「心身喪失者医療観察法案」について○園田委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。水島広子君。 ○水島委員 民主党の水島広子でございます。 まず初めに、政府案がつくられるきっかけとなったと言われている池田小学校事件とこの法案との関係について伺います。 池田小学校事件は、本当に痛ましい事件でございました。貴重な幼い命が奪われただけでなく、いまだにいえない心の傷を抱える方々の痛み、そしてその心のケアをされている方々の努力は今も続いております。 事件で傷ついたのは当事者の方たちだけではございませんでした。全国の各地で地域に溶け込もうと必死で努力されている精神障害者の方たちも、これだから精神障害者は危険だという声が高まる中、さらなる差別と偏見によって深く傷つけられました。その旗振り役となったのが小泉首相だったと私は思っております。 事件発生から二週間もたたない昨年六月二十日の厚生労働委員会で、私は、小泉首相の事件直後の言動について批判をいたしました。 事件の翌日、まだ容疑者の精神鑑定もされていない、事件の詳細もわからない段階で、小泉首相は、精神的に問題がある人が逮捕されても、また社会に戻ってああいうひどい事件を起こすことがかなり出てきていると述べ、刑法見直しを検討するよう山崎幹事長に指示されています。この言動についての見解を坂口大臣に伺いましたところ、「小泉総理がおっしゃったのは、それはいわゆる一般論として、重大な犯罪を犯す精神障害者の場合にはどうするかということをおっしゃったんだろうと思うのですが、時が時だけに非常に誤解を生むことになったかもしれません。」というふうに答弁されました。 法案審議に入る前にここで改めて確認しておきたいのですが、小泉首相の指示というのはどういうものだったのでしょうか。そして、この法案はその指示に基づいてつくられたものと理解してよろしいのでしょうか。これは、法務大臣、厚生労働大臣のそれぞれにお伺いしたいと思います。 ○森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為が行われる事案につきましては、被害者に深刻な被害が生ずるだけではなくて、精神障害を有する人がその病状のために加害者となるという点でも極めて不幸なことでございます。 そこで、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事態を繰り返さないようにするための対策が必要でございまして、御指摘の総理の御発言もそのような趣旨であったものと理解しております。 この法律案は、このような総理の御発言や、いわゆる大阪・池田小学校児童等無差別殺傷事件をきっかけとする国民各層からの適切な施策が必要であるとの御意見を受けまして、さらには、昨年十一月に取りまとめられました与党プロジェクトチームによる調査検討の結果等も踏まえまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な処遇を確保するために今国会に提出させていただいたものでございます。 ○坂口国務大臣 平成十一年でございましたけれども、精神保健福祉法の改正が行われまして、そのときの衆参の附帯決議に、「重大な犯罪を犯した精神障害者の処遇の在り方については、幅広い観点から検討を早急に進める」、こういう附帯決議がつけられていたわけでございます。そこで、法務省と厚生労働省におきましては、十三年の一月に合同検討会を設けまして、それから具体的な検討を続けてきたところでございます。 また、池田小学校の児童殺傷事件を一つのきっかけといたしまして、精神医療界を含む国民各層から、このような施策の必要性についての意見が高まったことも事実でございまして、総理からも、重大な犯罪を犯した精神障害者が精神障害に起因する犯罪を繰り返さないようにするための対策を検討する必要がある旨の御指示があったと認識をしているところでございます。 こうした中で、与党におきます検討結果が取りまとめられたことを踏まえまして、今回の法案の提出に至った次第でございます。 ○水島委員 今聞きたかったことをまだお答えいただいていないように思うんですけれども、小泉総理が、池田小学校事件についての見解を問われたときに、先ほど申しましたような、精神的に問題がある人が逮捕されても、また社会に戻ってああいうひどい事件を起こすことがかなり出てきていると述べ、刑法見直しを検討するよう山崎幹事長に指示したというふうにお答えになっているわけですけれども、この池田小学校の事件と小泉首相の指示との関係、その指示は具体的にどういうものだったのかということをもう一度お答えいただきたいと思います。 ○森山国務大臣 私といたしましては御説明したつもりでございましたが、御指摘の総理の御発言は、一般論として、精神障害に起因する事件の被害者を可能な限り減らして、また、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が精神障害に起因するこのような不幸な事件を繰り返さないようにするための対策が必要であるという御趣旨であるというふうに私は思ったわけでございますし、平成十三年の六月でしたか、ただいま厚生労働大臣も御説明なさいましたけれども、小泉総理の御発言は、池田小学校の事件が精神障害に起因して行われたものと断定して述べられたのではなくて、もちろんそれが一つのきっかけになったとは思いますけれども、かねてから、平成十一年に行われました附帯決議その他に基づきまして既に研究を始めておりましたものが、さらにこの事件をきっかけとして高まってまいりました国民の要望というものを受けまして、さらに努力を進めて、今日のような提案に至ったというふうに私も考えているところでございます。 ○水島委員 今の御答弁の中で、さらにこの事件をきっかけとして高まってきたというふうにおっしゃったわけでございますけれども、なぜこの事件をきっかけにしてそのような声が高まってきたとお考えになりますでしょうか。 ○森山国務大臣 精神的に問題のある方が事件を起こすということは時々今までもあったことは事実でございまして、そのたびにいろいろな人が議論をするという事態がもちろんあったわけでございますけれども、昨年の池田小学校の事件は、余りにも悲惨な、幼い子供たち、全く罪のない子供たちが大きな被害に遭うという事態でありまして、特にショッキングな事件であったというふうに思いますので、それが世間の注目を非常に集めまして、そして、ふだんならばこのようなことに余り強い関心を持たなかった方々も含めていろいろな人がこの問題について考え、発言するようになったということでございますと私は思います。 ○水島委員 ふだんこの問題に強い関心を持たない方たちも……(発言する者あり) ○園田委員長 退室してください。退室してください。(発言する者あり)傍聴人の規則を破っていますよ。(発言する者あり)じゃ、とりあえずいい。 ○水島委員 じゃ、続けさせていただきます。 今、日ごろこういう問題に強い関心を持たない方も注目をされたという趣旨の御答弁でございました。私もそうだと思います。だからこそ、正しい法律的な知識に基づかずに、感情的にこの問題が扱われたのではないかと思います。 