法務委員会・厚生労働委員会
連合審査会
(2002年7月5日)




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「心身喪失者医療観察法案」について




○園田委員長
 水島広子君。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 まず、冒頭に一つお願いしておきたいんですけれども、午後の委員会になりましたら出席されている議員の数は非常に多くなったようですけれども、それとともに何か私語の量もふえてきたようでございまして、一番後ろの席で聞いておりましたところ、なかなか審議が聞き取りにくいところがございました。非常に重要な審議でありますし、私も本当に答弁を一言一言聞き漏らさないようにしていきたいと思っておりますので、ぜひ委員の皆様には御協力していただけますようにお願い申し上げます。
 さて、本日もちょっと冒頭に確認をさせていただきたいことがございます。
 まず、法務大臣、厚生労働大臣、両大臣にお伺いしたいんですけれども、もしも、きょうでもきのうでもいいんですけれども、池田小学校と同じような非常に残虐な事件が起こったとして、そしてメディアが、どうもその犯人は精神障害者手帳を持っていたとか、過去に措置入院歴があったようだとか、そのようなことを報道して大々的にやっていた場合に、談話を求められたとしましたら、両大臣はそれぞれどのような談話をお出しになりますでしょうか。法務大臣、厚生労働大臣、それぞれお答えいただきたいと思います。

○森山国務大臣
 御質問は仮定の事柄にかかわることである上に、御指摘のような痛ましい事件が再び起きることがないようにと願っておりますので、御質問に対する答弁は差し控えさせていただきたいと思います。
 なお、あくまで一般論として申し上げれば、何らかの事件が発生した場合に、法務大臣として捜査中の具体的な事件についての所見を申し上げることは適切でないと考えておりまして、事件に対するコメントは差し控えると思います。

○坂口国務大臣
 あってはならないことでございますけれども、もし小学校でそういうことが起これば、それは文部科学大臣の担当でございますから、私が談話を出すということはないというふうに思いますけれども、もしそうしたことを聞かれるということがあれば、やはり再びこういうことが起こらないようにするためにどうしたらいいかということを考えなければならないというのが、私の、もしあるとするならば、そういう答弁だろうと思っております。

○水島委員
 坂口大臣に重ねてお伺いしたいんですけれども、そのコメントを求められたときに、どうもこの犯人は精神科の患者みたいなんですけれどもと、そのようなことを言われましたときにはどのようにお答えになりますか。

○坂口国務大臣
 よく調べさせていただいて対応させていただきますと言う以外にないと思います。

○水島委員
 極めて慎重な御答弁を両大臣からいただきましたが、昨年の小泉首相の出されたコメントとは随分違っているなと改めて感じたところでございます。本当でしたら、そのような精神障害者に焦点を当てさせないように、それを軌道修正するようなコメントをいただければなおよいと思いますけれども、昨年の小泉首相の事件の翌日に出されたコメントと、今の両大臣それぞれのお答えを伺っておりまして、先日、法務委員会で両大臣に小泉首相の対応についての批判的な御答弁を求めたところお答えいただけなかったわけでございますけれども、今のお答えを伺いまして、やはり昨年の小泉首相の事件直後の言動に関して、あれは正しくない対応であったのだということを両大臣御認識になっているということを確認させていただいたと思います。
 さて、それではこの法案そのものの質疑に入らせていただきたいと思いますけれども、前回、私が法務委員会で質問をいたしましたことに対していろいろと御答弁をいただいたわけですけれども、どうも答弁が、こちらが求めていたものとは違うような方向に何度となくそれてしまいまして、私も改めて速記録を読み返してみましたけれども、何をお答えになっているのかよくわからないような箇所が幾つかございましたので、本日はまずその確認から入らせていただきたいと思います。そして、前回、さんざん審議をしたことでございますので、これにつきましては大臣から総括した御答弁をいただきたいと思います。
 まず伺いたいのは、政府が目的としていることを達成するために、現行の措置入院制度の改善ではなく、新法の立法でなければ対応できない点は何かということを厚生労働大臣から総括してポイントを絞って御答弁いただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対しましては、必要な医療を確保し、その病状の改善とこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、本人の社会復帰を図る、このことが重要であるというふうに考えております。
 心身喪失等の状態で重大な他害行為をした者を現行の精神保健福祉法の措置入院制度により処遇することにつきましては、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することになりますため、専門的な治療が困難となり、また、他の患者にも悪影響を及ぼしかねないこともございます。このような者についての入退院の判断が事実上医師にゆだねられておりまして、医師に過剰な責任を負わせることになっていることも挙げなければなりません。都道府県を超えた連携を確保することができないことも現実でございます。退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みがないことなどの問題があると考えております。
 このため、今回の法案では、広く精神障害者一般をその対象とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象として、適切な医療を継続的に確保する必要上、自由に対する制約や干渉が強くなることもあり得ますことから、医師と裁判官により構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備したわけであります。国が責任を持って専門的な治療を行いますとともに、退院後の医療の中断が起きないように、継続的な医療を確保するための保護観察所による観察、指導の制度を整備していくことにしたものでございます。
 したがいまして、現行の精神保健福祉法とは別の新しい法律とすることが適当と考えたところでございます。

