法務委員会(2003年5月21日)



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「名古屋刑務所問題」について




○山本委員長

 次に、水島広子君。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 本日は、参考人の皆様、お忙しい中、ありがとうございます。
私も精神科の医師でございまして、もともと勉強が足りない上に、今は臨床を離れておりますので、余り偉そうなことが言える立場ではないんですけれども。
 そんな私の目から見ましても、今回、この名古屋刑務所の問題で、いろいろと審議の中で資料を見たり、また刑務所まで視察に二度ほど参りましたり、そんな中で、いろいろと驚いたことがございました。
 その驚いたことの一つは、先ほど清水参考人がおっしゃったような、例えばカルテの書き方のずさんさであったり、あるいは不審死が異常に多いというようなことであったり、また、死亡原因に急性心不全という、これは、私が臨床現場にいたときから、もう今は死亡診断書に急性心不全というのを書いてはいけないんですよということを、私も駆け出し時代に指導を受けたのを明確に記憶しておりますけれども、そんな急性心不全という死因が非常に多いことであるとか、そのように、非常に驚くことが多々ございました。
 そして、これは、突き詰めていくと、やはり医療の問題なのではないかなと思うようなところがいろいろございましたので、本日、こうして御意見を伺える機会を得られましたことを大変ありがたく思っております。
 驚きましたことのもう一つが、今回、今ずっとここのところ話題になっております放水事件でしょうか、その被害に遭われた方の一連の経緯を見ておりまして、少々驚きましたのが、死亡診断書が存在しているということでございます。
 あの方は結局、肛門直腸裂創を負われて、そして縫合手術を受けて、その後に急変して亡くなったというような、そんな経過であったわけです。
私、これはそんなに、死因が特定できるような、その後すぐに急死することが予想できるような手術でもなかったわけですし、やはり異常死なのではないか、そのように思っておりますけれども、それで、現場に参りまして、縫合をされたドクターに、何で死亡診断書を書いたんですかと。
その死亡の原因が、やはり直接の死因というのがおなじみの急性心不全となっておりまして、何でこんなものが存在するんだろうという素朴な疑問を持って現地に参りましたので、直接お話を伺いました。
 先生は死因が特定できたんですかと伺いましたら、できませんでしたと。
ただの肛門直腸裂創だと思って縫って、術後の経過も順調だと思っていたら突然亡くなってしまったというような、そういうケースだったのではないでしょうかと言いましたら、そうですと。
その場合に死亡診断書を書くということに関して、先生はちゅうちょされなかったんですかというふうに聞きましたところ、ちゅうちょしました、わからなかったので聞いたところ、ここは診断書でよいと言われたと。
その言った人が刑務所の方だったのか検察の方だったのかよくわからないけれども、とにかく言われたというふうにおっしゃっているわけでございます。
 私、きょうこの場で個人のドクターが施された医療が適正であったかどうかというようなことを争うつもりは全くございませんし、また、この一連の経緯の本当の真実が何だったのかというのは、もちろんそれは裁判の場で明かされていくべきことだと思ってはおりますけれども、ただ、いろいろとお話を伺っていきますと、どうも適正な医療が確保できない状況に、医師がこうしようと思っても何らかの圧力によってそれがきちんと行使できない状況に刑務所というのはあるのではないかな、そのような疑念を抱くに至りましたので、そのような観点から質問をさせていただきたいと思いますので、ぜひそのような趣旨の質問だということでお答えをいただきたいと思うんですけれども。
 その縫合をされたドクターは二村参考人の医局の方だというふうに聞いておりますけれども、そのあたり、卒後十年前後の方が大体刑務所にいらっしゃる。
卒後十年といいますから、ある程度経験を積んでいる、そのくらいの医師がなぜそのようなときに死亡診断書に、直接の死因のところに急性心不全と書いて処理してしまったんだろうかというのが、私、非常に心にひっかかっております。
 まず、これは本当に嫌みではなくて、本当に純粋な質問として聞いていただきたいんですが、二村参考人の医局で、やはりそういう場合には安易に死亡診断書なんというのを書くものではなくて、きちんと検案するなりなんなり、そのようなことはもちろん指導していらっしゃるわけですし、そういう今回のこのようなケース、二村参考人がごらんになっても、何だったんだろうなというふうに思われたことはございませんでしたでしょうか。