もう大臣も十分御承知のように、精神障害に起因する犯罪ということで考えますと、犯行時点における精神状態、犯行時点における責任能力ということのみが問われるわけでございまして、その人に精神科通院歴があるとか、精神科の診察券を持っているとか、あるいは精神疾患を持っているとか、そういったことがそのまま心神喪失ということにつながるわけではないということは大臣も十分御承知だと思いますけれども、日ごろ強い関心を持たない人たちが、事件そのものは非常に残虐なものでございましたし、私も小さな子供を持つ親という立場でもございますので、とても他人事とは思えませんでしたけれども、そのような事件が起こったときに、法律について十分な知識を持っていない人たちが、これは精神障害者による犯罪だと言われたときにどういう心理状態に陥るかということは、これは大臣であれば十分御理解いただけるのではないかと思います。 ですから、そんな状況であのような事件が起こりまして、メディアも一斉に犯人は精神科通院歴ありというようなことを言い立てている、そして、世間的な風潮としては、これだから精神障害者は危険なんだというような声が高まってくる。これは精神障害者の人権に関しては一つの危機的な状況であると思いますから、そういうときの政府の責任というのは危機管理なのではないかと私は思います。 そのようなときの危機管理のあり方としては、首相が言うべきだったことは、刑法の見直しの指示ではなくて、まだ鑑定も行われていない、今いたずらに精神障害に焦点を当てることは偏見を助長するだけだから避けなければならないと言って、正しい法的な知識を与えるということをしなければならなかったのではないか。一国の首相としてはそのような言動が期待されていたのではないかと思います。またあるいは、六月二十日の厚生労働委員会で、そのような小泉首相の言動に対して、時が時だけに非常に誤解を生むことになったかもしれない、そのような答弁を下さった坂口大臣みずからが、小泉首相を批判しつつ軌道修正すべきだったのではないかと思います。 今私がお伺いいたしました点について、小泉首相はみずからの言動を反省し、全国の精神障害者の方たちにおわびと偏見解消に向けてのメッセージを出す必要があると思いますけれども、法務大臣、厚生労働大臣、それぞれいかがお考えになりますでしょうか。 ○森山国務大臣 おっしゃることもまことにごもっともな点がたくさんございまして、私は、小泉総理がどのように発言されたか一言一句ちょっとよくわかりませんけれども、このような問題がまた二度と起こらないように、精神障害を持つ方も、またそれに関連して被害を受ける人も二度とないようにしたいというお気持ちが表現されたというふうに思うわけでございます。 それを受けとめました私ども法務省及び厚生労働省、そして特にこの問題に関して専門的な知識を持っている方々は、それをどのように具体化するか、法律の改正が必要であるかどうか、あるいは精神障害の方々の気持ちを考えればどのような処遇が必要であろうかというようなことについて慎重に検討いたしまして、その前から何年もかけて勉強しておりましたことでもございましたので、それを具体化してこのような法案として提案するというのが、その結論といいましょうか、その検討の結果、研究の結果出したものでございまして、これがそのお答えであるというふうに御理解いただければありがたいと思います。 ○坂口国務大臣 厚生労働委員会で私がお答えしましたのは、総理のおっしゃったことはこういう事件を繰り返さないためにどうしたらいいかという観点からお考えの一端を言われたものだろうということを言いたかったわけでございます。したがいまして、その具体的なやり方をどう進めていくかというところまで具体的な御指示はなかったというふうに思っております。 池田事件のときに、この犯罪を犯しました人がいわゆる精神障害手帳をお持ちであったといったようなこと、あるいはまた過去に措置入院をされたといったような経緯があったこと、また過去の勤務の中でそうした問題があっておやめになったという経緯があったこと、これらがあったことも事実でございまして、そうしたことからマスコミ等におきましても取り上げられたものというふうに私は思っております。 いずれにいたしましても、この問題だけではなくて、他にも問題を繰り返す人たちもいるわけでございますから、そうした人たちに対してより適切な医療、治療を行い、その人たちが立ち直っていただくためにどうするかといったことをきちんとやっていく場所がないということもまた問題であるというような立場から御発言になったものというふうに思っている次第でございます。 ○水島委員 どうもまだきちんとお答えいただけないようでございます。 その九九年の法改正の附帯決議に基づいて法務省と厚生労働省で検討を進められてきたということを私は否定しているわけではございませんし、そのことはそのことで、一つの軸であるわけです。 ただ、今ここで私が申し上げておりますのは、池田小学校事件直後の精神障害者バッシングとも言えるような、精神障害者の人権という観点から見たときの、あの危機的な状況における総理大臣の危機管理のあり方として、あのような言動は間違っていたのではないかという点をお伺いしているんですけれども、これについてはいかがでしょうか。 ○坂口国務大臣 精神障害者の皆さん方の問題もございますし、そして、お子さん方を守る、守らなければならないという一方において人権の問題もあるというふうに思っております。その双方を考えて、そして適切な措置がとれるようにということを総理は御発言になったのであって、それに対して我々は、今までから法務省と厚生労働省で進めてまいりました検討会等を早く急いで、そして対応しなければならないというふうに我々の方が理解をした、こういうことではないかというふうに思っております。 ○水島委員 今議場から過剰反応だというような声が飛んでおりましたけれども、確かに全国の各地で精神障害者に対する過剰反応が起こりました。精神障害者の作業所に石が投げ込まれたりとか、あるいは、ある町議会で精神障害者のために確保されようとしていた予算が急に雲行きが変わってしまったりとか、いろいろなところで過剰反応というものが起こったと思いますけれども、このような事実は厚生労働省としてはいろいろ情報は収集されていますでしょうか。 ○高原政府参考人 御指摘のとおり、例えば、精神障害者の方の作業所とそれから近隣の小学校と大変うまい関係でやっていた、しかしながら、この事件をきっかけにその小学校との交流が途絶えてしまった、そういう話は幾つか聞いております。私どもは、それについて残念なことだと考えております。 そういった意味での誤解や偏見をなくすること、そういうふうなことを関係の部局の責任者、つまり都道府県、政令市等の責任者の集まりなどで、そういうふうなことがあったら教育担当部局とよく話をして、特に小学生、中学生とその地域の精神障害者の交流、そういった問題については進めていくようにというふうに申し上げておる、そういうことでございます。 ○水島委員 そのような情報をある程度つかんでいらっしゃるのであればなおさらでございますけれども、この池田小学校の事件というのは、発生直後には非常に社会的な話題となったわけですけれども、その後その話題性というのはかなり一過性のものがあって、最近ではまた、一年たちましたのでこのところまた少し話題にはなっておりますけれども、世間一般の方たちは池田小学校事件というのは精神障害者による犯罪だったんだということだけが頭にインプットされてしまって、その後その犯人が責任能力をきちんと問われて、そして起訴されていることですとか、そういったことまできちんと一般の方たちの頭に入っているかというと、私は極めて怪しいのではないかと思っております。 今高原部長が答弁されたように、そのようにあの事件をきっかけとしていろいろと悲しい現実が起こっているということを厚生労働省としても御存じであるということであれば、池田小学校事件はこういったものであって、そして、今の法律というのはその犯行時点の責任能力が問われるのであって精神障害者一般云々という話ではないのだというようなことについてのメッセージを厚生労働省として今まで池田小学校以後に出されていますでしょうか。 ○高原政府参考人 本件は法廷においてさまざまな議論が行われておりますので、それが一たん結論を得た時点において広く国民の皆様方に理解を賜る、そういうふうに考えております。 また、そういうこととは別に、精神障害者ないしは精神障害というふうなことにつきまして国民の方々が理解していただく、これは全く別な次元のものとしてきちんと進めていかなければならない。そして、そういうふうなことを国民の方々に御理解いただくためにも、ある種のきちんとした治療を行う、そういったスキームが必要ではないか、そういうふうに考えておる次第でございます。 ○水島委員 今までのところ何もメッセージを発しておられないという御答弁として伺いました。 次に進ませていただきます。 事件直後の世論の高まりというものもいろいろと問題の多いものではございましたけれども、私は、先ほどからもまた御答弁を伺っておりまして、政府はその解釈すらさらにゆがめているのではないかというふうに思っております。 先日の本会議で森山大臣は、「この事件をきっかけといたしまして、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について、精神医療界を含む国民各層から、適切な施策が必要であるとの意見が高まった」と答弁されております。先ほどもそのような御答弁をいただいていると思います。 私は、ここに大きな誤解と論点のすりかえがあるのではないかと思うわけでございますけれども、池田小学校の事件の被疑者は、責任能力があるということで起訴されていますので、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者とは言いがたいわけでございます。また、事件直後、精神鑑定もされていないうちに、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者とは決められないわけでございます。 ですから、事件をきっかけに高まったのは、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について適当な施策が必要であるとの意見ではなく、重大な他害行為をした者が心神喪失等の状態であった疑いがある場合適当な施策が必要であるとの意見だったのではないでしょうか。わかりにくいかもしれませんけれども、これは大きな違いであると思います。 大臣の御答弁から察するに、政府はこの問題のとらえ方を誤っているのではないかと思うんですけれども、どちらが正しいとお考えになりますでしょうか。 ○森山国務大臣 私は誤っていないと思います。先生がおっしゃいました二つのデフィニションのうちの後の方が非常に重要なのではないかというふうに私個人としては思っておりますが、しかし、今まで私が申し上げてきたことはその線に沿っているつもりでございます。 ○水島委員 多分私より森山大臣の方が御聡明な方だと思うんですけれども、前者の方が後者よりも狭いと思います。後者の方がより広いと思うんです。 つまり、重大な犯罪があって、その人が心神喪失の状態だったかもしれない、違うかもしれない、そのようなときに、それを解決するためのどういう仕組みをつくるかというのは広い定義でございます。一方、大臣が今まで答弁の中でおっしゃっているのは、心神喪失等の状態で重大な犯罪を犯した者の処遇ということでございますので、その中の心神喪失等ということがわかっているケースだけを対象にしているわけですので、狭いということになるわけでございます。 このどちらが問われているのかということをお伺いしたいのでございます。 ○森山国務大臣 私が今まで申し上げたことではっきりしておりませんでしょうか。自分でははっきり申し上げたつもりでございますけれども。 ○水島委員 何度も繰り返して恐縮ですけれども、今まで大臣が使われてきた表現は、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした者の処遇について適当な施策が必要であるとの意見が高まったというようなおっしゃり方をしておりますので、狭い領域のみを対象にされているわけでございますけれども、私は、世間一般の方たちが問題にしているのはそうではなくて、私が申しました広い方のことを対象にして言っているのだと思います。精神障害者というだけでその犯行時点の責任能力がどうだったのかということもいいかげんになっているのではないか、とにかくそういったものが一緒くたにしていいかげんに扱われているのではないかというようなことも問題意識にかなり大きくあるのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。 ○森山国務大臣 先生のおっしゃる広い方というのは、確かに前提としてあるわけです。そういう状況が二度とないようにしたい、そして精神障害者の方がそのために非常に差別をされるとか偏見を持たれるということがないようにしたいということはもう当然でございまして、しかし、その中で法律的に措置をするべきものは何かということになりますと、かなり厳密に定義をして、きちっと決めてからしなければいけない面がたくさんございますので、私が法律の説明について申し上げた内容が狭い範囲のようにおとりになったかもしれませんが、それは広い問題の中の非常に重要な部分ではありますけれども、それだけであるということを申しているわけではございません。 ○水島委員 何か、聡明な大臣でございますので、何となく説明がつけられたような感じもいたしますけれども、その違いについてさらにおわかりいただけるように質問を進めてまいりたいと思います。 今大臣がおっしゃった、その狭い対象に対してより厳格に定義をして施策を進めるというのが今回の政府案に当たるものであると理解しております。ただ、私が言いました広い範囲というのは、これは刑法の適正な運用ということにもなるのではないかと思いますけれども、重大な犯罪を犯した人がどういう事情で犯罪を犯したのかをきちんと見分けて、それぞれに対して適正な処置をしていくということ、その部分が問われているのではないかということを申し上げたいんです。 その違いによって取りこぼされるのは、例えば鑑定の問題がございます。起訴前、起訴後の精神鑑定について、起訴前鑑定は簡易鑑定が多く、十分な鑑定が行われているのか、あるいは、診察する医師によって病名など鑑定結果がまちまちであるなどといった問題点がかねてから指摘されておりますけれども、政府案にはこのような問題を解決する仕組みが盛り込まれておりません。