厚生労働委員会
(2001年10月26日)



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仕事と家庭の両立支援




○鈴木委員長
 水島広子君。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 本日の質疑の中にも出てまいりましたが、子育てに関しましては、いまだにさまざまな偏見がございます。
特に、子供が三歳になるまでは母親が二十四時間そばにいないと子供の発育に悪影響が及ぶという、いわゆる三歳児神話は、既に学問的には否定されているにもかかわらず、いまだに多くの大人たちがそれに縛られておりまして、それが親たちを追い詰め、親たちに不本意なライフスタイルを強要し、そのストレスが子供の虐待へとつながっていくということはだんだんと知られるようにはなってまいりましたけれども、本日の質疑を伺いまして、まだまだ国会では知られていないという事実に驚いているところでございます。
 さて、私は、子供たちの心の病を診てきた立場といたしまして、また私自身、ゼロ歳と三歳の子供を抱えて働く母親という立場といたしまして、親が自分らしく社会にかかわることで心の健康を保つこと、そして、父親も母親も、親としての責任をしっかりと果たせるだけの環境を提供すること、それが子育てにおけるかぎだと思っております。
仕事と家庭の両立を支援する施策はその一つの重要な柱であり、今回の政府の改正案は一歩前進するものとして評価できます。
でも、まだまだ十分なものではないため、私たちは民主党案を提出いたしまして、よりよい方向性を示しております。
 以下、質問に入りますが、根拠のない偏見でますます親たちを追い詰めることのないよう、厚生労働省には、ぜひ啓発活動に努めていただきたいとお願いを申し上げます。
 さて、今回の法改正では、子供の看護休暇が当然請求権化されると思っておりましたが、努力義務規定にとどまっておりまして、大変失望しております。
これはほとんどの働く親たちが同じ気持ちだと思います。
 一九九九年の旧労働省委託調査の勤労者家族問題研究会報告書によると、仕事と育児の両立のために必要だと考えられる対策の第一位が、子供のための看護休暇となっております。
また、年次有給休暇の取得理由では、小学校入学前の子供の病気が六五・〇%と高く、自分の病気五三・三%よりも高くなっております。
 ILOの第百六十五号勧告におきましても、子供の看護休暇を認めるよう勧告が行われておりますし、子供のための看護休暇はぜひとも請求権化すべきであると考え、私たちは民主党案に盛り込んでおります。
まず、今回請求権化が見送られた理由を大臣にお答えいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 お答えを申し上げます前に、水島先生にはお子様がお生まれになったそうでございまして、心からお祝いを申し上げたいと存じます。
 ただいまお話がございました請求権化の問題でございますが、方向性として、民主党がお出しになっております方向性、私たちも十分に理解をしているところでございます。
そして、将来的にはこの看護休暇というものがそうした方向に進んでいくことを私たちも期待をいたしておりますが、現在のところ、この看護休暇制度を利用している人の数はまだ八%でございまして、非常に低い。
低いから何とかしなきゃいけないんじゃないかという御意見があるわけでございますけれども、もう少し皆さん方に、この必要性というもの、そしてこれをとっていける環境というものをもう少しやはり整える必要があるというふうに思っております。
 それをそんなに長くとるというのではなくて、しばらくの間、そうした期間をとりながら、そしてだんだんとこの目的が完全に実施されるような方向に向かっていくように努力をしたいと考えているところでございます。
今後ひとつ、引き続きましてこの問題につきましては努力をしたいと思っております。

○水島委員
 大臣も御承知だと思いますけれども、子供の病気については、子供だけでの対応が不可能でございます。
また、予測が難しく、頻度も高く、病状の急変も多いという特徴があります。
さらに、伝染性のものがありまして、家庭での療養が必要な場合が多いことも重要な点でございます。
これらの事情を考えますと、子供の看護休暇は、子供を持つ人には必要性が非常に高い制度であると言えまして、現在の普及率云々と申しましても、今子供を育てている人間にとっては、まさに待ったなしの問題であると思います。
 先ほどの大臣の御答弁、大臣がもし現在子育て中の立場でございましたら、どう思われましたでしょうか。

○坂口国務大臣
 もう孫が育っておりまして、子育ての時代は終わったものですから、すっかり今、過去のことになってしまいましたが、しかし、今の状況を見ておりますと、やはり子供が病気をしましたときに、母親が勤めている勤めていないにかかわらず、現在はそれに対して適切にアドバイスをしてくれる人たちが周辺にいないということもあって、これはやはり制度的にもつくり上げていかないといけないなという気持ちを持っております。
特に、お勤めになっております場合に、病気をなすったお子さんをどうするかというのは大変な問題だと思います。
 最近、病院の中で、病児看護というんですか、その制度ができ上がりまして、そして、でき上がりましたところは非常に多くの皆さん方が利用されて、そして、もっとやはり数が必要だということが言われているそうでございます。
先日も、始められた病院の方にお聞きをしたところでございますが、一度何かの病気が流行し始めますと、とにかくもうベッドが足りない、どうするかということになるというようなお話をお伺いいたしました。
 したがいまして、その辺のところはこれからも充実をさせていかないといけませんし、そして、気持ちよくそうした休暇がとれるという、そのことが大事でございますから、そこをやはり力を入れていかなければならないというふうに思っております。

○水島委員
 おっしゃるとおり、親に看護休暇がないために、現実的な問題といたしましては、病気であるのに家に一人で放置されてしまう子供も、今この看護休暇とまた病児保育がどちらも進んでいない現状では、実際に存在しているわけでございます。
子供の福祉、人権という観点からも非常な問題だと思っております。
親としての責任を果たせるような制度をつくることは、社会的な要請であると思います。
 公明党でも、選挙政策の中に、年間十二日の看護休暇を掲げられています。
例えば、年間わずか五日でもよいですから、まずは今回の改正で請求権として確立するのが急務ではないでしょうか。
普及率が高くなれば実施するというのでは、私は政治家など要らないと思います。
大臣の政治判断として、まず、本当に少ない日数でもいいから、始めてみるということができませんか。
もう一度お答えいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 子供が病気やけがの際に労働者が休暇を取得しやすくしますためには、将来的には看護休暇を請求権とすることが望ましいという点につきましては、私も議員と同じ認識でございます。
 しかし、先ほど申しましたように、現在のところ、事業所におきますところの看護休暇制度の普及率というものが非常に低い段階にある。
一足飛びに請求権というのでは、特に、大きい企業はいいんですけれども、中小企業の場合など混乱が生じる可能性がございますので、もう少し全体にそういう環境が整うということが大事ではないかというふうに思っております。
 我々も趣旨は十分に理解をしながら、しかし、その方向に向けて一歩を踏み出して、そして着実に前進をさせていきたいというふうに思っているところでございます。