○二村参考人
 私は今回、先ほども申し上げましたように、新聞報道されてから初めて知りまして、法務委員会の方々が来られて、こういうことがあったということを知ってからですから、私の知識は随分少ないかなというふうには思いますが、御本人にいろいろ聞いてみましたところ、いわゆる今回の事例は、汎発性の腹膜炎がいつの時点からあって、おしりの傷の損傷の手術をやったときに腹膜炎の状態が本当にどんなふうであったかということが一番ひっかかることかなというふうに思いますが。
 診断書の件について申し上げますと、それもちょっと聞いてみたんですが、死亡時刻からちょっと余り時間がなさそうだったから、大変迷ったのであるが死亡診断書にしてしまったと。
通常は死体の検案書にするということは常識的に本人も知っておったようですが、詳しい判断基準がどうだったかということは、はっきりとしたことは本人は言っておりませんので、今おっしゃったようなのが原因かなというふうに思いますが、死体検案書はどういうときに書くのかということは知っておるかと思います。

○水島委員
 ありがとうございます。
 ですから、多分突然の事態で、御本人も、その手術をされた当人として、何でこんなふうになったんだろうと動揺されているところで、だれかにそう言われたからやったんだというふうにおっしゃっていて、言われたからやるというのが医師としてどうかというのはまた別の問題だと思いますけれども、そういうことに関してきちんと明確にしておかなければいけないその現場の慣習のようなものが刑務所の中にあるのではないのかなと、非常にその一件から思ったわけでございます。
 ぜひまたそんな観点からの、二村参考人もご当人に、また御自身も刑務所での勤務の御経験もあるということでございますので、本当にその医療が何らかの行政の圧力ですとかそういったことで恣意的にゆがめられることがないようにしていかないと、適正な医療は確保できないと思いますし、これは場合によっては、今もちろんそれは法務省がすべて管轄しているわけですけれども、そこの医療の部分だけは厚生労働省が所管すればそれでよくなるかというとわかりませんけれども、全く独立したものにしていかないとなかなか透明性が確保されないのではないかなど、私、今回の件でいろいろ考えておりますので、ぜひまたそんな観点からもいろいろこれからも御指導いただければと思っております。
 また、もう一つ、今回の医療に関して不思議に思いましたのが、その当時、肛門直腸裂創の負傷をされていた方は会話ができる状態ではなかった、つまり会話が成立しなかったということですので、何でそんな傷ができたのかということを御本人から確認することは全くできていないわけです。
 いろいろこれはドクターからも聞きましたし、また刑務官の方からも聞いたんですが、何かうううっという声を上げて四つんばいになっているような程度で、何かこれでやったというようなことが説明できる状態ではなかったと。
そのようなとき、そんな状態で会話もできないと意識レベルの確認というのもなかなか難しいんじゃないかと思うんですけれども、そんな状態で、当時暴れてもいなかった、それでも、おしりをちょっと縫う程度のことをなぜ全身麻酔をかけたんですかと聞きましたら、暴れる人だからと。
 その理由はわかるんですけれども、当時暴れていたわけではない、日ごろから暴れ者だったということでおっしゃったんだと思うんですけれども、そういう意識レベルがきちんと確認できないような状態で、これは私も推測で話しているので一般論としてお答えいただければ結構でございますけれども、意識レベルがきちんと確認できないような状態で、おしりに傷を負っている、ただ、その負傷の原因がどうだかよくわからない、そういう方に対して、速やかに全身麻酔をかけて縫合術を行う。
 それも、ほかにどこに負傷しているか、原因がわからなければほかにどこを探したらいいかというのもわかりませんので、そういう中で、とりあえずおしりだけを縫ってすべてが済んだと思うというのは、ちょっと医療者としては不注意かなという感じも私はするんですが、ただ、それもそのドクターが不注意だったということを責めたいわけではなくて、周りが、この人はこういう理由でけがをしているんだから、先生、早く縫っちゃってよというような圧力をかけるというのは現場では十分あり得ることかなと思うんですが、そのあたり、何かお聞きになっていたり、何らかの御感想があったらお伺いしたいと思うんですが。