それは今のような問題のとらえ方を誤っているからなのではないかと思いますけれども、いかがでしょうか。 ○森山国務大臣 検察当局におきましては、精神障害の疑いのある被疑者による事件の処理に当たりまして、犯行に至る経緯、犯行態様や犯行後の状態等につきまして、刑事事件として処理するために必要な捜査を尽くし、事件の真相を解明した上で、犯罪の軽重や被疑者の責任能力に関する専門家の意見等の諸事情を総合的に勘案して、適切な処分を行うように努めているものと承知しております。その際には、事案の内容や被疑者の状況等に応じて、行われるべき精神鑑定の手段、方法についても適切に選択をしているものと承知しておりまして、現在の鑑定のあり方に重大な問題点があるとは思っておりません。 しかしながら、事件の捜査処理における責任能力の判断の重要性にかんがみまして、さらに適切な鑑定がなされるよう、専門家の意見等を踏まえて、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるようさらに心がけるなど、鑑定の運用のあり方について必要な検討は行っていかなければならないと思っております。 また、この法案におきましては、心神耗弱ないし心神喪失であった者のみを対象としておりまして、検察官は、その申し立てをするため、心神耗弱ないし心神喪失の状態であったことを厳格に判断する必要がありますので、当然、この点について厳密な認定をすることになると承知しております。 ○水島委員 つまり、鑑定に関して現在出されている批判というのは正しくないというふうに認識なさっているということでよろしいのでしょうか。 ○森山国務大臣 その点については、最善を尽くしておりますけれども、これで百点満点、全く問題がないというわけではないと思いますから、さらに改善するべく努力をしてまいりますということを申し上げたわけでございます。 ○水島委員 この鑑定のことについては、またこれからも伺ってまいりたいと思います。つまり、先ほど私が申しました二つの定義のうちどちらが正しいかということでございます。今大臣がおっしゃったように、鑑定について大した問題意識をお持ちでないということが、この問題のとらえ方を小さな部分だけに矮小化してしまっているということになるのかどうかということなんですけれども、もしも本当に、鑑定について全く問題がないあるいはもうできる限りの問題はないというふうに認識されているということであると、いわゆる世論というものに対してもやはり理解を誤っていらっしゃるのではないかと私は思いますけれども、そのように本日のところはこちらとしては受けとめさせていただいてよろしいでしょうか。 ○森山国務大臣 さっきも申しましたように、鑑定人に被疑者に関する正確かつ必要十分な資料が提供されるようにさらに心がける必要があるということは考えておりまして、つまり、鑑定の運用のあり方について必要な検討は今後も続けてまいらなければいけないというふうに思っております。 ○水島委員 今回の政府案の中で、検察官が裁判所に対して申し立てを行った場合に、そこでまた精神鑑定を受けまして、そして、そこで検察官が心神喪失者と認めた者に対して、裁判所が、対象者が完全責任能力を有すると認めた場合には申し立てを却下したり、あるいは、心神耗弱者と認めた場合にはこれを検察官に通知してその再考を求めることとする、そのような仕組みが盛り込まれていると理解しておりますけれども、今私が申しました理解は正しいでしょうか。 ○古田政府参考人 そのような仕組みになっております。これは、検察官の認定には法的拘束力はないことにかんがみまして、責任能力について、この対象者、申し立てを受けた人からのいろいろな言い分とかそういうこともございますでしょうから、裁判所として、対象者として認めてよいかどうかを確認するという手続を必要に応じてとるようにしているということでございます。 ○水島委員 そうしますと、やはり検察官の段階での簡易鑑定が不十分であるからそのような追加の鑑定のような仕組みがつくられるということになるんでしょうか。 ○古田政府参考人 そのような趣旨ではなくて、いわゆる簡易診断で責任能力の判断が十分つくケースも非常に多いわけです。ただ、先ほども申し上げましたように、対象者の側からして、自分は責任能力があったんだという主張をされる方も、それは出てくる可能性はあるわけでございます。そういうときには、裁判所の方で、対象者と認めてよいかどうかということをさらに確認するという手続を設けているということでございます。ですから、常に裁判所の方で改めて責任能力についての鑑定をするということではございません。 ○水島委員 そうしますと、現行ではそのような検察官が裁判所に申し立てて対象者であるかどうかを判断するという仕組みがございませんので、検察官の段階で簡易鑑定をして責任能力がないとされた者がそれに対して異議があった場合でも、それを修正できるような仕組みは現行ではないというふうに理解してよろしいんでしょうか。 ○古田政府参考人 これは、いろいろなケースがあるわけでございますが、被疑者の立場からいたしますと、刑事裁判を受けるといいますか、みずからが被告人になるということを求める、そういうようなことは法律上はあり得ないことでございますので、そういう意味では、被疑者の側からはそういうようなことはない。ただ、例えば、被害者の方でありますとかそういう方から検察審査会に対して、検察官のした不起訴処分に対しての審査を求めるということはございますので、そういう場合に、検察官の責任能力の判断が適切であったかどうかということがチェックされるということは現行法制上もございます。 ○水島委員 この問題についてはまた後でもっと詳しく質問してもらえればと思うんですけれども、ここでちょっと最後に一つだけ確認しておきたいのは、つまり、現行では、今刑事局長がおっしゃったように、わざわざみずからが刑に身をゆだねることは不利益になるので、被疑者がそれを申し立てるということはあり得ないという趣旨の御発言でございましたが、今度の新法の中ではそのような仕組みを認めているということは、どういうことを意味するんでしょうか。 ○古田政府参考人 先ほども申し上げましたとおり、この対象者というのは、心神喪失あるいは心神耗弱ということが大前提でございます。ただ、それについての検察官の判断と申しますのは法的拘束力がない。そこで、裁判所としては、自分が審判の対象としていいものかどうかという確認をしなければならないわけでございまして、そういう裁判所が審判の対象としてよろしいかどうかという確認をする手続の一つということになるわけです。 その場合に、通常、例えば責任無能力であるということについて対象者側も全く異存がないとか、そういうケースも多いと思いますが、そういうときに裁判所としては、意見を聞いて問題がないと考えれば、それで確認としては十分である。ただ、本人の言い分としては、自分が責任無能力、この制度の対象とされるということについては異存があるというふうな場合もあり得ることは想定されるわけでして、そういう場合には、今申し上げたような、対象者として認めていいかどうかという確認の意味で裁判所でそういう点についてのチェックをする、そういうことを申し上げているわけでございます。 ○水島委員 つまり、もう一言確認させていただくと、今度は、新しい制度、法的拘束力のある制度ができるので、そこの対象者となるに当たっては、本人の言い分も聞いて厳正に判断しなければいけないけれども、現行では、とにかく検察官の手を離れた後には何も制度がないので、そこに法的拘束力のあるものは何もないので、そこでチェックを行う必要はないというような理解でよろしいのでしょうか。 ○古田政府参考人 結論的にはそういうことになろうかと思いますが、要するに、裁判所が自分が審判ができる対象かどうかということは、これは裁判所にとって確かめなければいけない場面がある、そういうことがポイントでございまして、その理由としては、もちろんこれが法的な、本人に対して自由の制約あるいは干渉を伴う処分を言い渡すものであるということから出てくるということにもなろうかということでございます。 ○水島委員 今回、私たちは現行制度の改善という観点から法案を提出しておりますけれども、政府が、現行制度の改善ではなく、新法の立法という形であえて新たな処遇制度をつくられた理由をまず教えていただきたいと思います。 これは法務大臣と厚生労働大臣、それぞれにお願いいたします。 ○森山国務大臣 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者につきましては、国の責任において必要な医療を確保し、不幸な事態を繰り返さないようにして、その社会復帰を図るということが重要でございます。そして、そのためには、精神保健福祉法による措置入院制度とは異なり、裁判官と医師が共同して入院の要否、退院の可否等を判断する仕組みや、国が統一的に、入院による医療とともに退院後の継続的な医療を確保するための仕組みなどを整備することが必要でございます。 そこで、この法律案によりまして、このような仕組みを備えた新たな処遇制度を創設するということにしたものでございまして、そのような関係で、新しい法律ということでお願いしているわけでございます。 ○坂口国務大臣 今回の法律をごらんいただきますとおわかりをいただけますとおりでございますが、一つは、広く精神障害者一般をその対象とするものではなく、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象とする。また、人身の自由の制約や干渉を伴うことから、医師と裁判官により構成される裁判所の合議体が決定する仕組みを整備したということが二番目でございます。国が責任を持って専門的な医療を行う、これは三番目でございます。退院後の医療の中断が起きないように、継続的な医療を確保するための、保護観察所によりますところの観察、指導の制度を整備するということが四番目。 こうした特徴を持たせた法律になっておりますが、こういうふうにしますためには、やはり現在の法体系ではできないということでございまして、新しい法体系を考えた次第でございます。 ○水島委員 坂口大臣に重ねてお伺いしたいと思うんですけれども、今回のこの制度と措置入院制度の違いは何なんでしょうか。 ○坂口国務大臣 措置入院制度と今回の違いといいますのは、今回の場合には、いわゆる医師だけの決断と判断というものではないというところが一つの大きな違いだというふうに思います。 そして、かなり範囲も狭められてきていると申しますか、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者のみを対象とするということでありますから、その対象もかなり限定されてきている。そうした違いがあるというふうに思います。 ○水島委員 伺いたいことは、制度の違いというのは見ればわかることでございますけれども、なぜ、措置入院制度の運用の改善では今回政府が目的としているようなことができないとお考えになったのでしょうか。 ○坂口国務大臣 もう少しお話しいただけませんか。 ○水島委員 私たちが提出しております対案をお読みいただいていればと思うんですが、今既に、ある程度自由の制約を伴う入院形態、それも強制的な入院形態で、国が責任を持っていると理解できる措置入院制度というものがあるわけでございますけれども、その制度をうまく使っていくことではなく、なぜこのような新しい仕組みをつくらなければならないのかということをお伺いしたいわけでございます。 ○坂口国務大臣 ですから、そこを説明しようと思いますと、この法の仕組みの話をしなければならなくなるわけでありまして、先ほどから申し上げておりますような特徴のあるもの、これをやはりつくっていこうということになってくるわけでございます。 ○水島委員 恐らく反対側から聞いた方がいいのかもしれないですけれども、では、今回政府が目的としようとしていることを達成するには、措置入院制度には何が不足しているとお考えなんでしょうか。 ○高原政府参考人 措置入院制度では、広い意味での自傷他害のおそれということで判断をしております。新制度におきましては、もう少し長期的な見通しのもとで制度を運用する、これが一番大きな特徴であろうかと考えております。 また、単なる自傷については本制度の対象としていないというふうな点で違いがあろうかと考えております。 ○水島委員 今の御答弁、三点ありました。自傷他害のおそれと長期的な見通しと、三つ目が自傷が含まれていないと。一つ目と三つ目は同じようなことを言っているわけですけれども、つまり、自傷他害のおそれというのが広くあって、今回の対象となるものはその中に含まれるということなのか。 長期的な見通しという言葉も出てきたわけですけれども、ちょっとここで改めて確認しておきたいんですが、措置入院の要件である自傷他害のおそれにおける他害のおそれと、政府案における再び重大な他害行為を行うおそれとの違いというのは何なんでしょうか。 ○高原政府参考人 相当程度重複していることは事実でございます。 そのために、従来は措置入院制度で何とか運用してきた。しかしながら、司法精神医学というふうな領域が独立した分野として諸外国において発展してまいりまして、委員も常々御指摘のとおり、いわゆる国際的な医療水準というふうなことを日本でも取り入れなければならないというふうな観点からいたしますと、すべての精神保健福祉法の定める措置入院病院におきまして直ちにそういった高レベルの司法精神医学の実践というふうなことはなかなか難しゅうございます。 したがいまして、ある中心的な中核施設を幾つかつくりまして、そこで人を養成しながら、手厚い体制、そして、外国の司法精神医学をそのまま適用できるのかどうかというふうなことの検証も含めまして、きちんとした日本なりのデータ、エビデンス、科学に基づく証拠、そういったものを積み上げてよりよい処遇に生かしていく、そういうふうなことはあろうかと思います。 ○水島委員 もう一度ちゃんとお答えいただきたいと思います。今、私が質問しましたことについての御答弁は、相当程度重複していると思われるということしか御答弁いただいておりません。 措置入院制度における自傷他害のおそれの他害のおそれと、政府案の再び重大な他害行為を行うおそれとの違いは何なのか、端的にお答えいただきたいんです。 ○古田政府参考人 他害のおそれというのは、他人を害する行動に出るおそれでございますから、これは犯罪行為に当たるものが恐らく中心にはなりますでしょうけれども、それを含めてより広い概念であろうと考えているわけです。 