○水島委員
 小泉総理は、仕事と家庭の両立のために待機児童ゼロ作戦などとアピールされているわけですが、子供の看護休暇も請求権化できないようでは、私自身小さな子供を育てながら働いている立場としましても、どうも小泉総理はその本質を理解されていないのではないかと思わざるを得ません。
 坂口大臣は、ハンセン病の場合を見ましても、私たちが心から願ったことは実現してくださる温かい方であると思っております。
今からでも遅くはありませんので、ぜひもう一度考え直していただきまして、看護休暇の請求権化を盛り込んでいただけますよう、働く親を代表いたしまして、心からお願いを申し上げます。
 さて次に、この法律の適用対象に移らせていただきます。
 法第二条におきまして、「日々雇用される者」と「期間を定めて雇用される者」が育児・介護休業の適用を除外されておりますが、まず、その理由をお答えください。

○岩田政府参考人
 育児休業制度は、長期雇用を前提といたしまして、育児を理由として仕事を中断する、仕事が継続できないというようなことがないようにということで設けられている制度でございます。
そういう趣旨からいいますと、日々雇用ですとかあらかじめ雇用期間が定められております期間雇用者をその対象にするということは難しいというふうに思います。

○水島委員
 では次に、期間雇用者の実態についてお尋ねします。
 パート、契約社員など、名称はいろいろございますが、その実情について、昨年九月に、有期雇用契約の反復更新に関する調査研究会報告が公表されました。
同報告は、一九九八年の労働基準法改正の国会審議の際に行われた衆参の労働委員会等の附帯決議を踏まえて検討されたものです。
労働契約が反復更新されており、実質上期間の定めなく雇用されている人が多いという実態が示されています。
 この結果を受けて、今まで厚生労働省としてどのように対処してこられましたでしょうか、また、今後対処されるおつもりでしょうか。

○日比政府参考人
 御指摘の報告書でございますが、その中では、いろいろなアンケート調査、実態調査その他やっております。
 その結果として、数字的に申し上げますと、余り細かいことは省かせていただきますが、調査対象となった労働者、これはもともと有期の契約者でございますが、その方々の過半の人たちが更新をしたことがあるという実態でございまして、更新をした方々に限ってその更新回数を見ますと、平均で六回強ということになっております。
 そのような数字の問題と、また、この報告書では、数十件の裁判例、この裁判例といいますのは、有期契約のいわゆる雇いどめが争われた裁判例でございますが、その数十件の裁判例について分析いたしまして、その結果、雇いどめがいわば有効であるとされたものもそれなりにあるけれども、その実態等を見て、雇いどめが認められない、つまり更新しなければいかぬという判断が出たものもあるというような分析をした上で、やはりトラブルを未然に防いでいくためには、いろいろな措置を行政としてやるべきであろうというような提言をされているところでございます。
 これを受けまして、昨年十二月二十八日でございますが、行政として有期労働契約の締結等に関しまして指針を定め、その中では、やはり有期労働契約の締結時、あるいは更新もしくは雇いどめ、それに当たって一定の説明事項あるいは手続等について明確にするように、その他のことも指針化しておりますが、そのようなことを定めまして、その後は、パンフレット作成等によりまして、この点の周知を図るための活動を現在行っているところでございます。

○水島委員
 坂口大臣は六月八日の本会議で、期間を定めて雇用されている者であっても、特段の事情がない限り当然に更新されることとなっている場合には、実質上期間の定めなく雇用されている者として育児・介護休業の対象となると答弁されております。
まず、大臣、これは言葉どおり受けとめてよろしいでしょうか。

○坂口国務大臣
 そのとおりお受け取りいただいて結構でございます。

○水島委員
 女性少年問題審議会の建議「仕事と家庭の両立支援対策の充実について」では、期間雇用者について、「育児休業の対象とすることは困難であると考えられるが、労働契約が反復更新される等により実質上期間の定めなく雇用されていると判断される者が育児休業の対象となることは当然であり、その取扱いを具体化することが適当」とございます。
 今の大臣の御答弁にもございましたけれども、厚生労働省では、これらを受けまして、期間雇用者の扱いを指針で明確にする方向と聞いております。
問題はその指針の具体的な内容ですが、「実質上期間の定めなく雇用されていると判断される者」というのは、具体的にはどのような者をお考えでしょうか。
大臣にお答えいただきたいと思います。

○岩田政府参考人
 労働契約が形式上期間を定めて雇用されている者であっても、その契約が実質的に期間の定めのない契約と異ならないという状態になった場合には、育児休業そして介護休業の請求ができるということでございますが、どのような者がそれに該当するかということについての判断の基準がこれまで明確でなかったという問題がございます。
 そして、先生今おっしゃいましたとおり、関係審議会の建議にもございますので、この改正法が成立した暁には、もう一度審議会での御議論も経て具体的な判断基準を指針で定めることといたしておりまして、今ここで具体的にその内容を御説明できるだけの検討が進んでいるわけではございませんが、有期労働契約に関しまして裁判例も多数ございますので、そういうものも参考にしつつ、どういう場合がこれに該当するかということをできるだけ明確なものになるように努力をしてみたいというふうに思っております。

○水島委員
 今のところまだ明確なお考えがないということではございますけれども、裁判例における判断の過程を見ますと、主に、業務の客観的内容、契約上の地位の性格、当事者の主観的態様、更新の手続・実態、他の労働者の更新状況などを評価しているということが、有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告でも述べられております。
指針においてもこれらのことが判断の基準として記されるのでしょうか。

○岩田政府参考人
 これもまさにこれからの検討でございますが、今先生おっしゃいましたように、私どもが勉強しました裁判例の中でも、仕事の内容が恒常的なものであるかどうか、あるいは契約の更新がどの程度の回数なされているか、また、更新の手続が実質的な判断をしているのか、相当形式的なものか、そういったようなところが勘案されているようでございますので、そのこともしっかり勉強をさせていただいているところでございます。

○水島委員
 ぜひ、指針をつくる際には、厚生労働省の専門家の方でなくてもわかるものが指針であるべきだと思いますので、せめて一々訴訟を起こさなくても理解できる、取り扱いのできる指針をつくっていただきたいと思っております。
 また、今の御答弁にもございましたように、実質上期間の定めなく雇用されていると判断される期間雇用者というのは、その要件が厳しく、今まで十分に検討されていませんでした。
雇用継続の期間や反復更新の回数によって、一律の基準をこの際設けたらどうかと思います。
具体的には、反復更新し一年を超えて継続雇用された者は対象とすべきではないかと考えますけれども、大臣はいかがお考えになりますでしょうか。
これは大臣のお考えをお願いします。

