裁判官の処遇とジェンダー○水島委員 民主党の水島広子でございます。 私は、裁判官の処遇問題とジェンダーの問題について質問させていただきます。 私は今まで、一国民として数々の判決を見てまいりましたけれども、どう考えても、裁判官の人権感覚や常識を疑わざるを得ない判決が幾つも存在しており、また、私のみならず、多くの人たちがその点を指摘しております。 だからこそ、司法制度改革の必要性が叫ばれているのだと思います。 そもそもどのような人が裁判官になるかということもとても重要な問題だと思いますが、どれほどの人権感覚と使命感を持って裁判官になっても、その後の処遇次第でそれを失っていくという例は幾らでもあると思います。 裁判官も人間ですから、自分の仕事がどのように評価されるかということによって、働く意欲や方向性が変わってくるのもやむを得ないと思います。 そんな観点から、重要だと思われる裁判官の処遇問題についてまず質問します。 今回の審議会の意見書でも、裁判官の昇給制について検討すべきであると触れられています。 そもそも裁判官は、それぞれに独立して同じ仕事をしているのですから、報酬に差がつくことはおかしいと思いますけれども、何のためにこの昇給制というものがあるのでしょうか。 最高裁にお願いします。 ○金築最高裁判所長官代理者 御指摘のように、裁判官の報酬については、ある程度の刻みがございまして、昇給していくという制度になっております。 なぜそういうふうになっているかということなんですが、公務員の給与というものについて、その職務の複雑度、困難程度、責任程度、こうしたものに応じて給与を決めていくという一つの原則があろうかと思いますが、裁判官につきましても、裁判という仕事をしているという点では共通の点はございますけれども、そういった職務の複雑困難の程度、責任程度という点では必ずしも一律ではない。 例えば、合議体の陪審裁判官だけをしている人と裁判長として訴訟指揮をする人との差、あるいは、地方裁判所、家庭裁判所の裁判官と高等裁判所でその判決の控訴審について担当する立場にある裁判官などで、先ほど言ったような点で違いがあるわけでございまして、そういう面からいいますと、報酬に一定の段階を設けるということには一定の合理性があるんじゃないか。 判事について言いますと、これは、経験年数からいいますと、裁判官になって十年から三十数年まで経験差があるわけですが、それに応じて、先ほど申し上げたような職務の差がございますし、それからもう一つ、昇給していくときに、それぞれ昇給の幅が非常に大きくなりますと、上がる人と上がらない人で非常に差が出る。 そんなふうなことから、ある程度の報酬の段階を定めているんであろう。 もう一つ申しますと、少なくともこれまでは社会全般に年功序列型賃金が行われておりましたので、そういう中で、一般公務員の給与体系の上に、これと連動した形で報酬額が定められてきたわけでございますが、このことによって報酬のレベルが確保されて、社会的実情に即した報酬体系になってきた、そういうふうに考えられる面があるんじゃないか、そういうふうに理解しております。 ○水島委員 今、るる御説明をいただきましたけれども、そのような経験年数あるいは今行っている仕事の性質によってこの昇給制というものが本当に合理的にあるのであれば、今回の審議会の意見書でも、検討すべきであるとか、もっと簡素化すべきであるとか、人事評価を透明化すべきであるとか、そういった意見は出なかったんじゃないかなと思います。 そこが余りにも明確さ、透明性がなかったために今回の審議会の意見書にもつながったのではないかと思っておりますので、ぜひ、その点について、今回の意見書に沿って、最高裁といたしましてもきちんとした認識を持っていただきたいと思います。 そして、今回の意見書では昇給制については触れられておりますけれども、私は、報酬の問題だけではなく、勤務地の問題も重要だと思います。 裁判官も人間ですし、家庭を持っておりますので、地方を転々とさせられれば一家離散状態になりかねず、子供たちの教育のことを考えても大都市で安定して働くことを希望すると聞いております。 報酬だけではなく、転勤という処遇も極めて重要だと思います。 転勤についての明確な基準、また不服申し立ての道筋がなければ、人間は無難な仕事をして保守的になりがちだと思います。 個人の正義感と良識に基づいて勇気ある判決を下していると地方のどさ回りから抜け出せない、その一方、正義感を麻痺させて無難な判決に甘んじていれば安定した報酬と勤務地を得られるというのでは、お役所仕事をする裁判官がふえても無理はないと思っております。 転勤について、そもそも審議会で議論はあったのでしょうか。 簡潔にお答えいただきたいと思います。 ○樋渡政府参考人 簡潔にお答えいたします。 裁判官の補職及び配置につきましても、検討課題の一つとして中間報告に掲げられるなど、裁判官の人事制度の見直しの一環として議論がなされましたが、その現状認識及び改革のための具体的方策につきまして審議会としての意見の一致を見るまでに至りませんでしたことから、意見書ではこれについて触れられておりません。 ○水島委員 そもそも、では現状では転勤に関して基準があるのでしょうか。 ちょっとその点を最高裁にお聞きしたいんですけれども、簡潔にお願いします。 ○金築最高裁判所長官代理者 裁判官の転勤、異動というものは、各裁判官の希望とか家庭事情、それから評価、各裁判所の配置の都合等が総合的に配慮されまして、全体のバランスを図りながら決定されるものでございます。 他の裁判官の希望とか家庭の事情等との比較で、だれの希望が優先されるかというふうな問題も生じるところでございます。 判事補につきましては、大まかな方針として、十年間のうちにできるだけ大中小という規模の違う裁判所に配置して多様な経験を積んでもらう、こういう方針がございますが、裁判長クラスになりますと、ポストとの関係で、経験年数とか力量といった個別的な要素が考量として大きくなる、そういった面もございます。 そうしたことから、転勤について画一的な基準というものを設けるのは困難であるというふうに考えております。 ○水島委員 今、転勤についての基準をつくるのは困難ということであるんですけれども、ただ、これは人事評価にもかかわってくることであるわけですし、やはり明確性、透明性というものが必要であると思います。 ちょっと会長への御質問としては通告していなくて申しわけないんですが、先ほどからこの転勤問題でうなずいていらっしゃるので、転勤問題について、今後、やはりきちんとした基準を設けて明確化、透明化して、また、本人に不服があるときにはきちんとその申し立ての権利が与えられて、そこに十分な説明が加えられる、そういう道筋を切り開くべきだと思いますけれども、会長の御意見はいかがでしょうか。 ○佐藤参考人 うなずいていたということでございますけれども、転勤の問題は、先ほど事務局長の方からお答えしていただきましたように、さまざまなコンテクストで話題になりました。 しかし、これについては、審議会としてこうだということ、結論が得られなかったわけでありまして、会長としましても、個人的にはいろいろ思うところもありますけれども、審議会としては、この点についてこうだということに至りませんでしたので、ここで申し上げるまでもないといいますか、言うべきではないというように考えております。 ○水島委員 一般的にはかなり問題点が指摘されている領域だと思いますので、ぜひ、本日お答えいただけないとしても、引き続き検討項目に加えていただきたいと思いますし、自分がこれからどうなるかということに関して全く自分のコントロールが及ばないということがどれほど人間のやる気をなくさせるか、そういう学術的なデータもございますので、ぜひその辺の透明性を確保していただきたいと思います。 時間がございませんので、次に、ジェンダーの観点から質問させていただきます。 現在、最高裁裁判官には女性は一人もおりません。 審議会の意見書では、「最高裁判所裁判官の地位の重要性に配慮しつつ、その選任過程について透明性・客観性を確保するための適切な措置を検討すべき」とされておりますけれども、まず、審議会の中で男女比についての議論はなかったのでしょうか。 イエスかノーかでお答えください。 ○樋渡政府参考人 お答えいたします。 審議会の議論におきましては、最高裁裁判官の選任等のあり方につきまして、出身分野別の人数比率の固定化などの問題点について議論はなされましたが、同裁判所裁判官のジェンダーバランスについて、特にこれを問題として議論はなされておりません。 ○水島委員 今のお答えからも、いかに司法の場においてジェンダーという問題が軽視されているかということを感じさせられるわけですけれども、本当に、最高裁判所の裁判官というものの地位が重要であるからこそ、そこに女性の声が反映されなければならないと思います。 法務大臣は、まず、この現状及び改善の必要性についてどのように認識していらっしゃるでしょうか。 ○森山国務大臣 これまで最高裁判所の裁判官になられた女性は一人でございます。 平成六年から九年までの間、短い期間でしたが、女性の最高裁の判事が出まして、私ども、大いに注目し、歓迎したわけでございますが、最高裁判所の裁判官としての要件を満たして、これにふさわしい見識を備えた方であれば、男女にかかわらず任命されるべきことは当然だと思っております。 ○水島委員 男女にかかわらず任命すべき時代が来ればいいんでしょうけれども、現状ではやはりある一定の割合を設けて女性の裁判官を登用していくべきだと私は思っております。 森山大臣であれば、私の言わんとしているところを御理解いただけると思いますので、ぜひ、そのような認識を持たれて、今後御検討いただければと思います。 そして、女性の数をふやすこともぜひ積極的にしていただきたいと思いますけれども、それと同時に、裁判官の教育にジェンダーというものをぜひ取り入れていただきたいと思っております。 女性をめぐる訴訟の判決には、女性の人権の国際基準に関する裁判官の知識と人権感覚の欠如を痛感せざるを得ないものが幾つもございます。 国連の国際人権規約委員会も、女性の人権についての日本の裁判官の知識不足を暗に指摘しております。 日本の裁判官教育には、ジェンダーを克服するための教育課程がございません。 法曹養成の質問の中でジェンダーの問題が出てまいりませんでしたので、これは事前通告をしていなくて申しわけございませんが、佐藤会長に、ジェンダー全般についての教育の必要性について、専門家としてお答えいただきたいと思います。 ○佐藤参考人 直接お答えしていいのかあれですけれども、私も行革会議に関係して、男女共同参画について、内閣府にああいうものをきちっとつくるということについて私も積極的に賛成いたしました。 この問題は非常に重要で、これからの重要な課題でありますので、私も、先ほど法務大臣がお答えになったのと同じ認識であります。 教育もしっかりやっていかないといかぬというように思っております。 ○水島委員 そしてまた、これは裁判官のみならず、司法全般に、ジェンダーという問題についてもっと教育や研修が必要だと思っておりますけれども、この点について、森山大臣のお考えはいかがでしょうか。 ○森山国務大臣 裁判官に限らず、すべての公務に従事している人たちは、今まで以上にジェンダーについて留意をしなければいけませんし、その認識を深めなければいけないと思いますので、そのような内容の研修が裁判官にも必要ではないかと私も思っております。 ○水島委員 セクハラ訴訟ですとか家庭内暴力の訴訟、あるいは労働現場における女性労働者による訴訟など、幾つも、本当にこれが国際基準を理解している裁判官が出した判決なんだろうかと思わざるを得ないようなものが多々ございますので、ぜひ、このジェンダーという観点、きょうも今まで御質問の中にも、話題に出てもまいりませんでしたけれども、本当に司法においても重要な領域だと思っておりますので、今後の教育や研修の中で、また何といいましても、最高裁の裁判官の任命権者であります内閣の皆様にぜひこのジェンダーの問題というのをしっかりと認識していただいて、よりよい司法改革に努めていただきたいと思います。 以上です。 終わります。 |