更新、そういったものを繰り返すことによりまして、実際には一年以上働いている方が多いわけでございますけれども、平均を見てみますと、これは十一年の調査でございますけれども、平均大体六・一回更新をして、平均の勤続年数、継続の勤続年数は平均四・六年という実態になっております。
 さらに、同調査でございますけれども、雇用形態自体につきましては、やはり契約を更新したいという希望を持っておられる労働者の方が六六%ということで、正社員として雇用してもらいたいという方は一割弱という状況でございます。
 こういったように、労使とも、この有期契約の部分につきまして、契約延長というものについてそれぞれ一定のニーズがあるというふうに考えているところでございます。

○水島委員
 これは大臣にお伺いしたいんですけれども、私もそれらの調査、実は拝見いたしました。
そして非常に乱暴な議論だなと思いました。
今働いている人たち、特に私生活でいろいろなことを抱えながら働いている人たちにとっては、契約で働くのであれば、ある程度働きやすい時間帯に働けるし、それ以上、転勤をさせられたりとか私生活への侵害がないというふうに感じられているわけです。
 一方、いろいろなアンケートの選択肢を見ますと、正社員に登用されたいとか、そういう選択肢があります。
登用という言葉、やはり今よりも非常に条件の厳しいところに、責任の重いところに任用されるというふうな印象を私自身も持ちます。
つまり、それらの結果から言えることは、今の労働条件であれば働き続けたい、ただ、今よりもいろいろな犠牲を強いられるような形では働きたくない、そのような意思のあらわれを読み取ることができるのではないかと思うんですけれども、こういう調査をされるときに、どうして今と同じような労働条件で正社員として働ける場があれば正社員になりたいという選択肢を入れられないんでしょうか。
そういうアンケートが必要だと思いますけれども、大臣はいかが思われますでしょうか。

○鴨下副大臣
 先生おっしゃるように、例えば、正社員に登用してもらいたいんだけれども、さまざまな条件が過重になるというようなことでちゅうちょする、こういうような御趣旨なんだろうと思いますが、各企業における人事労務管理上、必ずしも、正社員であれば例えば転勤等が伴うとか、こういうような取り扱いになっているわけではないんですね。
ただ、いろいろな意識の中には、ある程度会社との距離感の問題がそれぞれの個人によって違うんだろうというふうに思いますけれども。
 回答者が、正社員となることで転勤等があるから、だから考慮して正社員になることをある意味で遠慮するとか、ちゅうちょするとかというようなことで割合が低くなっているというようなことは必ずしも言えないんじゃないかなというふうな理解はしているわけでありますけれども、正社員に登用してもらいたいという割合について、これはいろいろな条件があるので、また調査をしても同じようなことがまた問題として出てくるんではないかというふうに今の段階では考えております。

○水島委員
 今副大臣は、必ずしもそう言えないんじゃないかとおっしゃったんですけれども、その根拠をきちんと示すとすれば、先ほど申し上げたように、今の労働条件で正社員として働ける場があるんだったら正社員として働きたいかというようなことを聞いて初めてこのデータとのずれが言えるんじゃないかと思いますので、ちょっと学者としての鴨下副大臣らしからぬ御答弁だったのではないかなと思いますが、改めてもう一言、この次こういうのを調べるときには必ずそれを聞いていただくというのはいかがですか。

○鴨下副大臣
 例えばキャリアアップを図りたいとか、自分の専門的な知識を生かしたいとか、さまざまなそれぞれのニーズは労働者側にもあるんだろうと思いますし、先ほど申し上げたように、距離感みたいなのが、会社にどっぷりつかるのは嫌だけれども、自分の仕事としてはきちんと守りたい、こういうようなこともあるんだろうと思いますので、もし今後調査をするとすれば、先生の御趣旨も踏まえて、そういうことが推察できるような形での調査をしたいというふうに思います。

○水島委員
 ぜひお願いいたします。
ここで距離感がどうだろうかとか、転勤がどうだろうかとか、いろいろこの部屋の中で幾ら議論しておりましても全部推測でございまして、それぞれが聞きかじった知識をもとにここで推測をしていても、どんどんここの委員会室が一般社会から離れていってしまうというようなことにもなりかねませんから、ぜひきちんと、この次に調査をされるときは、もちろん副大臣御主張の、距離感を持って働きたいんだというような、そんなのも選択肢に加えていただいてよろしいんじゃないかと思います。
ぜひ私が申しましたような選択肢もきちんと入れて、今度はそこからいろいろなことが言えるような調査をしていただきたいと、心よりお願いを申し上げます。
 さて、ここに二〇〇一年五月十一日の朝日新聞の記事がございます。
この記事によりますと、小泉首相が、二、三年の期限つき雇用ができたり社員を解雇しやすくすれば、企業はもっと人を雇うことができると発言をされております。
 まず、この記事に書かれている内容、これは事実でしょうか。

