法務委員会(2002年6月5日)



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選択的別姓、非嫡出子の差別撤廃について




○園田委員長
 水島広子君。

○水島委員
 民主党の水島広子でございます。
 本日も、まず大臣に選択的夫婦別姓の問題についての質問から始めさせていただきたいと思います。
 昨日の記者会見で、大臣が政府としてのこの法案提出を断念したと述べられたというふうに伺っておりますけれども、まずそれが本当であるかどうかも含めまして現状を教えていただければと思います。

○森山国務大臣
 選択的夫婦別姓については、水島先生初め多くの議員の方、また世論の中でも、大変支持していただく、積極的に進めろよというお話もたくさんいただいてまいりまして、世論調査もそのような傾向を示していたわけでございます。
 したがいまして、法務省といたしましても、そのような方向でぜひ政府提案をしたいという考えを持ってまいりましたが、政府提案をいたしますのにつきまして、まず与党の御了解を得なければなりませんが、この問題については、自民党初めほかの党の中にも、いろいろ議論がなお十分に詰まっていないというところがございまして、特に自民党におきましては大変熱心な御議論を重ねてきていただきました。部会長その他、関係の議員の皆さんには大変御苦労をいただいたわけでございますが、まだ今の段階では一つの立場に意見を集約することができないというようなお話をお聞きいたしましたので、これは政府提案をするということは困難かなというふうに思ったところでございます。
 そのような状況であるということは私としては大変残念でございますけれども、政府提案という形でこれをお願いするというのは難しいかなということをきのうちょっと申し上げたわけでございます。

○水島委員
 例えば先日提出されました郵政関連法案のように、議論が一定の結論を得られないままに提出に踏み切られたという法案もこの内閣にはあるわけでございますけれども、なぜ郵政関連法案にはそれができてこの選択的別姓にはできないのかというあたりはいかがなんでしょうか。

○森山国務大臣
 郵政の法案とこれは全く質の違うものでございますので、同じようにというのはちょっと無理かなと思いますし、特にこの選択的別姓の問題は、家族のあり方とか、そのことに対する国民の意識とか、そのような問題に深くかかわっていることでございますので、ちょっと郵政と同じには論じられないというのが基本にあるかと思います。

○水島委員
 ただ、本当に構造改革ということで申しますと、私は、ある意味では最も重い法案なのではないかとも思っておりますし、郵政とは違う問題では当然ございますけれども、この点に関してもしっかりとリーダーシップを発揮されて、多少の反対論はあっても、正しい方向性であると信じられて、毅然と政府として提出されることを本当に心から期待申し上げていた立場でございます。
 今回、与党の了解が得られなかった、意見を一つにまとめることができなかったということでございますけれども、反対される方たちの御意見というのはいろいろなところで今までも伺ってきておりますけれども、今回主に反対されていた方たちの御意見はどのような論拠であったのか、そして、それらに対して法務省としてどのような説明や説得をされてきたのかということを教えていただきたいと思います。

○房村政府参考人
 夫婦別氏制度に反対する根拠といたしましては、種々ございますが、やはり一番大きいのは、家族のきずな、一体性が損なわれるのではないかという点、それからもう一つ、親子が氏が違うことによって子の福祉に悪影響を及ぼすのではないかということ、それから、やはり夫婦が同じ氏を称するのは我が国の伝統である、軽々に変えるべきではない、大きく言いますと大体その三つが主要な反対論かと思います。
 私どもとしては、これらにつきまして、まず、家族のきずなを弱めるという点につきましては、家族のきずなあるいは一体性というものは法律で氏の統一を強制するということによって成立するようなものではない、やはり家族を構成する人々相互の愛情あるいは思いやりというものによって一体性というのは保たれるはずだということを御理解いただきたいという説明をしてきたところでございます。
 それから、子の福祉の点でございますが、これにつきましても、同氏にすることが非常に困難で、やむなく事実婚のままいらっしゃる方々もいるわけですが、そういう場合には子供の法律的地位についても非常に悪影響を及ぼすわけでありまして、そういったことと比べれば、別氏にして安定的な法律婚を達成するということにした方が子の福祉にとっても積極的な意味があるわけでございます。
 また、親と氏が違うということによっていじめに遭うのではないかというような御懸念も示されたところでございます。そういう懸念も全くないとは思えないわけでありますが、ある意味では、まさにそういうような差別意識をなくしていくということこそが求められているのではないか。やはりそういう多様な生き方が世の中にあるんだということを社会が受け入れて、そういう社会にすることによって子の福祉に悪影響を及ぼすようなことを防いでいくということこそが求められているのではないか、こういうような御説明もさせていただいているところでございます。
 また、伝統という点につきましては、確かに明治以来この同氏制度がとられてきたことは事実でございますが、さらに昔をさかのぼれば、明治に夫婦同氏制度がとられるまでは日本においては別氏の制度が長く続いていたわけでございますし、これについては、必ずしも日本において同氏だけがとられていたわけではない、こういうような御説明もしてきたところでございます。