○岩田政府参考人
 申しわけございませんが、まず、私の方からお答えさせてください。
 先ほど申し上げましたように、実質的に期間の定めのない契約になっているかどうかという判断をするときには、やはり少なくとも複数の観点が要るんではないかというふうに思いますので、例えば、契約の更新の結果、一年を超えたというそのことだけをもって、これが実質的に期間の定めのない雇用になったというふうに判断するのはなかなか難しいんではないかというふうに思います。
 例えばですけれども、業務の完了の見込みが一年ぐらいであるということで、一年契約で雇用したとします。
そして、業務の進展の結果、それでは終わらずにもうしばらくかかるといったときには、その契約期間は更新されるわけですけれども、そのときには、次にいつ業務が終了するかということを念頭に置いて更新されるということだというふうに思いますので、一律に、一年を超えればそれで雇用期間の定めのない形態に変わったというのは、なかなか無理があるんではないかというふうに思います。
 ですけれども、先生がおっしゃるように、厚生労働省の専門家だけがわかる、あるいは裁判で争って初めて決着するということでは困りますので、私どもの第一線の職員がわかることはもちろんですけれども、当事者である企業の方、働く方、その方たちにもわかるように、なるべく具体的なものを、難しいですけれども、勉強して検討したいと思っております。

○坂口国務大臣
 雇用形態が非常に多様化をしてまいりまして、今までになかったような雇用形態も出てまいりますので、少しこの辺は整理をして、そして、さまざまな法案に対しましても、その対応を決めていかなければならないというふうに思っております。
御趣旨もよく尊重しながら、これからひとつ対応してまいりたいと思います。

○水島委員
 今の御答弁を聞きましてもわかりますように、本当にこれは難しい議論でございまして、従来よりずっと同じ議論が続いております。
どこかで政治判断として割り切らないと永遠に終わらない議論なのではないかと思っております。
この際、大臣に割り切っていただきまして、この問題を一歩前進させるべきときが来たのではないかと思っております。
 指針をつくられる際には、本当にこれだけの難しい問題をどのように指針にまとめ上げられるのか、私も大変楽しみにしておりますので、ぜひ、だれが見てもわかる、そして、一々訴訟を起こすことは普通の人にはできないわけですから、一々訴訟を起こさなくても判断できるような指針を必ずつくっていただけますように、お願いを申し上げたいと思います。
 そして、有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告によりますと、期間雇用者の約三分の二が契約更新を希望しております。
また、期間雇用で就業している具体的な理由として、正社員として働ける職場がないとしている人は、全体の二六・七%、長時間パート労働者に限ってみれば四一・二%に上ります。
正社員として登用してもらいたいや、別の会社で正社員として働きたいとしている人は、全体で見れば一三・九%、長時間パート労働者に限ってみれば二一・七%となっております。
 一方、期間雇用者を雇用する理由としては、人件費節約のためが全体でも最も多いですが、長時間パート労働者においては七一・〇%と、最も高くなっております。
 これらより、期間雇用者、特に長時間パート労働者においては、正社員として働きたいけれども、事業主側の事情によって期間雇用者とされており、その契約が反復更新されているという実態が浮かび上がってまいります。
 この実態、つまり、本人は正社員として働く希望を持っており、実質上期間の定めなく働いているけれども、身分が期間雇用者であるという理由のみによって育児休業の恩恵にあずかれないという実態を踏まえて、厚生労働省といたしましては、今回指針を定められるのと同時に、今後どのような取り組みをされていく予定でしょうか。

○南野副大臣
 まず初めに、御出産おめでとうございます。
 今のお答えを申し上げますが、その前に、先ほど、看護休暇のお話がございました。
働く者の看護休暇につきましては、この前、フレンドリーサービスの企業の方々といろいろお話ししまして、四十一人しかいない企業でもその努力を企業主がしているということも、ちょっと申し添えたいと思っております。
 さらに、今の御質問でございますが、育児休業制度の中では、育児を理由とする雇用の中断、これを防ぎたい、そういう、自分の仕事を継続するということの目的からしておられる場合でございますので、雇用期間をあらかじめ定めておられる方の場合には、これはなじまないものであろうというふうに思います。
 さらにもう一つつけ加えますならば、形式上期間を定めて雇用されている方であっても、労働契約が反復更新されるなどによって常用雇用者と一緒だと見られる人に限っては、それは当然であろうというふうに思っているところでございます。
どのような者がそれに該当するかはできる限り明確な指針を定めるということにして頑張っていきたいと思っております。
 以上でございます。

○水島委員
 雇用保険料も支払っていながら、雇用継続給付をもらえないのは不公平だという声も上がっております。
もちろん、雇用保険制度との整合性には検討の余地もございますけれども、不本意ながら期間雇用者とさせられている人たちの率直な不平等感を受けとめていく必要があると思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
 そして、現在、期間雇用者やパート労働者、派遣労働者など、いわゆる不安定労働者がふえていますし、今後さらに増加する見通しでございます。
このような時代の流れに対して、法律の整備が追いついていないというのが現状だと指摘されております。
坂口大臣も先ほどの御答弁でそのような認識を示されていたと思いますけれども、今後、労働形態にかかわらず、あらゆる労働者に関して職業生活と家庭生活の両立を支援する法整備をする必要があると思っておりますけれども、それについての大臣のお考えを最後にお聞かせいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 それは、御趣旨は私もそのとおりというふうに思っております。
 非常に労働環境は多様化されてまいりましたし、そしてまた働く場の方も大変多様化されてまいりました。
そうしたすべてのことに多様化されております中で、今までの法律が合わなくなってきているところもあることも事実でございます。
 そうしたことも見直しながら、そして、多くの労働者の皆さん方にできるだけこの網の目がかかるようなことをやはり考えていかなければいけないというふうに思っている次第でございます。

○水島委員
 ぜひよろしくお願いいたします。
 そして次に、不利益取り扱いの禁止についてに移らせていただきたいと思います。
 今回の改正で、不利益取り扱いの禁止規定が明文化されたことは、とても意義のあることだと思います。
ただし、不利益取り扱いが何を意味し、実際にどのような手続がとられ、どのようにして実効性が担保されるのかが明らかにされなければ、まさに絵にかいたもちになってしまいまして、せっかくの規定が何の意味もなくなってしまうということにもなりかねません。
 六月八日の本会議において坂口大臣は、労働者が育児休業や介護休業を申し出または取得したことを決定的な動機として、例えば、休業から復職後は正社員からパートタイマーに変わる等の身分変更を命ずるといったような扱いと答弁されています。
 女性少年問題審議会女性部会における公益委員からの補足説明でも、育児・介護休業の申し出や取得を直接の理由として不利益に扱うもの、例えば、休業したことで正規職員からパートへ身分を変える、休業により著しく給料を減額、昇給をとめる、降格させるなどで、休業以外の合理的理由がないケースとされており、政府が想定しているのはどうも極端な例ばかりではないかと思います。
 正職員からパートに切りかえるなどというのは、労働契約違反そのものではないでしょうか。
問題は、だれが見てもわかることではなく、一見そのようには見えないけれども問題があることを指摘する意味からも厚生労働省の指針を作成するのではないでしょうか。
 まず、不利益取り扱いに相当するもので、都道府県の雇用機会均等室が相談を受けた事例で代表的なものにはどのようなものがあるかを教えていただきたいと思います。