○松崎政府参考人
 総理大臣から御指摘のような指示があったかどうかについては、定かではないということでございます。

○水島委員
 定かではないと。
ここに、総理大臣がこういう発言をした、厚生労働省に指示をしたと見出しに書いてございます。
定かではないというのは、指示はなかったということなんでしょうか。

○松崎政府参考人
 私は直接どなたからも聞いておりません。
この記事だけしか知りません。

○水島委員
 直接聞いていないといっても、私は、お役所の中、どういう指揮系統になっているかよく知りませんけれども、そういう責任のある立場にいらっしゃる方が聞いていないということは、つまり指示はなかったということでよろしいんでしょうか。

○松崎政府参考人
 いずれにしましても、その後、総合規制改革会議等でいろいろ御議論がございまして、例えば労働問題につきましても、御案内のように、有期労働契約の今御議論になっております拡大の問題、それから裁量労働制の問題、そしてさらに解雇の基準やルールの明確化、そういったものについても指摘されております。
 そういったことを踏まえまして、具体的に私ども、公労使の労働政策審議会がございますので、そこで十三年の九月から、共通認識ができたわけでございます。
そして検討が必要な時期に来ているという共通認識のもとで検討を開始したということでございます。

○水島委員
 質問していないことに答えられないで、質問したことにぜひ答えていただきたいんですが。
総理大臣の指示はあったのかなかったのか、本当にイエスかノーかでお答えいただきたいんですが。

○松崎政府参考人
 私は知りません。

○水島委員
 知りませんということは、なかったということなんでしょうか。
厚生労働省に指示したといって書かれていて、指示はあったんでしょうかと聞いたら、知りませんと。
これは、指示がなかったというのか、あるいは職務怠慢というのか、どちらかしかないんですけれども、どちらなんでしょうか。

○松崎政府参考人
 事実、これは細かいことですけれども、私、在任中ではございませんし、直接どなたからも聞いていないということでございます。

○水島委員
 厚生労働省では、在任中になかったということは、申し送りも引き継ぎもないというふうに理解してよろしいのか。
ちょっとこれは大臣に伺いたいのですけれども、厚生労働省というのはそういう役所なのでしょうか。

○坂口国務大臣
 大事なことは引き続き行っているというふうに思いますが。
 二〇〇一年の五月十一日といいますと、総理が就任された直後ですね、四月の二十五日か六日になったのですから。
そのころにそういうお話をされたことは、私はないと思います。
もう少し後半になりましてからこの議論というのは出てきたというふうに私は記憶をいたしております。
ちょうど五月十一日というのは、例のハンセン病のときで、ごった返しているときでございましたから、そんな話はなかったと私は思っております。

○水島委員
 これは私、かなり大きい記事だと思うんです。
記事のサイズもこんなに大きいのですけれども。
「二、三年期限の雇用制度を 小泉首相 厚労省に指示 「終身」制見直しへ」とぱっと出ると、これはかなり社会的に影響の大きい記事だと思うんですが、これが全く事実無根なのだとしたら、こういうことはありませんとはっきりおっしゃるべきだし、朝日新聞社にも抗議されるべきではないかと思うんですけれども、そういうことはされたのでしょうか。

○松崎政府参考人
 具体的な抗議はしておりませんけれども。
確かに、こういった記事について一々そうやって抗議はしておらないということでございます。

○水島委員
 抗議はされていない、でも指示については知らないと。
そんなことでは、正しい情報を公開していこうという責任感のある姿勢が全く見られないと思うんです。
 坂口大臣は、厚生労働省のことに関して全く事実無根のことを記事に書かれた場合に、それを抗議したり訂正したりということは全くされない御方針なのでしょうか。

○坂口国務大臣
 それをやり出したら毎日やっていなきゃならぬですね、正直なところ。
 この問題は、何か次官におっしゃったということなんですか、その内容を見てみますと。
それで私が何か指示をしたように書いてありますけれども、その時点で、私は、厚生労働省にそういう総理がおっしゃったことを指示したということはございません。
したがいまして、私の部分は確実に違います。
 総理が次官にそういうふうなことをおっしゃったという記事が出ているのですけれども、そういうことは、次官からは私は聞いておりません。

○水島委員
 確かに、この記事の中には、「坂口厚労相は「三年の雇用契約を一般に広げるかどうか検討すべきだ」と判断した。
」とか、「首相の意向も受けて、」とか、大臣が主語になっているような記述もあるわけでございます。
 やはりこれを記事として読んだ一般の労働者というのは、これは大変な時代の変革が起こるというふうに感じるわけでございますけれども、そういう労働者の気持ちというものをきちんと酌み取って、これは不安を与える記事だ、事実と反すると思ったときには、きちんとこういうことはないというふうにこれから訂正していただくとお約束いただけますでしょうか、大臣。