○二村参考人
 実は私、詳しいことは今聞いてはっきりわかったんですが、余り聞いておりませんのでちょっとわかりませんが、出血をしておるから縫合処置をしてほしいという連絡が入って手術をした、止血しないといけないと。
 それから、先ほど言いましたように、おしりのところの手術というのは、あおむけに寝まして、足をこういうふうに上に上げるんですね。
砕石位といいますが、お産のときの体位ですね、あの体位じゃないとできません。
あるいはうつ伏せでもできるんですけれども、ジャックナイフ体位といって、こんな格好で、頭を下げておしりを出すという。
いわゆるそういう体位で手術をやりますときには、動いていただくと全く何もできませんので、それで動くといけないので全身麻酔をかけた、そういうふうに聞きました。
先ほど申し上げましたように、全身麻酔をかけるときに、腹膜炎を起こしている、そういうようなことには全く気づいていないというふうに言っておりました。
 ですから、私はわかりませんが、そういう事態に陥る前に、拘禁状態、何か縛られておったような状況とかいろいろな状況にあったみたいですので、いわゆる通常の腹膜炎の症状が起こる患者さん、まともな状況で起こってくる患者さんとは全身の状況が全く違うかと思いますので、その辺が、もしも腹膜炎を見逃しておったというふうに御指摘になるのであれば、その原因は、患者さんが、その前の状況が通常の状況でなかったということも、事態の判断をもしも誤っていたとしたら、そういうところにもバックグラウンドがあるかなというふうに思います。

○水島委員
 確かに御指摘のように、恐らくこの方は今までこういう状況に置かれていて、それで今回、今こういう状況になってという、医療者としての適正な判断をするだけの体制に非常に乏しいのではないかなというのは、私もこのいろいろなずさんなカルテなんかを見まして感じたところではありました。
 その場合に、ただ、いろいろこのカルテの質、確かに私も大したカルテを書く者ではございませんので本当に偉そうなことは言えないんですけれども、そんな私が見てもちょっと驚くようなカルテがあったということでございまして、これは本当に、先ほど清水参考人が指摘されていたとおりでございます。
 本当に、これを見てこれは質が低いというのは確かにそのとおりなんですけれども、清水参考人にお伺いしたいんですが、何でそんなことになっているんだろうという、率直にどういうふうに考えられますでしょうか。

○清水参考人
 私たち医療従事者は、貧富の差あるいは思想、宗教に関係なく患者さんを診るということが大事なんですけれども、どうも塀の中と外では見方が違うのではないかというふうに感じました。

○水島委員
 ありがとうございます。
 その塀の中の話なんですけれども、確かにその見方が違うというのも一つあるかもしれない。
また、もう一つは、先ほどからずっとこの中でもお話が出ていますように、覚せい剤を乱用している方が非常に多かったり、あるいは拘禁反応で非常に難しい状況になっておられたり、あるいはもともと人格障害を持っていらっしゃって本当につき合いが難しい患者さんが多かったり、そういういろいろな理由もあってだんだんとそういう今の現状に至ってしまっているのではないかなと思うところもあるわけでございます。
 今度は、精神科医として西島参考人にお伺いしたいと思うんですが、私、前に刑務所で革手錠のこととかヘッドギアのこととか、いろいろ聞きましたときに、よくここの人は、頭の中にもう一人人がいると言って、そいつをやっつけてやるんだといって頭をがんがんと壁に打ちつけるもので、そういうときはやはりヘッドギアをさせなければいけない、ヘッドギアを取らないようにするためにやはり手錠をかけなければいけないと。
 その理屈だけを聞くとそうなんですけれども、それは明らかに異常体験をされている方ということで、この人が、同じような病状の方が精神病院にいれば、きちんと薬物投与を受けて、少なくとも、いつまでもがんがん打ちつけているような状態がずっと放置されずに薬物治療を受けているだろうなと思ったわけでございますけれども、少なくとも私がそこに勤務していたらそうするだろうと思うわけです。
 本当に、先ほどから、今審議中の心神喪失者医療観察法案のことを西島参考人もおっしゃっているわけですが、例えばあの法案の対象となるような、たまたま犯行当時心神喪失状態で、あちらの法律に乗っていく人もいる。
ただ一方では、病気としてはほとんど同じ状態あるいはもっと重いけれどもたまたま何らかの事情で刑務所に行っている方がいる、犯行時点に心神喪失ではなかったというようなことで刑務所に来ていたりというような方がいる。
 そういう場合に、あの新法についてはまだ施行されませんし、まだ成立もしていませんから、そこでどういう高度な医療が行われるかというのはまだ何とも言えないところですけれども、少なくとも医療を受けられる、片方では医療を受けられない、頭を打ちつけるままに、ただヘッドギアだけされて放置されているというようなことは、何だか医師として見ますと非常に矛盾していることだなと思うわけです。
 そのあたり、全般的にどのような御見解を持たれますでしょうか。