○岩田政府参考人
 雇用均等室にどういう相談があるかということについて、私どもも調査をいたしました。
 幾つか例をお話ししたいと思いますが、まず、本当に代表的な例ですが、休業復帰後、身分変更を命ぜられた事例。
これは正社員からパートタイマー、あるいはパートタイマー以外の非正規職員ということもあると思います。
 それから二つ目の事例としては、休業復帰後、配置転換を命ぜられた事例でございます。
配置転換がすべて不利益取り扱いになるということではないと思いますけれども、雇用均等室で扱った事例の中には、休業前は事務職であった方が復帰後は配送業務に転換した、あるいは遠隔地への配置転換の内示を受けた、過去には正社員が配置されたことがなかったような部署への配置転換を行われたといったような相談がございました。
 また、もう一つの事例では、休業復帰後、降格された例でございまして、休業前は役付であったのが復帰後は一般職員へ降格された、このような例がございました。

○水島委員
 民主党案では、業務復帰したときに原職または原職相当職に復帰させることを義務として明文化し、さらに、雇用管理等に関する措置といたしまして、賃金、配置、昇進等に関する処遇について、同一の事業所、同種の労働者との均衡を失することがないようにすることを努力義務として明文化しております。
政府案の指針にもこれ以上に明確に書いていただきたいと思います。
 今の御答弁にございました事例に相当するものも含みまして、まず、休業の取得を理由として、解雇のみならず、減給したり、不利益な配置転換をしたり、降格をしたり、退職金や賞与の算定に当たり休業期間を超えて働かなかったものとして取り扱うことは不利益取り扱いと考えますが、よろしいでしょうか。

○岩田政府参考人
 先生の御指摘のとおりだと思います。

○水島委員
 今の事例のようなことは指針に具体的に書き込んでいただけるというふうに考えてよろしいでしょうか。

○岩田政府参考人
 はい。
指針にはなるべく具体的に書きたいと思います。

○水島委員
 その指針の中に、原職または原職相当職への復帰を明記していただけないでしょうか。

○岩田政府参考人
 実際には、復帰後、原職、あるいは原職相当職にかわっておられるということが多いようでございますし、そういうことは働く人たちにとっては大変よろしいことだというふうに思います。
 しかしながら、そうではないケースについて、人事管理上の必要性、あるいは本人のキャリア形成の必要性上、それ以外の配置転換ということもあろうかというふうに思います。
 そして、その場合に、何が不利益な取り扱いに当たるかといったようなことについても、配置転換の前後で賃金やその他の労働条件がどういうふうに変化しているか、あるいは変化していないかとか、通勤事情がどういうふうになるかとか、そして当人の将来のキャリア形成にどういう影響があるかといったようなことを総合的に比較考量して、不利益取り扱いに当たるかどうかというようなことを判断することになるのではないかというふうに思います。

○水島委員
 今おっしゃったようなむしろ望ましい配置転換、原職に戻らないでもっといいポストにつけてもらうというようなものは、そもそも本人が不利益と感じないわけですから、不利益取り扱いとして申し立てられることもないのではないかと思いますので、この際、そういう事例があるので原職または原職相当職ということが書けないというのは、私はちょっと理屈としてはおかしいのではないかと思います。
 まず、ぜひ、不利益な配置転換ということで具体的な指針を示していただくことももちろん本当に必要なことでございますけれども、大原則といたしまして、原則としてという表現つきで結構でございますので、原職または原職相当職への復帰とする、そのように指針に明記していただくということはかなり大きな前進になるのではないかと思いますけれども、大臣のお考えはいかがでしょうか。

○坂口国務大臣
 例えばこのようないろいろの事情がありました場合に、通常の人事異動ルールからは十分に説明できない配置の変更は、不利益取り扱いに該当する可能性が高いというふうに思います。
 育児休業をします場合に、その前にどういう職場にいたかということによりまして、中には、その後の復帰をしましたときに、それは都合が悪い、そういう職場も中にはあるだろうというふうに僕は思うんですね。
だから、そういうときにはそうした職場の方に転換するということもあるだろうというふうに思いますので、そこは少し幅を持って考えないといけないというふうには思いますけれども、大きな意味での御趣旨というものは理解をしながらも、しかし、今申しましたように、配置の変更は、不利益な扱いに該当する可能性が高いもの、そうしたものにつきまして我々としては考えている、こういうことでございます。

○水島委員
 私は、原職と言っているのではなくて、原職または原職相当職と申し上げております。
 この原職相当職というのは、解釈通達によりますと、個々の企業または事業所における組織の状態、業務配分、その他の雇用管理の状況によってさまざまであるとされておりますけれども、一般的に、職務内容、職制上の地位等の事情について原職と総合的に比較考量の上判断するものであることと、まさに今御答弁の中でおっしゃっているようなことが解釈通達に書かれておりますので、原職または原職相当職と書くことには何の不都合もないのではないかと思いますけれども、何で書けないんでしょうか。
 そこまで慎重に答弁されてしまうと、こういうことをむしろ認める方向に進まないんじゃないかとこちらも何か疑いたい気持ちになってきてしまうんですけれども、どうしてだめなんでしょうか。

○岩田政府参考人
 先ほども申し上げましたように、御本人が希望するのであれば、原職あるいは原職相当職に戻していただくというのは望ましいことでございますし、多くの事業所はそういう努力をしてくださっていると思います。
 ここで法律で規制したいというふうに思っておりますのは、やはり何が不利益取り扱いかということを明らかにした上で、その不利益取り扱いは絶対やらせない、そのための具体的な指針をつくるということでございますから、先生の議論を反対方向からアプローチするというんでしょうか、ねらっていることは同じだというふうに思いますが、何が不利益取り扱いであるかについて、なるべく具体的にお示しをする方向で検討したいと思います。