○坂口国務大臣
 マスコミの皆さんがお書きくださいますことの中には、確実にそういう決定したこともございますし、それから、多分こうなるのではないかという、憶測と申しますか、憶測と言うとしかられますけれども、そういう思いで書いておみえになる記事もあるわけであります。
 毎日、新聞を見ますと、厚生労働省のことで知らないことが幾つも出てきて、びっくりすることが私はあるわけでありまして、きょうの新聞等でも国民年金の問題なんかで一面トップに出ておる記事がございまして、あれ、いつこんなのが決まったのかなと、正直言って、私は思ったわけでございます。
それも一々違うといって反論していましたらこちらも疲れますから、それは鷹揚にこちらも済ますことは済まさざるを得ないということでございます。
 しかし、余りにも違い過ぎる、これは我々が捨ておくことができないということについては、抗議を申し込むということにいたしております。

○水島委員
 大臣が最終的にこのような事実はなかったというふうにはっきりとお認めになりましたので、この件についてはそれで結構ではございますけれども、そこに至るまでの局長の答弁、私ちょっと問題だと思うことが幾つかございましたので、その点につきましては、ぜひ大臣から局長の方によくお伝えいただきたいと思っております。
 ただ、このような記事が載ったということは事実であって、大臣もいつの時点でか読まれたでありましょう。
これを、この発言をどう感じられたか。
今、そんなことは身に覚えがない、どうしてこんな記事がというふうに思われたというようなところは伺ったわけですが、実際問題といたしまして、厚生労働省、この分野に関しての一番の専門である厚生労働省が把握している範囲の中で、そのような、二、三年の期限つき雇用ができたり社員を解雇しやすくすれば企業はもっと人を雇うことができるというようなことを裏づけるようなデータは、何か厚生労働省はお持ちなんでしょうか。

○松崎政府参考人
 具体的にそういったことを示すデータは、私ども把握しておりません。

○水島委員
 ということは、少なくとも、こうやって期限つき雇用にしたり社員を解雇しやすくしたりすると企業がもっと人を雇うことができて雇用が促進されるということを、厚生労働省として言うつもりはないというふうに理解してよろしいでしょうか、大臣。

○坂口国務大臣
 そのように理解をしていただいて結構でございます。

○水島委員
 ありがとうございます。
 では、そのような議論の上に立った法改正ではないというふうに理解をしながら、また質問を続けさせていただきたいのですけれども。
何かこの記事一枚のことで随分時間を使ってしまいまして、私が聞きたいと思っていること、こんなにたくさんございますので、非常に難しくなってまいりましたが、ぜひ慎重審議で、審議時間をたくさんとっていただければと思いながら、それでも残りの時間でできるだけ聞いてまいりたいと思っております。
 さて、アメリカという国は解雇規制がない国と理解をしておりまして、そのような国におきましては、有期雇用契約というのは、少なくともその期間の雇用が確保されるというふうに、プラスにとらえることもできるのではないかと思っておりますけれども、一方、ヨーロッパでは解雇規制が存在しておりますから、そのような国では、逆に、有期雇用契約というのは、一定期間がたつと終わってしまう不安定な働き方というふうに、マイナスの側面をとらえることができると思います。
 そのような考えに基づいて、ヨーロッパでは、有期労働者を不安定労働者ととらえて、その弊害を抑えるための措置をとっていると私は理解をしております。
EU指令では更新の制限を規定しておりまして、有期労働の更新に客観的理由を求めるか、有期雇用の最長継続期間を定めるか、最大更新回数を定めるかを加盟国にゆだねております。
これは、衆議院調査室が作成をしました各国の有期労働契約に関する規制の一覧を見ましても、それぞれの国で規制を実際にされているわけでございます。
条件や規制が相対的に少ないと言われているイギリスであっても、契約更新による期間の上限を四年と定めているわけでございます。
 日本はどうかということを考えてみますと、現時点では解雇規制は法律上は定められてはおりませんけれども、判例上は実際には解雇は制限をされておりますし、今回の法改正によりましてそれが法律上位置づけられる、そのように理解をしているわけでございます。
 そうやって考えますと、アメリカというよりはヨーロッパ型に近いと私は考えているわけでございますけれども、そうすると、とにかく解雇規制というものがある国であって、その中での有期雇用の位置づけということを考えてみますと、今回のこの法改正、また今の日本で繰り返し契約を更新していることに関してのヨーロッパのようなきちんとした規制がないということ、その上に、さらに今回法改正をするということは、明らかに国際的な流れに逆行しているのではないかと思いますけれども、大臣はどうお考えになりますでしょうか。