一方、この法案の場合には、そのような他人を害する行動に出るおそれの中から、特に人の生命、身体に重大な危険を及ぼすおそれのある行為、それは直接的に暴行でありますとかを加えるとか、そういうふうな身体に対して直接攻撃するようなケースもありますでしょうし、あるいは放火というようなケースもあり得るとは思いますが、精神保健福祉法で言う他害行動の中で、特に問題になる生命、身体に重大な影響を及ぼす、安全に重大な影響を及ぼすおそれのある行為を対象にするということになっているわけでございます。 ○水島委員 先ほど高原部長が、何か長期的な見通しなどとおっしゃっていましたけれども、厚生労働省としても、今の自傷他害のおそれの他害のおそれと、再び重大な他害行為を行うおそれとの違いの今の刑事局長の御答弁の内容で、そのままでよろしいでしょうか。 ○高原政府参考人 長期間というふうな言い方が誤解を招くようでありましたら訂正したいと思うわけでありますが、本法の法案におきます入院は、最低限六カ月ごとにレビューされるわけでございます。しかも、入院中はその主治医が観察しておるわけでございますので、その限度で必要な予測を行うということになろうかと思います。 ○水島委員 もう一度聞きますけれども、つまり、厚生労働省としても、法務省がおっしゃっている、その他害のおそれの定義の違いということは、先ほどの刑事局長の御答弁で必要十分なものであるとお考えになりますでしょうか。 ○高原政府参考人 必要十分だと考えております。 ○水島委員 そうしますと、また先ほどの質問に戻らせていただきますけれども、措置入院制度で足りないものは何なのかということなんですけれども、これをもう一度御答弁いただけますか。 ○高原政府参考人 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇につきましては、これまで、委員御案内のとおり、措置入院などの形で一般の精神病院に入院するケースが多く見られたところであります。 こうした者を措置入院制度のもとで処遇することにつきましては、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することとなるため、先ほど来申し上げておりますような専門的な治療がなかなか困難となっている、また他の患者にも悪影響を及ぼすこともあるということがございます。また、このような者について入退院の判断が事実上医師にゆだねられておりまして、医師に過剰な責任を負わせているのではないかという御指摘もございます。また、都道府県を越えた連携というふうなものはなかなか確保できない。特に退院後の通院医療を確実に継続させるための実効性のある仕組みについては、現在の措置入院の形ではなかなかできない、そういった問題があることを承知しております。 また、措置入院制度全般につきまして、都道府県ごとの制度の運用方法や、精神保健指定医による措置入院の要否の判断に必ずしも一定の水準があるのかどうかという問題もございます。措置入院者を受け入れる指定病院の中にも人員、体制等が不十分な病院があるということも、残念ながら事実でございます。 また、退院後のフォローアップ等につきまして、医療機関による受診指導、そういうふうなことは熱心に先生方行っていらっしゃいます。それからまた、御連絡がありますと、保健所の方から訪問指導、そういうふうなこともやっておりますが、必ずしも対応が十分じゃないというふうなことがある、そういうふうに承知しております。 したがいまして新しい骨格というふうなものが必要になっている、そういうふうに考えております。 ○水島委員 ちょっと通院の方はまた後で伺うとして、今は入院というところに限っていかないと、時間がいたずらに費やされてしまうと思うんですけれども、今おっしゃったこと、例えば、今人手が少ないのでなかなか全体のレベルの底上げができないですとか、あるいは入退院の判断が医師のみに任されていて医師の責任が重いのではないかとか、あるいは都道府県をまたがった対応ができないとか、都道府県ごとのばらつきがあるとか、こういったことは、何も重大犯罪を犯した人に限ったことではなくて、措置入院制度全体としてこれから改善しなければいけない点なのではないんでしょうか。 ○高原政府参考人 御案内のとおり、その措置制度の問題自身の改善というふうなものは、私ども今後取り組んでまいりたいと考えております。しかしながら、取り組む順序といたしまして、やはりプライオリティーの高いものから取り組んでいくというふうなこともあろうかと思います。 特に、重大な犯罪行為に該当する行為を心神喪失もしくは耗弱の状態で行った方につきましては、ほとんどの場合、きちんと医療をやれば有効なわけでございます。しかしながら、国際的な人員水準とか設備基準とか見ましても、やはり一挙に全国でこれをやるというふうなことはなかなか難しい点があるわけでございまして、本人もお気の毒、周囲の方も問題行動によっていろいろお困りになる、人身もしくは財産に重大な影響がある可能性がある、そういうふうな領域から改善を行っていく、これは措置入院制度の改善とは別にやはりきちんとやるべき課題だと考えております。 ○水島委員 まだよくわかりません。 今の御説明でプライオリティーという言葉も出てまいりましたけれども、今度の政府案が成立した暁には、この指定入院医療機関において治療を受けたいというふうに重大犯罪を犯していない人が希望した場合には、そこでの治療は受けられるんでしょうか。 ○高原政府参考人 そのようなことは考えておりません。 ○水島委員 そうであれば、今御答弁の中で、措置入院全体としてももっと改善しなければいけないけれども、まずプライオリティーを考えてこのようなところから手をつけていくということであるんですけれども、その場合のプライオリティーというのは何なんでしょうか。 ○高原政府参考人 古田局長から御答弁申し上げたような、事案の重要性というふうな点も一つの考慮対象だと考えております。 ○水島委員 それを措置入院制度とは別につくっていくということの理由がまだどうしても理解できないんですけれども、なぜそれを別につくらなければいけないんでしょうか。 ○高原政府参考人 一つの重要なポイントは、医師のみの判断でいいのかということでございます。医師によってそれなりに、委員御案内のとおり、診断名一つとりましても一致率が必ずしも高いわけではない。それでそういうふうな問題、これは、もちろん、医学、医療、精神医療の問題として改善していく必要があるわけでございますが、そういうふうなことも反映いたしまして、都道府県ごとのばらつきもある。そういうふうな問題を解決するためには、やはり厚生労働省が基本的に治療指針ないしは公訴基準を示し、一定の判断基準によって入院を命ぜられた方を対象とした病院をつくる、そういうふうな制度が必要だと考えております。 繰り返しますが、都道府県ごとに制度をつくるというふうなことは、処遇の公平性を改善する観点から、その枠組みのままでやるということは必ずしも適当ではないのではないかということも一つであり、それから、医師のみで判断していいのかという問題も一つであります。 