○水島委員
 今いただいた御答弁の中で、前回も私は入院と通院とをちょっと分けて質問をさせていただいていたわけでございますけれども、少なくとも入院の部分に関して、現行の措置入院制度の改善ではカバーし切れない点というのはどこになりますでしょうか。

○坂口国務大臣
 先ほど申し上げましたことに尽きているというふうに思いますが、一つは、対象とする人が違うわけでありますから、そこがスタートからして違うわけでございます。そして、この皆さん方を再びそうした重大な問題を起こさないようにさせていくためには、かなり整備をされたと申しますか、マンパワーといたしましても整備をし、そして的確にその人たちに対応をしていく、そういうことが大事でありまして、そういうことを徹底的に行うという趣旨からいきまして、やはりこの人たちに対しましては区別をしていくべきだ、こういうふうに思っている次第であります。

○水島委員
 きょうもこの後の質問の中でもう少し伺いたいとは思うんですけれども、けさからの議論を聞いておりましても、この対象とする人が違うと今大臣はおっしゃったんですが、今措置入院制度で扱われている対象者に比べると、今回のこの新法で対象とされる人はその中に含まれる、その一部であるという趣旨の御答弁をいただいているのだと思いますけれども、そうすると、対象とする人が違うというのはちょっと理解できない点でございます。
 また、再び重大な問題を起こさないためには十分なマンパワーをかけての治療が必要であるということについては、それはそうなんだと思いますけれども、そうしますと、今の措置入院制度の、そして今回の新法の対象者とならない方たちに関してのマンパワーや専門的治療という観点からの改善は必要ないということで新法をつくられるというふうに理解してよろしいんでしょうか。

○坂口国務大臣
 それはそんなことないわけでありまして、一般の精神病の皆さん方に対しましても、それは先ほどから申しておりますように、さらなる診断、治療が行われるようにしていかなければならないし、また、退院をされましたときの受け入れ体制というのも明確にしていかなければならない。
 現在、そのことにつきましては議論をさらにかなり重ねておりまして、入院中の皆さん方には少し機能別に入院をしていただくといったようなこと、それから、退院されました後の体制をどうつくるかといったことの議論も今続けているところでございまして、そのことも一日も早く明確にしていかなければならないと思っております。

○水島委員
 それはぜひそうしていただきたいんですが、まだ先ほどの御答弁でもわからないんですけれども、そういうわけではないと今御答弁されたわけですが、そうしますと、やはりこれは、新法をつくるというよりも、措置入院制度全体に対して、マンパワーという面から、また治療の専門性という面から、治療の底上げを図るというような手法の方がふさわしいのではないかと今答弁を伺ってまた思うわけですけれども、これは違うんでしょうか。