○坂口国務大臣
 日本の解雇権濫用法理、どちらかといえばそれは御指摘のように、大陸型と申しますか、ヨーロッパ型と申しますか、そうした考え方の方に近いというふうに私も率直にそう思っております。
 今回のこの有期労働契約の問題につきまして、法律上の制限がなくて、どのような場合であっても労使の合意によって有期労働契約を締結することが可能になる、こういうことに今回なるわけでございます。
これは、労使の立場というものを尊重する、そして働く皆さん方の御意見も十分に聞いてこれはやっていくということを前提にしているわけでございまして、さまざまな場面で限定なく有期労働契約が活用をされている、そうした中で有期契約の労働者の多くが契約の更新を繰り返しながら一定期間継続して雇用されている、こういうことが現在日本の中で行われていることも事実でございます。
 有期労働契約を締結できる場合を限定することでありますとか、有期労働契約の更新についてヨーロッパ型のような規制を行うことは、雇用管理の根幹にかかわる問題でありますので、今そういうことをするということはなかなか難しいというふうに思っておりますが。
しかし、まだ日本の有期雇用というのは緒についたばかりでございますので、これからの経緯というものもよく見て、労使のどちらかにその結果が大きく偏ってくるというふうなことになれば、それは見直しを行っていくということは重要な課題であるというふうに思っている次第でございます。

○水島委員
 ぜひその見直しに向けて常に前向きな姿勢をきちんととっていただきたいと思います。
日本だけが国際的な労働条件の流れに逆行してしまうといたしますと、これは本当に不公正な労働と見られることにもなります。
かつて働きバチと言われた日本の長時間労働が貿易不均衡の原因と批判されたこともございましたけれども、今回また日本がそのようなことになるのではないか、それを私、大変危惧をしておりますので、そのような幅広い観点からもぜひ積極的な御検討をいただきたいと思っております。
現実には、契約を反復更新されるということが現状としてもう本当に根づいてしまっているということは、私も国会の中で指摘をしたことがありますし、以前から言われていることでございますので、その点についてきちんと議論を進めていただかなければいけないと思います。
 さて、今回の改正では、専門職の特例につきまして、当該専門的知識等を必要とする業務に新たにつく者に限るというのが現行法なんですけれども、「新たに」というものが削除されておりますが、その理由は何でしょうか。

○松崎政府参考人
 現行の制度でございますけれども、これは現在、上限の特例は三年というふうになっておりますけれども、この要件としまして、高度の専門的知識等を有する労働者が不足しておる事業場において新たに業務につく者のみに対象を限定するという条件がついてございまして、もう一つは、三年契約で更新を認めておらないという制度になっております。
 しかしながら、今御指摘になりましたような、高度な専門的な知識等を有する、いわゆる専門的な労働者でございますけれども、こういった方については現在のこの三年の制度、これが施行以来四年を経過しているわけでございますけれども、こういった方について御本人の意思に反して拘束を強いられるといったような、もともと労働契約の期間の上限を定めております労働基準法上の法益といいますか保護法益、そういったものに問題がある状況があるということは、現在のところまで、裁判所、または私どもの個別労使紛争とか現場の労働基準監督機関、そういったところへの相談等、そういったことについても聞いておらないということでございます。
 むしろ、一年契約に切りかえ、要するに、今は三年で更新を認められませんので、延ばそうとすると三年プラス一年、三年、一年、一年というふうになっているわけでございますけれども、そういった制度の制約の中で三年を超えて雇用を継続している者もある。
これも、調査によりますと、大体三分の一が三年を超えているという状況でございまして、こういった状況を踏まえますと、対象労働者が不足している事業場において新たに業務につく者だけを対象とするという限定が、実際にはこういった方々、まさに日本の産業がこれから専門的分野といいますか、こういった方をベースにして発展していこうという中で、こういった方の能力の発揮というものの阻害要因になっているのではないかといったことを考えたわけでございます。
 こういった観点から、今回、この五年にという点と、今御質問になりましたように、対象労働者が不足している事業場において新たに業務につく場合に限定するというところの要件を外そうというものでございます。

○水島委員
 ちょっと契約期間の間の拘束問題については後でお尋ねしたいと思っているんですけれども、私がここで問題としたいのは、結局、今回のこの「新たに」というものがなくなったことによって、現状は、専門職等は、三年で最初契約をしたら次は一年、一年、一年ということになるわけですけれども、今度改正をされると、まず原則が三年、三年、三年、そして専門職になりますと五年、五年、五年といけると。
一回更新しただけで十年となるような、そのようなことで、これは私はかなりの大改正だなと思っております。
 ところが、労働政策審議会に諮問された法律案要綱におきましては、新たにつく者に限るということが削除されるということが明確に読み取れないような記述になっておりまして、現に、審議委員にも聞きましたところ、法案が出て初めて確認したというふうに言っております。
このような重要な事項について審議会で十分検討されていないということは非常に大きな問題だと思っておりますし、その点については、大臣、いかがなんでしょうか。