○水島委員
 本当によい御説明だと思います。
 ところが、今議場からもやじが飛んでおりますように、このようなすばらしい御説明を伺ってもなかなか説得されない方が今多いというのがこの結果を招いたのではないかと思いますけれども、大臣の率直な御感想として、反対議員という方は説得可能だと思われますでしょうか。そもそも説得が可能なのか、あるいは、そのような議員が国会からいなくならない限りこの法案というのは成立しないんだろうか。このあたり、市民運動をされている方たちも運動論の焦点をどこに置くべきかということでずっと悩んでいらっしゃるわけですけれども、率直に大臣はどうお考えになりますでしょうか。

○森山国務大臣
 今、民事局長から御説明申し上げたような議論で反対していらっしゃる方は、もう最初からそうなんですね。
 それで、この話が表に出てきてから、平成八年の法制審議会の答申から考えますと六年近くたっているわけでございますが、その間にそのような議論をずうっと続けてきまして、最近では、選択的というのを例外的というふうに表現して、内容もそのようなやり方にしてはどうかというような案もお示しいたしまして、御理解いただく方が次第にふえてはいらっしゃるんですけれども、どうしても、どんなやり方でも絶対反対とおっしゃる方がまだかなりの数残っておられまして、その衝に当たっていただく党内の関係の議員の皆さん方には大変御苦労いただいております。説得というのは大変難しいのではないかというふうに思っております。

○水島委員
 そのような現状分析を踏まえまして、大臣としてこの事態をこれからどういうふうにされていくおつもりかということをお伺いしたいと思います。
 きのうの記者会見では、議員立法に期待したいというような趣旨のことをおっしゃったと伺っておりますけれども、議員立法といえば、私たちも既に継続審議中の法案を提出している立場でございますけれども、具体的にどの法案をどういう形に成立させていくということを念頭に置かれて、議員立法に期待したいというふうにおっしゃったんでしょうか。

○森山国務大臣
 先生方が御提案いただいている法案があるということは承知しておりますが、私といたしましては、現在、政府提案をいたしたいと考えていた内容が最も現実的で、一番ふさわしいといいましょうか、ベストの案だというふうに思っておりますので、そして、それを支持していただく与党の先生方、またあるいはほかの党の先生方もかなりの数いらっしゃるというふうに聞いておりますものですから、そのような形になっていただければ大変私としてもありがたいなというふうな感じでございます。

○水島委員
 本当にこの成立を長年待っている方たちからすれば、当然政府提出が最も望ましいですけれども、議員立法でも何でもいいからとにかく成立させてくれというのが本音の意見であると思いますので、引き続き大臣には、ぜひしっかりとこの運動の先頭に立って御尽力いただけますようにお願い申し上げます。
 さて、本日は、もう一つの民法改正の積み残した方の要素でございます非嫡出子の差別の問題についてもお伺いしたいと思います。
 二〇〇一年三月二日、予算委員会の第三分科会で私が質問をしました折の高村大臣の答弁でございますけれども、
 
 また、平成八年二月に、法務大臣の諮問機関である法制審議会から、嫡出である子と嫡出でない子の相続分の同等化を図る旨の答申が出されておりますが、この問題につきましては、家族制度のあり方や国民生活にかかわる重要な問題として国民の意見が大きく分かれていることから、今後の議論の動向を見守りながら適切に対処していく必要があると考えております。
 
 それなりに合理的な理由がある区別であるのかな、こう思っておりますが、これは、世論調査なんかしますと、直すことについて反対の方が多いんですね。特に女性の方に多いという結果が出ておりまして、この問題について、余り政治的主導というよりも、やはり国民の世論の動向を見つつ決めていく問題なのかな、こういう感じを持っております。 このように答弁されているわけでございます。
 ところが、実際に私が直接お会いした方にこの非嫡出子の問題を子供の視点から説明をし直しますと、大体の方は、女性であろうと男性であろうと、それは確かにおかしな法律の構造だというふうにおっしゃるわけです。
 このような現状と世論調査の結果との乖離を踏まえまして、大臣は、まず、世論調査ではなぜ反対意見が多いというふうに分析されていらっしゃいますでしょうか。

○森山国務大臣
 御指摘のとおり、嫡出でない子の法定相続分の問題は国民の意見が分かれているというふうに思います。
 現行の制度は、被相続人が相続分の指定などをしなかった場合におきまして、法律上の配偶者との間に出生した嫡出である子の立場を尊重するとともに、他方、嫡出でない子の立場をも配慮して、法律婚の尊重と嫡出でない子の保護の調整を図ったものというふうに考えております。
 法改正に対して反対する立場は、このような現行制度を支持する立場であろうかと認識しているわけでございまして、世論調査の話をされましたが、これも平成八年の世論調査の結果でございますので、それからまた数年たっておりますからあるいは多少の変化があったかもしれませんが、この問題については、先ほどの選択的夫婦別姓とはまた違った内容のものでありますので、これを一度に論ずるのはむしろかえって議論が紛糾するもとになろうというふうに考えまして、今のところは、これはこの次というふうに考えているところでございます。