○坂口国務大臣
 そこはやはり一線があると思うんですね。今回の問題は、重大な犯罪を犯した、しかも心神喪失または耗弱状態にある人が重大な犯罪を犯す、そういう特別な人に対してどうするかということを今言っているわけでありまして、一般の精神病の皆さん方の治療の、あるいはまた診断のかさ上げをするということも大事でございますけれども、ここは一つの異質な部分として、そこには特別に目をかけていくと申しますか、そこは慎重に対応をしていく、こういうことを申し上げているわけであります。

○水島委員
 申しわけございませんが、まだ伺うんですけれども、私が伺っておりますのは、一般の精神障害者の方たちと新法というよりは、今の措置入院制度とこの新法との違いについて伺っているわけでございます。
 今ちょっと大臣から、何か大臣らしからぬ特別な人という言葉が出たわけでございますけれども、今の措置入院制度の対象となる方も、ある意味では、どうしても強制入院をしていたただかなければならないほどの強い病勢を持っている、また自傷他害のおそれがある。そういう意味では、もちろん患者さん全体から見ますと一部の限られた状態にある方であると言えるわけですけれども、その措置入院制度とまた独立させてこのような制度をなぜつくらなければいけないのかという点についてお答えいただけますでしょうか。

○坂口国務大臣
 何度か同じことを申し上げて恐縮でございますが、今対象にしております皆さん方は、重大な犯罪を既に犯した、そしてそれを繰り返す可能性があるかないかということの一点に絞っているわけでありますから、そうした意味で、この皆さん方と区別をしているわけでございます。
 一般の精神病の皆さん方に対しましても当然やっていかなければなりませんけれども、いわゆる重大な犯罪を既に犯している、そして、今後その人たちがそれを繰り返すおそれがないかどうかというその一点に絞って、この人たちを私たちは特別にひとつ治療をしていきたい、こういうふうに言っているわけであります。

○水島委員
 まだわからないので、私の理解力がないのかわからないんですけれども、もっとお伺いしたいんですけれども、つまり、重大な犯罪を既に犯した、そして繰り返す可能性があるかないか、その一点のみに絞ってこの新法をつくられたと、それは私も理解しているつもりでございます。
 ただ、措置入院制度の対象となるような自傷他害のおそれのある方、その方たちのことを考えますと、今までに何をやったか、やっていないかということよりも、やはり今現在かなりしっかりした治療が必要である、それは入院環境で御本人の意思の有無にかかわらず行わなければいけない。そういう意味では、かなりそこも絞られている話だと思うんですけれども、その措置入院制度を全体的にもっと運用を改善して、もっと手厚いマンパワーのもとで専門的治療が行えるようにしていくという方法では、今回大臣が目的とされていることは達成されないんでしょうか。これは入院の面だけに限ってお答えいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 今までに大きな犯罪を犯したような皆さん方を治療いたしますときには、かなり自由を抑制するということも私はできてくると思います。また、退院をいたしまして、そして通院をするということになりましても、それはやはりかなり制限を加えられたものになる可能性がありますから、だから、そういう意味におきまして、一般の皆さん方もそれと同じようにしてはいけない。そこはやはり区別をしなければならないと私は申し上げているわけであります。

○水島委員
 一般の方とおっしゃるんですけれども、措置入院の方がどういう環境に置かれるかということを考えますと、これはかなり、かなりというか、ある意味では完全に自由が制約されるようなところがございまして、なぜその措置入院の方以上に、入院環境においてどのようにプラスアルファの自由の制約ということがこの方たちの治療に対して特に必要なのかということはどうなんでしょうか。