○松崎政府参考人
 現在の専門職についての要件でございますけれども、先ほど申し上げましたように、不足している事業場において新たにということで一つの要件として規定してございます。
したがいまして、審議会における議論等におきましても、それ全体を一つとして説明をし、議論をしていただいたというふうに考えております。

○水島委員
 法律案要綱に書かれていないということの御説明ではないし、審議委員もそれが読み取れていないということなんですけれども、どうしてそれをきちんと要綱の中に書かれなかったんでしょうか。
これは大臣からきちんとお答えいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 一般的に言いまして、審議会でいろいろ御議論をいただいて結論を出していただく、それを法案にいたしますときに、その審議会で御議論いただいたとおりに法案をつくるかといえば、それはそうではなくて、重要な参考にさせていただいて、そしてそのことをできるだけ尊重はいたしますけれども、必ずしもそのとおりになることではない、これが通例でございますから。
 私も、この立法過程におきましてどういう経過があったかということまで詳しく存じませんけれども、審議会で御議論をいただいたことはいただいたこと、そしてそれに対して省としてどうしても加えていかなければならないこと、そうしたこともございますから、それは、審議会の中でなかったからといって、あるのはおかしいということにもならないというふうに私は、これはもう一般論でございますけれども、そう思っております。

○水島委員
 現状が、三年の次が一年ですから、単純にその枠に頭をとらわれて考えると、今度三年を五年にすると言われれば、五年の次は一年かなと、一番短い場合はそういうふうに思いますし、原則が今度三年に上がりますから、その場合には、五年の次は、もし変わるとしても三年かなと、そのように思うのが普通の頭だと思うんですけれども、そのような、次はいずれにしても一年か三年だろうと思いながら、この上限を三年から五年に上げるということを考えるのと、五年に決めるとそれから永遠にずっと五年になるんだという前提において五年に上げていいかどうかを決めるのとでは、これは私は議論の前提に全く大きな違いがあると思いますけれども、これは大臣にとってはそんなに大きな違いではないんでしょうか。
 また、そうやって審議会で出たことがすべて法律にならないというのは、それはそれでそうなんでしょうけれども、ただ、その三年を五年にすることがいいことか悪いことかというのを議論しているような場におきまして、五年になるとその後もずっと五年になりますよという部分を隠しておいて、五年のところだけコンセンサスを得ようというのは、ちょっとひきょうなやり方なのではないかという気がするんですけれども、いかがでしょうか。

○松崎政府参考人
 審議会における審議経過をちょっと補足させていただきますと、審議会におきます昨年の建議、また、私ども、その建議をもとにして提出、審議いただきました法律案要綱につきましても、三年を五年にするというのではなくて、常に、議論の過程じゅう、これこれこういう専門的な知識、技術、経験を持っている者、それから満六十歳以上の労働者、こういった人については五年とするということで、従来ありました要件を外して議論いただき、そういった格好で議論いただいております。
 したがいまして、ほかの要件はそのままで三年を五年にするという議論ではなくて、全体でもって議論をしていただいておるということでございます。

○水島委員
 そんなことをおっしゃるんだったら、ほかの要件を外すというところも、見せないで議論してもいいわけじゃないですか。
どうしてそこの部分だけは明らかにして、こちらは明らかにしないで議論をするんでしょうか。
何か答弁されていることが本当によくわからないので、大臣お願いします。

○松崎政府参考人
 今申し上げましたように、建議を検討したような経緯から、現在の専門職、高齢者の雇用の有期契約の期間については従来上限があったけれども、これは全体的にもっと活用しやすくすべきである、そういったことが特に高齢者、専門職の能力発揮につながるということで、こういった二つの種類の範疇の方については、五年にするという要件だけで議論をしていただいております。
 そういったことで、説明をして議論をしていただきましたし、またその中で、では延長、延長といいますか、更新の場合はどうなるかということにつきましても、従来は先ほど申し上げましたように三、一、一というものが、新しいものでいえば五、五、五になるというふうなこともきちんと説明しております。