○水島委員
 育児休業をとっている立場というのは、本当に不安なものでございます。
戻ったときにちゃんと自分の仕事があるだろうか、どんなふうに受け入れられるだろうかということを、そんな不安な気持ちのままで育児をさせないように、ぜひわかりやすい、安心できる指針を書いていただけますように、そして原職または原職相当職という言葉をどうしても使いたくないとおっしゃるのであれば、その裏側にきちんと寄り添うような、全く同じことを意味するような指針を書いていただけますように、それをお願いしたいと思います。
 さて、不利益取り扱いの内容についてさらに質問をさせていただきたいと思いますが、例えば、ボーナスの支給要件として一定以上の出勤率が必要とされている場合に、育児休業を取得し、それが欠勤扱いとなってボーナスが日割り分以上にカットされるというようなケースについては、不利益取り扱いになりますでしょうか。

○岩田政府参考人
 不利益取り扱いに当たると思います。

○水島委員
 また、育児休業をとって職場に戻ってみたら、解雇や減給という目に見える不利益はないけれども、精神的な嫌がらせを受けるという事例もございます。
 育児休業などとって仕事を何だと思っているのだと上司から嫌みを言われたり、育児休業をとったせいで、ほかの社員が不公平だと言って、職場のモラルが低下して困っていると言われたり、君みたいな人はやめてもらいたいくらいだと言われたり、あるいは仕事を与えてもらえない、あるいは一人だけ特殊な部屋に置かれるなど、精神的な苦痛をこうむるような扱いを受けることが実際にございます。
 不利益取り扱いという場合に、このような精神的な苦痛についても配慮されるのでしょうか。

○岩田政府参考人
 育児休業を理由とする不利益取り扱いは、一般論としましては、経済的な不利益だけではございませんで、例えば職場におけるいじめなど、精神的な苦痛を与えるということも含まれるというふうに思っております。
 それを指針でどういう形で書けるかというのはなかなか工夫が要るところかと思いますが、審議会でも御議論いただいた上、検討してまいりたいと思います。

○水島委員
 指針でどういう形に書けるかというふうに今おっしゃったんですけれども、とにかくそのような内容を指針に書いていただけるということは、そういうふうに了解してよろしいんでしょうか。

○岩田政府参考人
 先生も例に出しておられましたけれども、仕事を与えないなどといった職場の処遇といいましょうか職場でのいじめ、そういった精神的な苦痛の問題について、何らかの形で指針に書きたいと思います。

○水島委員
 また、育児休業をとったことを直接の理由としてといいますけれども、その直接の理由というのは、どこまでいうのかということをお伺いしたいと思います。
 例えば、上司の方が、私は育児休業をとったのは構わないと思うんだけれども、ほかの従業員から不公平だと苦情が出ているというような理由で不利益な取り扱いを受けてしまったという場合は、一見直接ではないように見えますけれども、このような事例は含まれますでしょうか。

○岩田政府参考人
 育児休業をとったこととの因果関係があるかどうかということの事実の判断をしていくということだと思います。
人の言葉をかりて自分のことを主張しているということもございますので、事実関係をしっかり確認していくということだと思います。

○水島委員
 その事実関係の確認というのも非常に難しいことだとは思うんですけれども、例えば、それが、上司本人が直接自分の考えをその言葉で語らせているということを本当に証拠としてうまく見つけることができるのかというのは非常に疑問なんですけれども、それをどうやってやるつもりかというのをひとつお伺いしたい。
 また、ほかの従業員からの苦情を処理できずに、それを直接当人に言ってしまうというのは、育児休業を当然の権利として定めた法の趣旨を事業主が理解していないということにもなると思いまして、こういったことは厚生労働省からの指導の対象にはなりますでしょうか。

○岩田政府参考人
 都道府県労働局雇用均等室の方にそういう事例が相談として寄せられましたら、労働局の方では、御本人からしっかり話を聞くということだけではなくて、企業の責任者あるいはその関係者から話を聞いて、不利益な取り扱いと育児休業を取得したということとの間に因果関係があるかどうかということを確認していくということだと思います。

○水島委員
 実際にどのような手続でということは、また後ほどもう少し詳しく伺いたいんですけれども、まずここでお伺いしたいのは、不利益取り扱いの禁止規定に実効性を持たせるためにどのような取り組みをされるかということをお伺いしたいと思います。
 そのような指導をしていったとしても、はいはい、わかりましたと言うだけで、それで終わってしまうのでは実効性を持つとは言えないと思いますけれども、それはどのようにお考えでしょうか。

○南野副大臣
 本当にいろいろな状況に応じては不安なことがいっぱいあるだろうというふうに思いますが、今先生御質問の不利益取り扱いの禁止規定の実効性というものを確保するためには、法案が成立した暁にはというようなことを言わせていただきたいんですが、不利益取り扱いの判断に当たっての考え方、また厚生労働大臣が定めます指針、この中で明らかにしていく。
さらに、各事業所におきましての育児休業等を理由とした不利益な取り扱いということを行わないように、十分指導または周知をしていきたいというふうに思っておりますので、少しでも不安を取り除いていきたいと思っております。

○水島委員
 実際に雇用均等室に相談をされるケースであっても、今の職場で働き続けたいから職場には言わないでほしいとおっしゃいまして、実質的に泣き寝入りする例が多いと聞いております。
それを職場の方に言われてしまうと、自分の立場がいよいよ悪くなって、仕事の環境がますます悪くなるということだと思いますけれども。
 ですから、それだけのリスクを冒して申し立てるわけですから、申し立てが妥当なものである場合には、決定的な打撃を事業主側に与えるくらいでないと実効性は保てないのではないかと私は考えておりますが、例えばそのような事実を公表するくらいは必要なのではないでしょうか。
これは大臣のお考えをお聞かせいただきたいのですが。

○岩田政府参考人
 まず私の方から御説明させていただきます。
 今の育児・介護休業法の中には、違反事業主の氏名の公表をするといったような仕組みはございませんで、地方労働局が助言、指導、勧告、広く行政指導と言っていいかもしれませんが、それぞれ強さが違うということで、助言、指導、勧告という段階を踏みながら指導をしていっております。
 これまでも、先ほど申し上げましたように、育児休業に関する働く女性、男性からの相談はございまして、そういう場合には労働局の方で助言、指導、勧告をしているわけでございますが、今までのところ、法違反があるというケースについては、ほとんどのケースは助言で解決いたしますし、助言というのは口頭で指導するわけですけれども、それで改善されない場合には、次のステップとして、指導ということで指導書を交付して指導いたしておりますが、この段階でこれまではすべて改善を見ておりまして、勧告にまで至るようなケースはございませんので、今法律が持っております助言、指導、勧告というこの仕組みをフルに使いまして、法違反の是正をさせていくことが十分できるというふうに思っております。