○高原政府参考人
 入院医療につきましてよりも、むしろ通院の場合、例えば、現在の措置入院制度におきましては措置通院制度というものはございません。一定のフォローアップは、例えば保健所等でも、委員御案内のとおり、保健婦さんたちが管掌しておりますが、それを、ぜひ行けと、かなりこの制度は強制力を持って通院を要請するわけでありまして、これは、普通の生活をしている生活者の感覚から見ると、かなり強度な自由の制約ではないか、そういうふうに感じるわけであります。

○水島委員
 入院に限ってということを前回も言いましたし、先ほどからも申し上げているんですけれども、入院に絞ってお答えいただきたいんですけれども、今、通院の部分しかお答えがありませんでしたが。

○高原政府参考人
 入院医療におきましては、十分な人手をもとに、措置入院におきましても、今回の新しい制度におきましても、例えば抑制帯の使用は最小限にするとか、不必要なことはやっちゃいかぬとか、そういうことは一般的な注意として現在の精神保健福祉法にも記載されておる。それに従って新しい制度でもやる。そういうふうな点では、物理的に新しい制度において強度に自由を制約するということが入院医療に今以上にあるということは想像しにくいわけであります。
 しかし、平均値で比べてみると、今の措置入院の方、大体三十万入院患者のうちの一%、三千人ぐらいと言われておりますが、そういうふうなもののさらに限られた人を対象とする、衝動性も大きい方が多い可能性もあるということで、今の措置入院の患者さんよりも、基本的な運用方針は同じでありますが、平均値をとってみると、より強い制限を課した制度ないしは運用となる可能性が全くないとは言えないわけであります。

○水島委員
 今の答弁、確認させていただきたいと思いますが、そうしますと、運用上の違いは実質的にはないと。その場合に、なぜ今の措置入院制度と違う入院制度としてつくらなければいけないのかということなんです。
 ちょっと違う質問にかえて伺いますと、例えば、これは十分な予算があって、すべての措置入院の方に対して手厚い治療が確保できるのであれば、すべての措置入院の方にすることなのか。単に予算がないから、限られた、この前部長もプライオリティーという言葉を使われましたけれども、プライオリティーの高い方だけにしていこうとしているものなのか。その点についてはどうなんでしょうか。
 今部長がおっしゃった趣旨から申しますと、衝動性の高さとか、いろいろそういう可能性があってなんていうことをおっしゃるんですけれども、可能性があるからそのような方のための制度をつくるんじゃなくて、やはり、今現在目の前にいる患者さんが衝動性が非常に高くて非常に手厚い人手が必要だという医療上の判断があったら、そのような手厚い医療を提供できる、そのような判断に基づいて行うべきものなんじゃないんでしょうか。

○高原政府参考人
 委員御指摘のとおり、医療的なニードに従って医療は行われるものだと考えております。そのニードが、この新法において想定しております患者さんたちはより強度なものが要請される場合も想定されるということでございます。
 いずれにいたしましても、入院というものは本人の同意をもとにした通常の医療とは異なりますので、システムを整備して、その手続を明らかにするということは必要なことであると考えております。

○水島委員
 ということは、やはり医療上のニーズに応じてきちんとした医療が提供できるような体制を措置入院制度の底上げによって図るべきではないんでしょうか。それでは何が足りないんでしょうか。この入院治療というところだけに限ってお答えいただきたいと思います。

○高原政府参考人
 私は、医療というふうなものは入院部分と通院部分と切っていいのだろうかということを感じるわけであります。一人の患者さんは一人の患者さんでございまして、主治医がかわるということはあるわけでありますが、やはりシステムとしては、入院、通院といったものは少なくとも一貫した思想のもとに構築させられているべきだろう、そういうふうに考えております。
 また、資源の点だけでこの制度をつくったのかということでございますが、これは、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することは、専門的な治療が困難である、また他の患者にも必ずしもいい影響ばかりではない、悪影響も及ぼしかねない。それで、このような者についての入退院の判断について事実上医師にゆだねられている現在の措置制度におきましては、医師が過剰な責任を負わされることになっているということ等が考えられます。