○水島委員
 説明をされたということですから、それがその法律案要綱で読み取れるものになっていないということで、どのような形で説明をされたのかということを、私はそれをきちんと資料としていただきたいと思います。
これは、出席していた審議会審議委員が、法案が出て初めて確認したと言っているわけですから、それは十分な資料が提供されていなかったのではないかというふうにも思いますので、このことをやっているともう時間がなくなりますから、それはぜひ、どういう形で説明をされたか、今のような答弁をなさるのであれば、きちんと御説明をいただきたいと思います。
 次に参ります。
もう残りの時間が少なくなってまいりましたから、また急いで質問を続けてまいりますけれども。
 今局長がおっしゃっていたように、現行法では、専門職の場合に、これを不足事業場に新たにつく等の条件を規定しておりまして、つまり、人員が不足しているところであればこういう人と契約することができるという枠組みになっているものを、今回の改正では、この不足事業場がすべて外されているわけでございます。
これは今局長もおっしゃったとおりです。
 ということは、不足しているか否かを問わないとすると、正社員の代替に活用されるおそれがより強くなるのではないかと思いますけれども、これはなぜあえて外されたんでしょうか。

○松崎政府参考人
 専門職の方に限らず、事業場の中で本当に二十年三十年働いていただくいわゆる正社員の方と、五年にしろ三年にしろ、そういった期間を定めて働いていく方、これをどういうふうに組み合わせて企業経営等をしていくかといったことは専らその企業の中で考えることでありまして、何でもかんでも契約労働者にすれば事足りるというものではないと思っています。
したがいまして、こういった上限が延びることによりましても、これによって直ちに常用といいますか正社員が期間雇用の労働者にかわるといったことにはつながらないというふうに考えています。

○水島委員
 そう答弁されると思いましたけれども、現行の通知、基発四五を見ますと、高度の専門的知識を持つ労働者を解雇し、移籍出向等させた事業場は、高度専門的知識を有する労働者が不足している事業場とは認められないということが規定をされております。
つまり、既に正社員として専門的知識を持つ人がいる場合に、その人を解雇してしまった事業場では、三年の有期契約の専門職の人を雇うことができないというふうに現状ではなっているわけでございます。
これは正しい理解だと思います。
 現行制度にももちろんいろいろな問題はあるわけですけれども、少なくとも、正社員の代替を避けようとして、不足事業場等の制限があったということは評価していいと思います。
ただしかし、今改正でその規制がなくなるとなれば、先ほど局長は何の根拠もなく、直ちに正社員との代替が進まないとおっしゃったわけですが、やはりそのおそれはある。
あるから、前のときには、不足事業場という規定が入っていたんだと思いますけれども、これが正社員との代替にならないように、新たにどのような措置をとられているのか。
これは大臣にはっきりとお答えをいただきたいと思います。

○鴨下副大臣
 副大臣でお許しいただきたいと思います。
 前回もお答えいたしましたけれども、常用代替にならないように、こういうような話でありますけれども、企業が常用労働者と有期契約労働者の構成をどういうふうに考えていくかというのは、まさしく企業の、ある意味で人材戦略だとか事業戦略の一環というふうに考えられる部分もあると思います。
 それからもう一つは、例えば人員構成だとか配置、それからキャリア形成のあり方などは、ある意味で、逆に言いますと、特に常用代替をすることが必ずしも企業にとってもメリットになるかというようなことになれば、そうではないというふうにも理解できるわけであります。
 そういうようなことも踏まえまして、法制度上、高度な専門的な知識等を有する者に係る有期労働契約の期間の上限については、特例として五年と定めることにより、現在よりも長期の雇用が可能となるというふうなことに関しまして、個々の企業において、高度の専門的な知識等を必要とする業務に関して、常用労働者から有期契約労働者への代替が直ちに進んでいく、こういうようなことではないんではなかろうか、こういうふうに今は考えているところであります。

○水島委員
 つまり、それは企業の良心に任せるということを答弁されたのかなと思いますけれども、きちんと法的な措置をすべきではないんでしょうか。

○鴨下副大臣
 繰り返しになりますけれども、企業の良心というよりは、むしろ企業の戦略そのものにもかかわるんだろうと思いますが、常用代替が必ずしも企業にとってもメリットにならないというようなこともあるんだろう、こういうふうな理解でございます。

○水島委員
 つまり、今回のこの法改正は、企業の活動をよりやりやすくする、企業戦略をより有効なものにしていくための改正であって、本来の労働基準法の、働く側に立った場合に理不尽なあり方をなくしていこうとするような精神、今の御答弁の中になかったように思うんですけれども、その措置、そこに歯どめをかけていくのが、ある意味で私は政府の役割ではないかと思っております。
前のときには不足事業場というのを入れているということは、やはりそこに何らかの責任を感じられてやられていたんだと思いますけれども、今回それをあえて外しているというのが一体どういうことなんだろうかというのが、大変疑問に思います。
 また、建議によりますと、「有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、合理的理由なく、企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更することのないようにすること」とありますけれども、この点については、法文上、具体化されているんでしょうか。