それから、医師の判断というふうなものはあくまでも医学的観点に立ったものでございますが、本人にはいろいろ言いたいこともあるだろう、そういうふうなことについて、それは問診という形では聞くわけでございますが、医師の方から一方的にやるというふうなことは徐々に改善していく必要があるのではないか。したがって、新しい制度におきましては、医師及び裁判官が、弁護人、弁護人という言い方をしておりませんが、弁護士の方などのサポートのもとにきちんと言いたいことが言えるような、そして、それが医学的な観点のみならず、社会的な観点も含めて、法的な観点も含めていろいろ議論がされる、そういうことが必要なのじゃないかと考えております。 ○水島委員 そうすると、厚生労働省としては、措置入院のレベルが都道府県ごとにばらついているのは仕方がないけれども、重大な犯罪を犯した人に対してはもっと処遇を公平にしなければいけないというふうに考えていらっしゃるのでしょうか。まずその点を伺って、後でもっと伺いたいんですけれども。 ○高原政府参考人 措置入院につきましても、可能な限り統一的な判断基準と診療基準、そういうふうなものが定着していくことが期待されておるわけでありますが、心神喪失、耗弱、そういった方につきましては、それだけ病状が重いというふうな認識もあるわけでございまして、まずこういった方からきちんとした、レベルの高い医療を受けていただいて社会復帰を促進する。そういうことによりまして、委員御指摘のように、精神障害者に対する差別、偏見といったようなものも、やはり治るんだということで解消していくのではないかというふうに考えておる次第でございます。 ○水島委員 措置入院制度についてもばらつきは解消していくべきだという趣旨の御答弁と受け取りましたが、そうであれば、やはり、新たな制度をつくるというよりは措置入院制度の改善をすべきではないかとまた思うんですけれども、どうしても新たな制度をつくる必要性ということになると、恐らく入退院の判断を医師のみがやるかやらないかというところに、先ほどからずっと御答弁を伺ってきますと、どうもそのあたりに限局されてくるのかなと思います。 またここで、先ほどの措置入院の要件である自傷他害のおそれと、政府案における再び対象行為を行うおそれ、その違いなんですけれども、今、高原部長は、あくまでも措置入院においてはそれは医学的判断であるというふうにおっしゃいました。そうすると、政府案においてはどういう判断になるのか。おそれが認定されるそのおそれの違いというものをもう少しここで御説明いただかないと、先ほどの御説明とはまた違ってくるように思いますけれども、精神科医が判断するときには広く自傷他害のおそれだけが判断できて、そのうちどの犯罪行為をやるかということの限定になってくると裁判官がやるというふうな理解になるんでしょうか。 ○高原政府参考人 それは私どもの理解とは異なっております。 私が医学的な観点からと言うのは、現行の措置入院制度におきましては医学的観点から医師のみが判断をしておるという点につきまして、医学的判断からと言っておるわけでありまして、担当しておる医師は、それなりに、家庭の状況であるとか、社会の状況であるとか、そういうふうなさまざまなことを考えて御判断にはなっておると思いますが、やはり、メディカルスキームといいますか、メディカルパラダイムといいますか、医療的な物の見方のみにとどまる。これはやはり対象者にとって必ずしもいいことではないのではないか。まして、自分の意見、自分の立場、自分の考えというふうなものを十分サポートしてくれる、そういうふうな人がついて話ができる、そういうふうな場が必要ではないのかということでございます。 それから、自傷他害のおそれと本件におきますおそれの中身でありますが、本法案におきましては、「継続的な医療を行わなければ」ということで、医療が必要かつ有効であるという縛りをしております。さらに、「継続的な医療を行わなければ心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために」ということで、「心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」というふうな形で限定をしておるわけでございます。それでその精神障害の症状のために再び対象行為を行うおそれの有無を判断する、こういう構造になっておるわけでございまして、それに比べまして、自傷他害というのは、もう少し広い、もう少しというかかなり広い概念である。他害という概念も、「心神耗弱の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為」と、この対象行為が他害行為の中に含まれることは事実でありますが、その中の一部であるということがまず違う。 それから、「継続的な医療を行わなければ」というふうなことにつきましては、これは、暗黙の文章といいますか、措置入院につきましても条理としてはあるわけでございますが、本法案におきましては、継続的な医療の必要性というふうなものがあるということがその対象の条件になるわけでございまして、また、「心神喪失又は心神耗弱の状態の原因となった精神障害」ということでもまたさらに対象範囲を限定しておるわけでございます。それで医師の鑑定を基礎として裁判所が判断をする、そういうふうなフレームで構成をされております。 ○水島委員 ますますよくわからないんです。 何点も伺いたいことがあるので時間があればと思うんですけれども、まず、措置入院の場合にも、どういうふうに規定されているかというと、入院させなければその精神障害のためにこれこれの行為を引き起こすおそれがあると認めた場合と、そこで自傷他害行為を広く書いているわけでございますけれども、限定されているかされていないかということでいけば、措置入院の場合であっても、そこに記載されている精神障害のために起こすということですから、限定されていると思います。ですから、これと今回の政府案との違いということにはならないと思います。 また、医療が継続されていればというふうにおっしゃるわけですけれども、入院すれば毎日医療の連続ですので、入院させなければ自傷他害のおそれありということであれば、これはやはり継続した医療が行われなければ自傷他害のおそれありというふうに解釈できますので、同じことを言っているんじゃないのかなと思うんですけれども、まず、その点についての確認は、それで正しいでしょうか。 ○高原政府参考人 ある種のおそれを精神科医が予測する、その予測に基づいて、ある行為、行政行為でございますが、新制度におきましても精神保健福祉法においてもある行為がとられる、ここら辺は共通した枠組みでございます。 それから、広い意味での自傷他害という精神保健福祉法におきます措置入院の案件の対象というふうなものも、広い意味では精神保健福祉法の方が広うございますが、それの中の一部を抽出しているというふうに考えていただければ、大きな、広い、精神保健福祉法で言うおそれの判断の中で、さらにフォーカスしたといいますか、限局したものについて、やはりおそれを判断して処遇を決める、そういうことだろうと思います。 それから、いささか委員の御認識と、ちょっと混乱させるような発言でまことに恐縮でございますが、やはり入院の必要性とは別に、別にといいますか、一体のものといたしまして、退院した後にどのように医療が確保されるかというふうなことは極めて重大なポイントであると認識しております。 