○水島委員
 今大臣がおっしゃいましたように、この問題は複雑な構造となっておりまして、私も、その世論調査の結果と、また実際に自分自身が人を説得するときの状態を踏まえて考えますと、世論調査の結果では法律婚を守るという大人のレベルの問題と子供の人権の問題が混同されているのではないかと思っておりまして、これらを切り離す努力をする必要があると思っております。
 今の民法は、当事者である親は何も法律上の差別を受けずに子供のみにその影響が及ぶという、本当に奇妙な構造になっているわけでございます。
 先日、五月八日から十日にかけまして、ニューヨークで国連子ども特別総会が開かれまして、そこでの採択文書「子どもにふさわしい世界」の宣言の一番目に、子供最優先ということが掲げられております。子供に関する政策では子供の利益を最優先に考えるということがそこに書かれているわけでございますけれども、法律婚を守るという大人側の事情に合わせて子供の問題を放置するということは、まさにこの宣言に反すると私は思うのでございます。
 また、この点については子どもの権利委員会からも既に勧告も出されていることでございますけれども、今このまま放置するというのはある意味では行政不作為ではないかというくらいに私は子供の立場から思っておりますが、何とかその大人の問題と子供の問題を切り離して国民が考えられる、そのような啓発活動をした上で世論調査をまたしていく必要があるのではないかと思いますが、この啓発活動についてはどのようにお考えになられて、また何をしていかれる予定でいらっしゃるか教えていただきたいと思います。

○森山国務大臣
 先ほど申し上げましたように、この問題も確かに重要であるということは私も理解しておりますが、最初にお話が出た選択的夫婦別姓の問題とこれを一緒にすると非常に事が紛糾してしまうと思いましたので、分けて別々に考えるということを先生おっしゃいましたが、そのためにも一つ一つ別々にやっていった方がいいというふうに思っているわけでございます。

○水島委員
 今、具体的な御答弁はいただけなかったのですけれども、法律婚は何らかの形で守られる仕組み、夫が婚外交渉をしてもうけた子供に対する、婚外交渉そのものについての問題というのはまた別のレベルの話だと思いますので、この問題は本当に子供の権利、あらゆる子供が生まれながらにして差別を受けないという当たり前な子供の権利に立って冷静に考えられるような、そんな啓発活動をぜひお願いしたいと思います。
 また、この点については折に触れて伺ってまいりたいと思いますけれども、今回、この国連子ども特別総会に出席をしたのは外務省と文部科学省だけだったと聞いておりまして、法務省も子供の権利に関する施策に大きくかかわっている立場として、今後はぜひこのような会議に法務省からも御出席をいただきたいと思います。そして、本当に国際レベルの子供の人権感覚というものをまた法務省の中でも議論していただければと思っております。
 子供の立場からということで、最後に、養育費の問題について一言お伺いしたいと思います。
 厚生労働委員会で母子寡婦福祉法の改正案が今後審議されようとしているわけでございまして、この中では、児童扶養手当の削減が大きな論点となっております。経済的な問題ということでいいますと、離婚家庭については、やはりかねてから言われておりますように、養育費の問題も極めて重要でございます。本来扶養義務がありながら離婚したからその義務を果たさないということでは、親子の関係というのは離婚したことで消えるものではございませんので、この養育費の問題は非常に重要だと思っておりますけれども、養育費の取り決めがされてもなかなか支払いが行われていないという現状を踏まえまして、法務省としてこの問題にどのように取り組んでいくおつもりか教えていただきたいと思います。

○森山国務大臣
 養育費の取り立てにつきましては、法務省の所管しております強制執行制度に関しましても、養育費の支払い日が到来するたびに強制執行の申し立てを繰り返さなければならないという問題点が指摘されているわけでございます。
 法務省では、現在、権利実現の実効性を高める等の観点からの担保・執行法制の見直しの作業を行っておりますが、その一環といたしまして、養育費の履行確保のための強制執行制度の見直しについても検討を行っております。その具体的なやり方としては、支払い日がまだ到来していない将来分の養育費なども含めて、一括して債務者の将来の収入に対して差し押さえをすることができる制度が検討の対象となっております。この点につきましては、担保・執行法制の見直し作業の中で、引き続き鋭意検討を進めてまいりたいと考えております。

○水島委員
 ぜひ前向きに御検討いただきたいと思いますし、その際に、離婚をして子供を抱えている母子家庭のお母さんというのは、ただでさえ子供を抱えて働いて忙しいという立場でございますので、手続のために仕事を休んだりですとか、そういった負担をかけないような仕組みをぜひ考えていただきたいと思います。
 ありがとうございました。



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