○鴨下副大臣
 有期労働契約の期間の上限延長に関しては、先生が今おっしゃっていたように、これは昨年末の労働政策審議会の建議におきまして、公労使三者一致して、「有期労働契約の期間の上限を延長することに伴い、合理的理由なく、企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更することのないようにすることが望まれる。
」こういうふうなことでございますけれども、厚生労働省の中でもこの指摘は非常に重要だというふうに受けとめておりまして、これは法改正内容の周知とあわせまして、先生御指摘のことも踏まえてこの考え方を周知徹底してまいりたい、こういうふうに考えているところであります。

○水島委員
 周知徹底してまいりたいというのは、いろいろなことは周知徹底されているかもしれないけれども、なかなかそれがうまくいかないのが、いろいろな利害関係の中でうまくいかないのが実社会であって、だから、きちんと守らなければいけないことを守るために、法律をつくったりいろいろなことをしていくんだと私は理解をしておりますけれども。
 そもそも、最初に、大臣が、この有期雇用に関する期間の上限延長のデメリットについてというので、はっきりと今のような懸念をおっしゃっていたわけでございます。
そういうことをわかっていながら、それに関しては周知徹底していきましょうというようなことしかできないというのは、ちょっと、法改正をするに当たって出してきている法案として非常に不十分なんじゃないかな、本当にそのように思います。
(発言する者あり)今、委員会室から無責任だという声が飛びましたけれども、私も同じような感想を持っております。
 さて、この点についてこれからきちんと審議の中でもっと詰めさせていただきたいと思っておりますけれども、きょうは本当に残り時間がわずかになってまいりましたので、もう一つ、最初に大臣が問題点として提起されました、不当に拘束されるのではないかという方の点について質問をさせていただきます。
 今、厚生労働省労働基準局が編著しております「解釈通覧労働基準法」によりますと、現行法では原則一年の契約というふうになっておりますけれども、契約期間は一年を超えるものの例えば三年であるが契約期間中は労働者の側からいつでも解約できる旨の特約がある場合については、労基法第十四条の趣旨からして労働者側の解約の自由が保障されている限り法違反とはならないとあるわけでございます。
 労基法の第十四条というのは、労働者の人身拘束ないし労働強制の弊害を排除することを目的とする規定でございまして、その限度として現行法では一年が定められているものの、労働者がいつでも自由に解約できると特約があるのなら三年でも違法ではないということを言っているわけでございまして、ここからも労働者の解約の自由の保障がいかに重要かということが示されていると思います。
 そして、今回、この有期の契約期間が原則三年、例外五年と大幅に延長されますと、高度な技術者や教育訓練に相応の費用を要する労働者が五年間足どめされるということになるわけです。
五年というのは大変長い年月でございまして、当然、諸般の事情で退職したくても、この場合、民法六百二十八条が適用されることになるのではないかと思いますけれども、やむを得ざる事由がない場合には契約違反となるおそれがあるのではないかと思います。
 そのような問題意識に立ちまして、例えば仮に、これは本当によくあるケースだと思いますけれども、五年の有期契約で研究機関で働いていたけれども、三年目に外国の研究機関から招聘されたというようなケースを考えてみますと、その研究者は損害賠償を支払わないと移ることができないということになるのでしょうか。
これは本当によくある話だと思いますが、いかがでしょうか。

○松崎政府参考人
 今御指摘のように、五年契約で労働を始めて、途中で労働者の側からほかの会社に移るといったことだと思いますけれども、そういった場合には、これは契約違反というか、債務不履行ということにまずなります。
 ただ、具体的には、個々の契約内容でございますとか事例、そういったものを当たらないと、これは民事裁判所で判断されることになるわけでございますけれども、一概には言えないとは思いますけれども、ただ、債務不履行になりますので、それによります損害というものが具体的に算定された、要するに、企業の中で高い賃金を払い、五年間というものを約束して契約金とかを払い、契約して働いている場合に、途中で企業秘密を持っていってしまって、自分のところがこれだけ損害をこうむったといったような具体的な、契約債務不履行によります損害というものが確定されれば、それは当然御指摘のような損害賠償の対象になる、責任を負うという場合もあろうかと思います。

○水島委員
 今のは本当によくあるケースですから。
関係している人たちは今回の法改正について多分全く知らないと思いますけれども。
 今、それで、債務不履行で損害賠償を払わなければならない事態も起こってくるということでありますが、一方で、一九九七年に制定された大学の教員等の任期に関する法律によりますと、私立大学の教員には、一年を超えたら任期中であってもその意思により退職できる権利が与えられているわけでございます。
 私も研究していた立場として、研究機関も私立大学もみんな普通に移動していくようなところであるわけですけれども、研究機関に勤めると、途中で移るときに債務不履行となってしまうかもしれない、一方、私立大学の教員となるのであれば、一年を超えたらいつでも自由に外国のどこかに移ることができる。
これはどうなんでしょうか、整合性といたしまして。