○水島委員
 それが十分できる、できないということを今後さらにきちんと検討していただいて、どうしてもこの枠の中ではできないようなケースが出てきたら、公表というような手段も当然考えに入れていただけるということでいいんでしょうか。
これは大臣の判断をお聞かせいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 これは個々のケースによりまして大分違うと思いますから、そこはなかなかお答えしにくいところでございますね。
 これはケース・バイ・ケースによるというふうに思いますが、すべて公表すれば解決ができるというわけのものでもございませんし、その皆さん方の御要望というものが、どのようにしてそれが実現できるかということになるんだろうというふうに思いますから、公表ということだけにこだわるとうまくいかないこともあり得る。
しかし、すべてのことに公表というのを除外するとまでは我々も考えておりませんけれども、そこはよく、ケース・バイ・ケースで考えて対応しなきゃならない問題だというふうに思っております。

○水島委員
 公表ということだけを考えているわけではなくて、助言、指導、勧告という枠組みのさらにその先に公表がある。
公表されることによって、それまでは全く聞く耳を持たなかったけれども、企業イメージの問題などもあって、そこで初めて聞く耳を持つというようなことがセクハラの事例なんかでもあると思います。
そのような現実を考えまして、今後きちんと、今の枠組みの中で解決できるのかどうかをしっかりと監視をしていただきまして、必要なときには公表という手段もお考えいただけますように、今の御答弁であれば、それもきちんと視野に入れていくということでございますので、ぜひお願いをいたします。
 次に、実際の手続をちょっとお伺いしたいんですけれども、不利益取り扱いの申し立てがあった場合に、厚生労働省としてはどのような扱いをされるのかをお伺いしたいと思います。
 例えば、今私が不利益取り扱いを受けたと申し上げるとします。
そうしましたら、具体的にどのような手続を経ながら対応していくのでしょうか。
これは法律を全く知らない素人でもわかるように説明してください。

○岩田政府参考人
 複雑な手続は何もございません。
 働く方が都道府県労働局雇用均等室に出頭していただきますと、電話の御相談も多いですけれども、深刻な事案ですとやはり来室していただいてじっくり話を聞かせていただいた方がいいというふうに思いますが、申し立てる方からよく事情を聞きます。
そして、やはりこれは問題があるのではないかというふうに思われる場合については、次に事業主の方に事情を聞くということになります。
これも、できるだけ呼び出して事情聴取をしましたり、関係する資料を提出させるといったようなこともさせながら、事実関係を確認していくということでございます。

○水島委員
 そのときに、申し立てている人間と事業主との言い分が違うということが往々にしてあると思いますけれども、その場合、立証責任というのはどちらにあるんでしょうか。

○岩田政府参考人
 申し立ての内容が異なるということについては、私どもの方としましては、事実関係がどこか、事実がどこかということを確認するということで最大限の努力をするということでございますので、必ずしも事業主が言っているとおり、あるいは労働者の方が言っているとおりということで進めることではございませんで、行政の責任で事実関係を把握して、これが事実だというふうに判断できれば、しかるべく措置を講ずるということでございます。

○水島委員
 行政の責任で調べて判断していただけるということなんですけれども、どういうふうに調べられるんでしょうか。
 例えば、私はこういう不利益な取り扱いを受けた、いじめを受けたというようなときに、事業主がそんな事実は全くないと言った場合に、例えば同僚がそれを証言してくれたりとか、そういうこともあると思いますけれども、そういったことも行政側できちんと調べられるということなんでしょうか。

○岩田政府参考人
 そうでございます。
実は、セクシュアルハラスメントの相談事案が今大変全国的に多いわけですが、それを通じて私どももいろいろな行政的な手法を学びつつございます。
 使用者と労働者の言い分が違うときに、事実関係を確認するために、もちろん同僚の方の証言を得るということはあり得ますし、また、御本人が、いつどういうことがあったということを克明に記録なさっている方もありまして、その記録が信憑性があるということであれば、そういう事実があったというふうに強く推測できますので、それに基づいて指導するということもございます。

○水島委員
 くれぐれも、こういうときに申し立てをしている労働者というのは、やはり一般的に弱い立場に置かれていますし、先ほど申しましたように、かなりのリスクを背負って申し立てるということもございますし、事業主が言っていることが間違っているんだというようなことを労働者側が全部証明しなければいけないというような構造にはしないでいただきたいのですけれども、それはきちんと証拠をそろえることを労働者側に要求するような構造にならないのかどうかを一つ確認したいことと、あと、このようなものがそろっていれば非常に手続がスムーズになりますというようなことを、労働者側に広くわかりやすいように、指針か何かに書かれる予定はあるでしょうか。

○岩田政府参考人
 先生のお話を伺う前にはちょっと考えておりませんでしたけれども、そういうことが必要かどうか勉強してみたいと思います。

○水島委員
 そうしますと、では、申し立てを行うと、それぞれから事情を聞いて、さらに必要であれば周りの人間からも事情を聞いて、それで最終的に行政の責任において不利益取り扱いがあったかどうかを判断されて、そしてそれに基づいて事業主側に助言、指導あるいは勧告を行う。
そのような構造になっているというふうに理解してよろしいでしょうか。
その中心を担う窓口になるのが、それは雇用均等室ということでよろしいんでしょうか。
――はい。
 では、私も、今最後に御質問しましたことは事前通告もしておりませんで、今お話を伺っている中で、ではこれはどうなるんだろうというのを思ったようなところでございます。
私が今思いついたくらいですから、かなり基本的なことなんじゃないかと思いますので、ぜひ、そのことも含めてわかりやすく対応していただけますようにお願いいたします。
 さて、その不利益取り扱いにも関連するのですけれども、次に、ちょっと個々の条文に移らせていただきたいのですが、第二十一条の育児休業等に関する定めの周知等の措置が、これは今回の改正でも変更なく努力義務にとどまっておりますけれども、これは私は義務にすべきではないかと思います。
不利益取り扱いを禁ずる以上、本人への周知を義務づけるのは当然なのではないでしょうか。