○水島委員
 そろそろまた堂々めぐりになってきましたので、次の答弁は大臣にいただきたいと思うんですが、今回の新法の制度を見ますと、幾つかポイントがあると思うんですけれども、今部長は、入院も通院も一つのものとして考えるべきだとおっしゃった。そんなのは当たり前のことなわけですけれども、今回この新たな制度をつくるときに、今ある医療資源のどこをどう使って、それに例えばどこを改正して、あるいはどこに新しい仕組みをつくるか、そういう組み立て方の問題があると思います。
 今回の新法でいえば、例えば、最初の処遇を決めるところに裁判官が加わっていることですとか、入院治療を行う施設が専門的なというか特別なものになっている点ですとか、あるいは退院後に治療継続を保護観察所を利用して図っていく。幾つかのポイントがあるわけですけれども、私は、これはポイントごとに議論しても何らおかしなことはないと思います。その入り口の部分と入院の部分に関しては現行の措置入院制度の改善という形で取り組んで、その後に、どのような通院の確保の手だてを考えるかということをそれぞれ考えても、別にその患者さんの治療の一体性を損なうものではないと思うんですけれども、まず、そのような認識を共有していただけるのだとすれば、大臣に、今のこの入院の部分に限って、現行の措置入院制度の底上げでは今回達成できないものは何かあるのかということをお答えいただきたいと思います。

○坂口国務大臣
 私は精神科医じゃございませんから、具体的にどういう治療方法があるのかというようなことにつきましては私は存じません。
 ただ、重大な犯罪を犯した心神喪失者、そうした人たちと一般の精神病者といった場合には、これは違うんだと私は思っております。ですから、治療方法も、そこはおのずから異なってくるのではないかというふうに私は思います。
 そうした意味で、やはり重大な犯罪を犯した人たちに対しましては、再びそれを繰り返さないというのは、ただ単に精神病を治すということだけではなくて、この人たちに対しましてはもう少し何か幅広い治療方法というのがあるのではないかという気がいたします。それは、私は初めにお断りしましたように精神科医じゃございませんから、具体的にそれはどういうことかということまで申し上げることはできませんけれども、やはりそこにはおのずからの大きな違いがあるということを申し上げているわけでございます。

○水島委員
 ということは、今の御答弁をお聞きしますと、重大な犯罪を心神喪失等の状態で犯した人と、一般の、それ以外の措置入院の患者さんとの治療法は違うという趣旨で受け取らせていただいてよろしいんでしょうか。
 大臣御自身の知識がどの程度あるかということではなくて、これだけの制度を考えられて、特別な病棟までつくられるわけですから、当然厚生労働省としてそれなりの、こういう治療を提供するためには特別な病棟をつくらなければいけないんだという考えがあってのことだと思いますので、今の点を確認させていただけますでしょうか。これは、人手ということじゃなくて治療法ということで確認させていただきたいと思います。

○高原政府参考人
 まず、治療を開始するに当たっては、患者とそれから医師の間で、その事態の評価、つまり、病気がどういう病気であって、どういう状況で、何を患者さんはやったんだという認識を共有する必要があると思います。それで、その認識を共有した上で、どうすれば医師と患者が共同で、医師というのは医療スタッフということでお願いしたいわけですが、医療スタッフと患者さんとが共有して、どういう目標を立てて、信頼を醸成しながらさまざまな、怒りのコントロールであるとか被害者へのシンパシーをはぐくむとか、そういった社会適応性を増す方向での治療、これはやはりある種の、重大な犯罪行為に該当する行為というふうなものに対する認識から出発する、そういうことがこの病棟、この制度では行われる。
 それに対しまして一般の措置入院におきましては、自傷他害のおそれという、それよりかなり広い概念でくくっておりますので、そういうふうな認識における共有、もちろんその病識を共有するという点では一緒でありますが、やったことに対する自覚を促し、共通の、どうするかということ、そういうふうなことの目標の立て方はいささか違うものではなかろうかというふうに考えております。