○松崎政府参考人
 御指摘の大学の教員等の任期に関する法律ということで、これは平成九年の法律だと思っております。
この法律の趣旨というものは別にして、とにかく一年を超える期間の労働契約の締結を認めようという、いわゆる任期制の法律でございます。
 この任期に関しましては、法律の中におきまして、一年を超えた場合には本人の意思によって退職することを妨げるものであってはならないというふうに規定したわけでございますけれども、これは、労働契約の期間につきまして、現行の労働基準法の十四条に一年という規定がございます、この労働基準法に反しないように確認的に規定したものというふうに私ども承知しております。

○水島委員
 そのこととの整合性を質問しているんですけれども。

○松崎政府参考人
 したがいまして、私立学校の教員につきましては、こういうことで今後もいくということだと思います。

○水島委員
 こういうことでというのはどういうことでしょうか。
現状のままということでしょうか、それとも、労働基準法に反しないようにということになれば、今一年と言っているのもこれは三年に延びるとか五年になるとか、そういうことというのがこういうことなんでしょうか。

○松崎政府参考人
 これは、私立学校の教員についての特別の法律でございまして、これにつきまして、今度の労働基準法を原則三年ということにする場合におきましても、協議の結果、私立学校の教員についての特例の扱いについては、今後も政府としては継続する、現行の規定のままいくという方針だと聞いております。

○水島委員
 つまり、研究機関で働く場合と私立学校で働く場合とは全くその拘束度に違いがあるという特例がここからできるということになるんだと思いますけれども、そのような重要な答弁を今いただきましたので、またこれについては後日審議を十分にさせていただきたいと思いますが、今は御答弁として受けとめさせていただきたいと思います。
 また、実際に債務不履行で損害賠償請求というような、そのような判例としてはないようですけれども、判例がないから問題がないというわけではないと思います。
 また、実際に、労働相談などでは、君の募集、採用には金がかかっているんだから、その分返すか働けというような、そうやっておどされたというような相談事例があるというふうにも聞いておりますし、かつては准看護婦のお礼奉公ですとか、また新聞配達店等での足どめが問題になっていたというのは記憶にも新しいところでございます。
どうやら最近はエステティシャンの世界で足どめ問題があるというふうにも聞いておりますけれども、厚生労働省といたしまして、こうした足どめ問題について調査されたことはございますか。

○松崎政府参考人
 これに限らず、労働基準法の違反の問題につきましては、その都度対応しているということで、この問題につきましてだけ特別に集計したといったものはございません。

○水島委員
 つまり調査されていないという御答弁だと思いますけれども、やはり、こうやって一定期間人を拘束するのを長くするというような法改正をされるに当たっては、当然、現状でその拘束期間に何が起こっているかということ、これは大臣が最初の問題意識の二つのうちの一つとして、不当に拘束というようなことをおっしゃっているわけですから、そのことを、現状がどうなっているかを調べて初めてその期間の延長ということを議論できるのではないかと思います。
ここでも何だかまた大きな穴を見つけてしまったような気がいたしますので、これはまた今後、ぜひ審議の中できちんと尽くしていかせていただきたいと思っております。
 そして、このような事例を考えてまいりますと、私は、本来は、労基法に、いつでも雇用契約を解除できる旨の規定が必要なのではないかと思います。
少なくとも、労基法十四条の趣旨が、長期の拘束を排除するというそもそもの立法の趣旨が変更されていないというのであれば、一年を超える雇用契約については労働者の意思により契約を解除できるというような規定が必要ではないかと思いますけれども、これは大臣はいかが思われますでしょうか。
これは大臣です。

○坂口国務大臣
 この有期雇用契約につきましてもいろいろの御議論があることは十分承知をいたしております。
これから有期雇用ということがどこまで定着をするのか定かではありませんけれども、その中で、やはり企業側と、そして働く労働者の側が対等でいけるということが、これはこの労働基準法の大前提でございますから、その大前提の中でこの問題も決着がつくように私は努力をしていきたいというふうに思っております。

○水島委員
 本日、いろいろ御答弁いただきましたけれども、事前に通告していた質問の半分ぐらいしか質問することができませんで、いかにこの領域、問題が多いかということを改めて認識したところでございます。
大臣も、この有期雇用に関しましては、今、きちんと議論をしていい制度にしていかなければというようなことを最後に御答弁くださいましたので、これは均等待遇の問題なども含めましてまだまだ議論してまいりたいことがたくさんございます。
またぜひ次に質問に立たせていただきたいと希望をしておりますので、また引き続き審議の中で、本当に有期雇用労働者の権利が最大限守られるような、そんな制度の構築に向けて引き続き御尽力をいただけますようにお願いを申し上げまして、本日の質問を終わらせていただきます。
 ありがとうございました。



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