○岩田政府参考人
 育児休業中のさまざまな条件について、あるいは復職後のさまざまな条件について、あらかじめしっかりそれを定め、周知をするということは大変大事だと思います。
 と申しますのも、働く方たちが育児休業をとるべきか、とるのをやめようかとか、どのくらいとろうかといったようなことを選択するときにも必要な情報だというふうに思いますし、また、復職した後の労使間のトラブルを未然に防止するという観点からも必要なことであるというふうに思っております。
 先生の御発言の趣旨は、現行の努力義務を強化すべきではないかということかと思いますけれども、このあらかじめ定めて周知をしておくようにということで求められております事項が幾つかございますが、その中で賃金とか労働時間などに関することもございます。
これらについては、一方、労働基準法の中で定めがございまして、常時十人以上の労働者を使用する事業所においては、あらかじめこれらの事項については就業規則という形で定めてそれを周知させなければいけない、そのことを罰則をもって担保するという法制になっております。
 このために、育児休業等に関する定めの周知を義務化するということになりますと、これらの常時十人以上の労働者を使用している事業所については、既に規制のあることでございますので、二重規制になるということがございますし、一方では、逆に十人未満の事業所については、労働基準法の取り扱いと均衡を失するという問題も出てきまして、過剰な規制になるということにもなりますので、この育児・介護休業法の中で今の規定を義務化するというのは、措置義務とするというのは法制上難しいのではないかというふうに思います。
 ただ、先生のおっしゃる趣旨はもう全く同感でございまして、あらかじめ諸条件を定めてそれを関係者によく周知するということ、そのことがしっかりやられるように、私どもも啓発、そして、具体的に何か問題がありましたら個別の指導もしっかりやっていきたいというふうに思います。

○水島委員
 ほかの法律との整合性ももちろんなんでしょうけれども、やはりこの法律だけで見ましても、不利益取り扱いを禁ずるという、そちらの方は義務規定という強いものになっているのに、それの前提となる定めの周知というのが努力義務になっているというのは、この法律の中で見ましてもおかしいのではないかと思いますので、現実的にきちんと対応していただきまして、実質的には本当に義務と同じくらいに運用できるように、そうして初めてこの不利益取り扱いの禁止ということが意味を持ってくるのではないかと思っておりますので、今の質問の趣旨をぜひ御理解をいただきまして、そちらの方向で御検討をいただけますようにお願いをいたします。
 そして、次に、第二十八条についてお伺いしたいのですけれども、「厚生労働大臣は、第二十一条から前条までの規定に基づき事業主が講ずべき措置及び子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべきその他の措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るための指針となるべき事項を定め、これを公表する」とございます。
 二十四条までの部分に関しましては既にあるところでございますけれども、その残りの二十五条から二十七条までのそれぞれについて、新たに指針を定められるのでしょうか。

○岩田政府参考人
 今のところ、厚生労働省としては、それらについて特段指針に盛り込むべき事項があるというふうには考えておりませんけれども、関係審議会の審議の中で労使の御意見も聞きながら、必要なものがあればまた検討してまいりたいと思います。

○水島委員
 確認させていただきますと、今の段階ではそれぞれについての指針をつくるおつもりはないというふうに受け取ってよろしいのでしょうか。
――わかりました。
 次に、第二十九条についてお伺いしたいのですけれども、事業主は職業家庭両立推進者を選任するとありますけれども、この新たに定められた職業家庭両立推進者というのは、どのような仕事をする存在であって、どのような基準で選任されるのかを教えていただきたいと思います。

○岩田政府参考人
 このたびの改正法案で盛り込みました職業家庭両立推進者は、企業の中におきまして事業主を補佐する立場で、育児・介護休業法で求められております措置を確実に実施をする、あるいは仕事と子育てや介護が両立できやすいような職場の雰囲気、環境を率先してつくっていくといったような、そういう役割を担っていただく担当者でございます。
 例えばですけれども、法律上措置をとることが義務づけられている、あるいは努力するように求められているような事項についてでございますが、育児休業制度について就業規則を作成するとか、それを社員にしっかり周知するというお仕事ですとか、勤務時間の短縮などの制度についても制度の設計をしたり、それを周知したりするような仕事ですとか、あるいは子供の看護のための休暇制度を導入するために企画をしましたり、運営を実際にするといったような仕事もあろうかと思います。
 また、法律にもその必要性がうたわれておりますけれども、職業生活と家庭生活との両立が重要である。
遠慮なく育児休業、介護休業の取得ができる、また戻ってこられる、そういう職場の雰囲気といいましょうか、そういう企業の社風づくりといいましょうか、そういうことにもぜひ活躍していただきたいというふうに思っております。
 選任の基準については、具体的な資格などを設けるつもりはございませんけれども、職業家庭両立推進者のただいま御説明いたしましたような業務を遂行していただくために、必要な知識経験を一定程度お持ちの方というようなことで選任していただくことになるのではないかと思います。

○水島委員
 その知識や経験をどのように判断するのでしょうか。
研修か何かを通して、それをきちんと終えた人がその職業家庭両立推進者として選任される資格を持つとか、そういった形にはされないのでしょうか。

○岩田政府参考人
 先生が今おっしゃったような形にはならないと思います。
ただ、本当に専門性が必要と思われますので、選任された方たちに、例えば二十一世紀職業財団に広報啓発のための事業をお願いするということを考えておりますけれども、その事業の一環としましてこういう責任者を集めてしっかり研修していただくというようなプログラムも考えてまいりたいと思います。

○水島委員
 では、そうしますと、最初に選任する段階で事業主側にもそのような知識が余りないようなときに選任するのだとすると、余り正しい選任が行われないかもしれないわけですけれども、その後の研修を通して、またいろいろな指導を通してきちんと成長していただく、そのような考え方と理解してよろしいのでしょうか。

○岩田政府参考人
 これまでも、例えば雇用均等推進を図るためには雇用均等推進責任者を設置していただきましたり、また、パートタイム労働者の処遇の改善などを図るために、パートタイムの雇用管理責任者を設置したりいたしております。
 それらの経験から言えますことは、企業の方は、やはり従業員の中からこういう人事管理、特に仕事と子育ての両立の分野についてしっかりした経験のある方から選任していただけるというふうに思っておりますし、選任された暁には、さらにその資質の向上を図るというような観点から、先ほど申し上げましたような研修もやってみたいと思います。

○水島委員
 今回、職業家庭両立推進者の選任というのが新たな事項として加わったわけでございますけれども、今回からこれが加わったその理由だけ、一言教えていただけますでしょうか。

○岩田政府参考人
 大きな理由を申し上げますと、仕事と子育ての両立ができるような職場をつくっていく、私どもはそれをファミリー・フレンドリー企業というふうに呼んでおりますけれども、そういう職場をつくっていくためにはやはり相当、企業の風土といいましょうか、社風を変えないといけないということがあると思います。
 制度の整備ですとそれは事務的にできることかもしれませんけれども、実際に制度を導入し、運用し、男女の労働者が使いやすいようなものにしていくためには、職場の雰囲気づくりというものが大変大事だと思いますので、そういうこともあり、今回、責任者を必ず選任していただいて、その方が先頭に立って職場の雰囲気を変えていくというふうなことをお願いしたいと思っております。