○水島委員
 今、私、聞き違えかと思うような答弁をいただいたんですが、怒りのコントロールを覚えたり、被害者へのシンパシーをはぐくむ、やったことへの自覚を促す、これは医療なんですか、矯正なんですか。
 そもそも、心神喪失の状態で重大な犯罪を犯す方というのは、怒りに基づいてやったりとか、被害者へのシンパシーが足りないからやったりとか、そういうことなんですか。

○高原政府参考人
 通常、こういった医療は司法精神医療の中に包括された治療法というふうに言われておりますし、委員御案内のとおり、いわゆる認知行動療法等を利用したそういった治療も実際されているというふうに承知しております。
 もちろん、非常に深い意識の昏迷がある、ないしは心神喪失もしくは耗弱の状態が持続しているということでこういった治療法が始められるものではないということは、委員御指摘じゃありませんがお感じのとおりでありまして、そこにつきましては一般の精神病としての対応というふうなものがなされる。その後、ある程度平衡といいますか、寛解を迎えたときに考えていただく。そういうふうなものは、治療目標を共有しながら、信頼を持って社会復帰に向けて歩む、そういうことだろうと考えております。

○水島委員
 司法精神医学の中に含まれているといっても、心神喪失に陥るような状態を認知行動療法で治療できるとは私にはとても思えないんですけれども、そもそも、怒りのコントロール、被害者へのシンパシーをはぐくむ、やったことへの自覚を促す、これらのことは何を目的としてされるものなんでしょうか。

○高原政府参考人
 委員御質問のような治療が深い意識の昏迷であるとか心神喪失であるとか心神耗弱の状況で始められるものではないということは、私も先ほど申し上げたわけでありまして、これに対しては一般の精神科医療が先立つものである。その寛解期を迎えた後、そういった治療法を行う。
 その目的でございますが、これは、やはり患者さんの社会に復帰した後の受容性、社会への適合性、こういうふうなものを増加させる社会復帰訓練の一環であると考えております。

○水島委員
 それが心神喪失等の状態で重大な犯罪を犯した人に特有の治療法と言い切っていいんでしょうか。このような治療が必要な人というのはほかにもいると私は思いますけれども、なぜこの方たちだけにこの治療が、この特別な病棟において行われるということになるのか。
 本当にきょうも全く、通告している事項のまだ三分の一もいっていないと思うんですけれども、時間ももったいないので、今すぐにお答えいただけないんでしたら、その病棟で行おうとしている治療の詳細について次回までにきちんとまとめて、資料にでもしていただければと思うんですけれども、いかがですか。
 
 
 
 〔園田委員長退席、森委員長着席〕

○高原政府参考人
 当該入院施設で行われる医療の目標なり、おおよそのプログラムというふうなことはお話しできる、ないしは資料として提出できるとは思いますが、詳細については、それぞれの専門医ないしは今後の発展、それから治療者との間の合意というふうなものが必要でございますので、あくまでも大綱ということではお示しできると考えております。

○水島委員
 先ほどから、一般の方と一緒に治療をすると悪影響が及ぶとか、いろいろおっしゃるんですけれども、今でも、措置入院を解除できないような、極めて病勢が強いような状態にある方の場合には、これは医療上の判断で保護室に隔離されていたりですとか、別に、一般の患者さんが大勢いらっしゃるところに、ただそのまま入院されているというわけではないわけですので、何でここで別棟で特別な病棟をつくらなければいけないのかということの御説明にもなっていないと思います。医療上、隔離する必要がある場合には隔離できるように精神保健福祉法で定められているわけですので、何でプラスアルファの入院制度をつくらなければいけないのか、まだ理解できません。
 また、今大綱をお示しいただけるということですので、これはぜひ次回までに大綱としてお示しいただきたいと思いますけれども、その際には、それがほかの措置入院患者の方に関しては必要のない医療であって、特にこの人たちに特別の病棟において独立した形で行わないとうまくいかないのだということがわかるような形でお示しいただきたいと思います。
 普通の精神病院にもいろいろな病気の方が入院されていまして、それぞれの方にはそれぞれの専門的な治療があるわけでございまして、精神分裂病の方とうつ病の方が全く同じ病院に入っているから、同じ入院形態だから同じ治療を受けるなんということはあり得ない話でございますので、なぜそれを同じ環境の中で個別の治療として行っていくことができないのかというところもぜひお示しいただきたいと思います。
 では、これはぜひ次回までにそのような大綱の形で出していただけるということをもう一度確認いただけますでしょうか。