○西島参考人
 先ほどから水島委員もおっしゃっておりましたけれども、人格障害、精神病質という方々の処遇というのは非常に困難であるということは、専門医でございますのでおわかりいただけるというふうに思います。
 それで、では精神科病院でどういうような対応をしているのかということでございますけれども、やはりそういう粗暴な行動がある場合には当然薬物は使いますけれども、薬物を大量に使いますと心不全を起こしてきたり、呼吸困難を起こしてきたりというような状況もございますので、やはり適量という部分があろうかと思います。
 そうすると、十分な抑制ができないという形になりますと、当然それには身体抑制をかけるということもやはり精神科病院では行われているわけでございまして、私自身、精神保健指定医の審査をしておりますけれども、結構多いんですね。
保護室に入れて身体抑制をかけているというのが多いんですね。
 ですから、そういう方々の状況を見ますと、やはりかなり粗暴な行動が多いということでございますので、必ずしも、刑務所の中でと精神科病院とで何が違うのかといいますと、薬物を使ってある程度の抑制はできる、しかし、そういう処遇困難な方々はやはり身体抑制も必要だということでございますので、このあたりを今後きちんと研究していく必要性があるだろうというふうに思いますね。
今まで、安易にそういう身体拘束というのを治療の場でも使っているのではないかなという気がしないでもございません。

○水島委員
 確かに、御本人の安全を確保するためにどうしても拘束しなければいけないような状況があるということは存じております。
ただ、もちろん、私もその指定医として御指導を受けている立場なんだと思いますけれども、それは拘束するよりは保護室である程度自由な空間を与える方が御本人にとってはまだいいんだというような、そういう流れで全体的には理解が進んできているんじゃないかとは思います。
 ただ、そんな中で、今西島参考人は、刑務所と医療との違い、どちらかというと拘束というような点から御説明くださったんですが、私は、刑務所の中でどこまで適正な医療、薬物投与にいたしましても、確保できるんだろうかというのをちょっといろいろ疑問に思っております。
 先ほどどなたかおっしゃっていたように、そこの刑務所の敷地の中にむしろ病院を建てちゃった方がいいんじゃないかというのは、それは確かにそうかなと思うところは、先ほど申しましたように、いろいろな圧力で適正な医療が確保できないのも問題だと思いますし、また、特に精神科の治療の中では、人格障害の治療に取り組んでいるイギリスの司法精神病院のような、そういう特別病院の方の話なんかを聞きますと、やはり病院の場合には精神療法をする場合にも対等な、親密な人間関係をつくる、ただ、それを刑務所で、幾ら看護師の資格を持っているとしても、刑務官がやろうとすると、どうしても管理する関係になってしまうのでなかなか難しいんですよというような話を聞いたことがございます。
 私は、やはり刑務所で行われる、仮にそれが場所が刑務所であるとしても、医療というのはまた医療なんだろうなと思っておりますし、それは医療者が施さなければいけないんだろうなと思っているわけでございます。
 そんな中、もう時間になりましたので、最後にもう一言だけ確認させていただきたいんですけれども。
 刑務所の中において、先ほど拘束という点から主にお答えをいただいたわけでございますけれども、同じような病状なのに、たまたまちょっとボタンのかけ違いで、ある方は今度の新法に乗ることもあって、またある方は刑務所に来られることもある。
その中で、私は、あの法案の審議が始まった当初から、むしろすぐに進めなければいけないのは行刑施設における精神医療の充実ではないかということをずっと訴えてきたわけでございますけれども、その点については西島参考人も御同意いただけますでしょうか。

○西島参考人
 今までの措置入院の主な問題点は、人格障害それから精神病質という、この二つが措置入院の対象になっているというところに一つの問題ができたんだろうというふうに思うんですね。
それが、昭和六十年前後だったと思いますが、某病院のああいう死亡事件までつながったというようなこともありまして、これはきちんと是正しなきゃいけないわけでございますけれども、安易に精神科病院がそういう形で使われてきた、そういう歴史的な事実はあるだろうというふうに思います。
 そういう意味で、これはきちんとやはり整理をして、それなりの事件を起こされた方であれば、責任能力があるのであれば、やはりちゃんとした刑を受ける必要性があるのではないかというふうに私自身は思っております。
 それからもう一つは、先ほどから私申し上げておりますように、人格障害の方、精神病質の方で、本当に治療意欲を持っておられるかどうかというのが一番ポイントだと思うんですね。
我々医療関係者は患者さんをよくするために努力はいたしますけれども、やはり御本人が治療意欲がなければこれは幾らやっても変わらないわけでございますので、そういう観点での振り分けというのは必要かなというふうに考えております。

○水島委員
 どうもありがとうございました。



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