○水島委員
 一歩前進していくために、企業の雰囲気を変えていくために新たにつくられた制度であるということでございますので、ぜひ、これが単に形骸化してしまわないように、だれかが片手間にやって、余りまじめにやっていないなどということにならないように、しっかりと指導していただきまして、実効性を持たせるように工夫をしていただければと思います。
 そしてまた、同じく新たに加わりました第三十三条でございますけれども、職業生活と家庭生活の両立に関する理解を深めるための措置を国が講ずると新たに定められておりますけれども、今回これが新たに加わった理由は何でしょうか。

○岩田政府参考人
 国の広報活動についての法律上の規定を新たに設けた理由でございます。
 これも先ほどの答弁と重なりますけれども、子育てをしながら働きやすいような職場をつくっていくためには、経営者、管理職の方はもちろんですが、働く方々すべてを含めて、やはり相当マインドを変えていただかないといけないというふうに思っております。
例えば、子育ては女性の仕事だというような男女の固定的な役割分担についての意識、これは我が国には非常に根強いものがあるというふうに思っておりますし、多少家庭生活は犠牲にしても仕事で頑張るんだといったような、過度な職場優先の風潮も根強いものがございます。
 そういうことで、育児休業、介護休業その他の措置も含めてでございますが、そういうものを本当に利用しやすくするために、そういった人々の意識や企業の風土を変える必要があるというふうに思っております。
特に男性が、こういうせっかくの制度があってもなかなか利用しづらいということがございますので、そのことを考えても、その必要性は非常に高いというふうに思っているところでございます。
 そういうことから、国民一般に働きかけるということもございますし、企業の経営者、管理者、働く男女の労働者、そういう方たちに、広く広報活動を通じまして働きかけをしていきたい、そのための根拠の規定を設けていただいたと思っております。

○水島委員
 意識を啓発するための広報活動ということでございますけれども、かなりこれは戦略的に行わないと、ただ広報物だけが出て、いつまでも人の意識が変わらないという結果に終わってしまうのではないかと思います。
 どのような手段、どのような措置が有効だと思われているか。
人の意識というものを変えるためにはどのような手段が有効であるのか。
この例ではなくてもいいのですけれども、何かデータはお持ちでしょうか。

○岩田政府参考人
 データはございませんが、私どももさまざまな取り組みをしてまいっております。
たまには人を褒めることでその努力を促し、たまには、そういうことであっては困るということで指導することによって是正をする、さまざまな手法でやってきているわけでございます。
 例えば、先ほどファミリー・フレンドリー企業という概念を少しお話しいたしましたけれども、ファミリー・フレンドリー企業にすべての企業がなっていただくように、例えば一年に一度、先駆的な、ほかの企業にとってモデルになるような企業を大臣表彰、あるいはそれぞれの地域で労働局長が表彰するといったようなこともやっております。
また、好事例を集めて、こういうふうにすればうまくいっている企業があるといったようなことを労使に情報提供していくということもそうだというふうに思います。
 また、新しいこととして今年度着手したいと思っておりますのは、仕事と子育ての両立指標、企業がどの程度達成できているかというようなことをはかるための指標を開発したいというふうにも思っておりまして、例えばそういうものを使って企業の方にみずから自己点検していただくといったようなこと。
それ以外にもさまざまなやり方があろうかと思いますが、なかなか一朝一夕にまいりませんし、この方法だけがいいというようなものもございません。
さまざまなことを組み合わせながら、できるだけやっていきたいと思っております。

○水島委員
 今お話しになったようなことも、もちろん企業に対して有効なところもあるとは思いますけれども、目が企業を向いている限り、大企業はやるかもしれないけれども、中小はなかなかそういう余裕がなくてというようなことにもなってまいります。
 私は、やはり社会全体の風土といいますか、意識が変わっていくことが大前提として必要であると思います、それこそが一番難しいところであるとは思いますけれども。
先ほど冒頭に申しましたような三歳児神話に関するデータでございますとか、実際に両立した人の方が、スムーズに両立できた人の方が仕事の能率が上がるですとか、そういったデータをぜひとっていただきまして、せっかく厚生労働省と、一つの省になられたわけでございますので、厚生分野でこれがストレスにどうなっているとかそういったことを、いろいろな知識をすべて総合した上での啓発活動をぜひしていただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 そして、社会全体の意識が変わるということに関しましては、例えば、かなり意識変革に成功してきている北欧の例などを見ますと、やはり女性の政治家がふえて、制度が変わってから意識が変わってきたというような側面もございます。
意識が変わるのを待つ前に、政策で誘導しないとなかなか意識というのは変わらないのが実態ではないかと私は思っております。
そう考えまして、民主党案ではパパクオータ制などを導入して、制度が意識を引っ張っていくというような構造をとらせていただいているわけです。
 そのように政策で誘導していくということに関しまして、大臣はどのようにお考えでしょうか。

○坂口国務大臣
 それは両方あるだろうというふうに思います。
制度で誘導するということも大事だというふうに思いますし、それでは制度だけでいくかといえば、制度だけでいかない部分もある。
やはり全体の意識改革というのは制度だけで進まない部分もあるわけでございますから、そこは両方相まって進めていくということが大事だろうというふうに思います。
 制度の改革は、比較的簡単という言葉は当たらないかもしれませんけれども、できると思うのですが、やはり意識改革というのをどう進めるかということが大変大事で、それは先ほどからお話しになりますように、さまざまな情報をやはり提供して、これは決して、長い目で見れば、大きな目で見れば、そのことがいかにプラスかということを経営者にもわからせなければならないだろうというふうに思います。
そうした幅広い努力がやはり要求されている法律であるというふうに考えております。

○水島委員
 今大臣は、まさに制度を変えていける権限を持っていらっしゃるわけでございます。
ほかの人がそうしたいと思ってもなれないポストにいらっしゃるわけでございますので、今は、意識を変えるというのは、いろいろなところで、民間レベルでも工夫していきたいところではございますけれども、制度を変えられる立場にいらっしゃる方といたしまして、ぜひ、政策で引っ張る、そちらの方に力を尽くしていただきたいと思っております。
 本日私が質問してまいりましたことは、今までもずっと指摘されていながら、わずかずつ進んではいるのかもしれないけれども、いまだにずっと同じ壁にぶち当たっているというようなテーマのものが多かったと思います。
その中で日々苦しんだり、またストレスをため込んだりしている労働者の方たち、そしてそのもとで育てられている子供たちのことを考えますと、この壁は本当に早く突破をして、この国会での審議も、もっと上のレベルの審議ができるべきではないかと思っております。
その壁を突破していくためには、私は大臣のリーダーシップがあればそれで十分ではないかと思っております。
 何度もお願いを申し上げますけれども、本当に本日の質問の趣旨を御理解いただきまして、いろいろなところで制度が少しでも前に進んでいくような御英断をいただけますように改めて心よりお願いを申し上げまして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。
ありがとうございました。



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