○高原政府参考人
 大綱についてお示ししたいと考えております。

○水島委員
 では、その大綱に基づきまして、ぜひ、本当に時間を効率的に使いたいと思いますので、次回、また質問をさせていただきたいと思います。
 さて、残り時間が少なくなってまいりましたが、前回の御答弁の確認の今度二つ目でございます。まだまだございます。
 まず、前回の高原部長の答弁、「私が医学的な観点からと言うのは、現行の措置入院制度におきましては医学的観点から医師のみが判断をしておるという点につきまして、医学的判断からと言っておるわけでありまして、担当しておる医師は、それなりに、家庭の状況であるとか、社会の状況であるとか、そういうふうなさまざまなことを考えて御判断にはなっておると思いますが、やはり、メディカルスキームといいますか、メディカルパラダイムといいますか、医療的な物の見方のみにとどまる。これはやはり対象者にとって必ずしもいいことではないのではないか。」と答弁されているわけですけれども、この「医療的な物の見方」「医学的な観点」というのは何なのか、そこに含まれないもので政府案において新たに制定されようとしているものは何なのか、それについて、これは大臣にお答えいただけますでしょうか。

○高原政府参考人
 ちょっと委員が混乱なさるような答弁を申し上げて遺憾でございます。
 精神保健福祉法における自傷他害のおそれの判断におきましては、措置診察の結果が重要な資料となっております。実務上、医療的な判断が重視されていることは事実でございます。措置診察を行う医師は、患者の生活環境など、さまざまな状況を考慮する際も、やはりみずからの専門分野である医療の視点から検討することが通常であることから、その旨を説明したものでございます。
 また、自傷他害のおそれの最終的な判断権者は都道府県知事でございます。このことは、措置入院制度の場合も純粋に医療的判断以外の判断を行うことが排除されているものではないということだと承知しております。

○水島委員
 そうしますと、前回の御答弁というのは余り意味がなかったということになるんでしょうか。医学的な物の見方とそうじゃない物の見方というのは、その違いと、今最後に、知事の判断というものがあるので医学的な物の見方以外のものが排除されているわけではないという趣旨であったと思いますけれども、医学的な物の見方と医学的な物の見方でないもので今回の法案で決められるものというのは何なのか、ちょっとそこの点だけもう一度お答えいただけますでしょうか。

○高原政府参考人
 余り上手な説明ではないかもしれませんが、措置制度におきましては、やはりクリティカルなポイントは措置診察であろうと思います。やはりこれからの情報がかなりの、かなりといっても半分どころじゃなくて、七、八割ぐらい重視されているんじゃないかというふうに考えております。
 その他の情報とは具体的にはどういうことなのかということでございますが、これは患者さんの置かれているいわゆる社会的なリスクファクター、つまり友人関係の強固さであるとか、サポーターがいるとか、家庭内が安定しているかとか、そういうふうな情報というものは当然参照すべきではあるけれども、自傷他害のおそれを判断する場合には、そういうふうなところまではなかなか入っていけないのが実情ではなかろうかという点で医学的と申し上げたわけでございます。
 新しい制度におきましては、裁判所が鑑定入院を命じまして、その間また精神保健福祉士等に意見を聞くとか、保護観察所が環境等について調査をするとかということもございまして、その社会的なサポート体制とか、入院しなきゃ本当に孤立してしまう人なのか、それとも地域の中できちんと通院をマネージすれば社会の中で治療しながら社会に溶け込むことができるのか、そういうふうな点は今回の制度の方が幅広に情報収集をするということになっております。