病状が悪化する、病状が悪化することによって通院が途絶えがちになる、それから、コントロールすべきような薬もなかなか、アポイントメント時に行かないとか、切れるとか、行きにくくなるとか、また病状が悪化するとか、さまざまな悪循環の結果、憂慮すべき事態が起こっているということもまた事実でございますので、そういった者につきましても退院後の、ないしは入院の必要がない人に関しましても、医療の継続性を確保する。これは現在政府提案を行っております法案の特徴であろうと考えております。 ○水島委員 先ほども、時間がないので今は入院の話に限りたいというふうに申し上げたと思います。 時間がいよいよなくなってきましたが、その通院の確保が必要であれば、措置入院制度の後の通院の確保をどうするかというところを新しい制度をつくればいいわけであって、今、なぜここで措置入院制度と違う入院制度をつくろうとしているのかということをお伺いしているわけでございますけれども、どうも先ほどからの御答弁、例えば対象としている行為についても、措置入院における自傷他害のおそれの方が広くて、その中に今回の再び対象行為を行うおそれというものが含まれるんだったら、何も新しいものをつくらなくても、その全体を改善していけばいいということになるので、なぜ新しい制度をつくらなければいけないのかということをどうしても伺いたいわけなんです。 例えば、その判断を医師だけがするかしないかという話であるわけですが、これも先ほどから部長がおっしゃっているわけでございますけれども、最初におっしゃったときには、医師の判断だけに任されてしまうと医師の責任の重さということが指摘をされているということをおっしゃった。先ほどは、今度は、今は医師が一方的にそれを伝えるだけであって、それを伝えられる側にもいろいろと弁護人のもとに言いたいことが言えるような仕組みをつくらなければいけないというふうにおっしゃった。 どちらも含まれるのかもしれないんですけれども、今回、この新しい政府案の中では医師だけが判断しなくていい仕組みがつくられるのかもしれませんけれども、一般の措置入院制度の中で、その措置入院の要否を判断する、あるいは退院を判断するときに、この新しい仕組み、例えば先ほどおっしゃったように、医師が判断していくためにもいろいろとサポートがあった方がいいとおっしゃったんですけれども、これは、今、普通に措置の判定をしている医師はみんなもっとサポートが欲しいと思っていると思うんですけれども、この新しい政府案におけるサポートというのは、措置入院制度における医師も受けることができるんでしょうか。 ○高原政府参考人 これは別個の体系でございますので、現在のところ考えておりません。さまざまなそういったサポートというふうなものも、一〇〇%、十全に均てんするというふうな状況ではございませんので、やはり重点的にということになろうかと思います。 措置入院制度のもとで処遇することにつきましての問題点は幾つかあるわけでございますが、もう一度整理して御答弁申し上げますと、一般の精神障害者と同様のスタッフ、施設のもとで処遇することとなります。したがいまして、専門的な治療が困難になってまいります。また、他の患者にも悪影響が及ぶということにもなりかねないわけでございます。 現在、御案内のとおり、どちらかというと重症者につきましては各病棟に分散して処遇を何とかやるというふうなことで、他の患者にも手薄な医療になりがちでございます。 それから、医師の責任ないしは裁判制度を取り入れることの意味ということについては、別々に御説明申し上げたので、互いに矛盾するというふうにお考えかもしれませんが、これは両方の側面がございます。 それから、都道府県を越えた連携、そういったものにつきましてはやはり国の制度として行うのが適当なのではないか、こういうふうに考えておるわけでございます。 ○水島委員 時間もなくなってまいりましたので、また次回以降ぜひ続けていきたいと思うのですけれども、今の御説明だと、どうも、重大な犯罪を犯せば手厚い医療を受ける権利が生じるけれども、重大な犯罪を犯さない限り手厚い医療は受けられない、その他大勢として扱われるというふうにもちょっと聞こえるので、非常に気になりますので、これは次回以降また伺っていきたいのですけれども、本日も通告してある質問の多分半分も行っていないと思いますが、それほど問題の多い法案、または確認しなければいけない点の多い法案なのかなと思います。 最後に、一言だけ確認させていただきたいのですが、そうしますと、措置入院の要件のときの自傷他害のおそれの他害のおそれと、この政府案における再び対象行為を行うおそれのおそれ、それぞれの予測に関して、見通す時間的な範囲というのは同じというふうに考えてよろしいのでしょうか。 私は、措置入院というのは、どちらかというと、今すぐ入院させないと何かするかもしれないという緊急避難的な入院制度というふうに理解しているのですけれども、今回の政府案も同じように考えるのか。あるいは、その先に通院確保制度をつけているということから、やはり見渡している範囲がより広くなるのか。その点について明確な御答弁をお願いします。 ○古田政府参考人 措置入院における判断のポイントがどういうところにあるか、これはいろいろ考え方があると思います。 過去は、私の理解では、やはり治療の確保が可能かどうかとか、あるいは症状がどう変化するかとか、そういうことを考えて判断されていたのではないかと思いますが、徐々に、現在の症状自身から見てどうなっているのか、そういう判断に移ってきているのではないかと理解しております。 したがいまして、この問題は、判断の資料として何を用いるかということでございまして、やはり精神の障害というのは症状にも波があるのも事実でございますし、治療が継続されなければまた症状が再燃して問題行動を起こす、そういうことも現実に懸念しなければならないわけでございます。 ただいま御提案申し上げております制度につきましては、そういうような点を含めて、十分な資料に基づいて判断をするということでございまして、目の前の症状だけで決めるわけではない。そこの点は、今の措置入院の運用とはある意味では違うところがあるかもしれません。 ただ、予測の期間というようなことは、これは特にないわけでございまして、ただいま申し上げたようないろいろな資料を前提として、このままの状態で置いておけば、治療を加えないで置いておけばいつ問題行動を起こすことになるかもしれないというおそれがあることが認められるということがポイントでございます。それは、一定の期間の予測ということではなくて、そういう状態が続くかどうか、この仕組みによって入院している間、そういう判断を常にしていく。その必要がなくなれば、そういう問題がないということになれば直ちに退院の申請をしなければならないという仕組みになっているわけでございます。 そういう意味で、期間的に長期の予測とか短期の予測とか、そういうレベルの判断の問題ではないと考えております。 ○水島委員 今の御答弁の内容についてもぜひ次回以降に質問をさせていただきたいと思います。ぜひこれからも実のある審議が続けられますようにお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。 ありがとうございました。 |