○水島委員
 私もまさに同じ問題意識を持ちますので、民主党案においては措置入院制度の判定をするときに精神保健福祉調査員というものを新設しているわけでございますけれども、つまり今の高原部長の御答弁というのは、民主党案にはそこの部分については賛成というような御答弁として受け取ってよろしいんでしょうか。

○高原政府参考人
 何らかの、例えばケアマネジャーとかケースマネジャーというふうな役割の人が、特に自傷他害であるとか、それから心神喪失状態で重大な犯罪に該当する行為を行った人とか、そういう患者さんには必要だねという点においては一致しているかと思います。
 しかしながら、私どもは、それを司法のサイドにおきます精神保健観察官という新しい官名といいますか公務員として規定したわけでありまして、これは、精神医療、保健福祉の専門家が該当する、どこにオフィスを置いてどうやるかという点においていささかの違いがあろうかと思います。
 さらに対象者につきましても、正直を申しまして、こういったケースマネジメントというのは、精神障害者に限らず障害者の社会復帰には必要なものでありますが、かなりのエネルギーと人手を食うものでございます。それで、御意見をあるいは異にするかとも思いますが、プライオリティーをつけてやるとするならば、やはり私どもが御提案申し上げている、心神喪失等の状態で重大な犯罪行為を行った、これでありますとかなり深いといいますか面倒見のいい体制ができるのではないかということで、こう考えております。
 一般の患者さんにつきましては、精神障害者生活支援センターでありますとか市町村の保健婦さんであるとか、さまざまな一般対策を車の両輪として進め、より適切な処遇を心がけてまいりたいと考えております。

○水島委員
 本当に時間がなくなってしまいましたが、私が伺ったのは、先ほど部長がいみじくも、措置制度においてはクリティカルなところは措置診察だとおっしゃったので、その措置診察のときのサポートとしての精神保健福祉調査員のことを申し上げたわけで、退院後の保護観察所のことを答弁されるというのはまさに最初から全く違う答弁をされているわけですけれども、そんなことを指摘ばかりしておりましたので、議論の前提にまだ至る前にきょうも持ち時間が今終わろうとしております。
 私が一番伺いたい、再び対象行為を行うおそれの判定のあり方などについて、今まで二回質問させていただいて、そこに行くまでの前提の整理すらまだ終わらないという状況でございますので、これからぜひしっかりと慎重な審議を進めさせていただきたいと思います。
 そして最後に、その前提として一つお願いしたいんですが、けさからもまた鑑定の問題についての審議がございました。そして、我が党の五島委員も先ほど各地検での簡易鑑定のばらつきについて問題にしておりましたが、その議論が先ほどから毎日新聞の記事をもとに行われているというのがちょっとおかしな話だと私は思いまして、これは今後の審議に備えて、法務省としてきちんと各地検における簡易鑑定の状況についての資料提出をしていただきたいんですけれども、お願いできますでしょうか。

○古田政府参考人
 簡易鑑定につきまして、網羅的な統計資料というのは実は持ち合わせておりません。ただ、単年度に限りましてどういう状況になっているのかということを調べた結果がございますので、それを提出することは検討させていただきたいと思います。

○水島委員
 新聞記事をもとに国会での審議をするというのも、特にそれが地検に関する資料であるというのに、私はとてもおかしなことではないかと思いますので、ぜひ資料の提出をお願い申し上げまして、そしてまた、次回以降それをもとにきちんとした審議をぜひさせていただきたいことをお願い申し上げまして、終わらせていただきます。
 ありがとうございました。



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