少年法改正について■長勢委員長 質疑を続行いたします。水島広子君。 ■水島委員 この少年法が制定された当初に比べますと、凶悪犯罪も含めまして少年犯罪は格段に減少しているわけですけれども、一九九六年以来、少しずつ増加の傾向にございます。まず、この原因をどのように考えていらっしゃるか、法務大臣にお伺いしたいと思います。 ■保岡国務大臣 少年刑法犯全体の検挙人員の推移を見ますと、少年法が制定された昭和二十年代、昭和二十六年をピークに十万人台から十六万人台で推移していましたけれども、その後二度のピークを経て、最近は、水島委員御指摘のとおり、平成七年を境に増加の傾向に転じて、二十万人を超えて推移しておるところでございます。 少年による殺人、強盗、放火及び強姦という凶悪犯の検挙人員も、平成七年を境に増加の傾向に転じて二千人を大きく超えており、また近時、少年による凶悪重大事犯が相次いでいることは憂慮すべき事態であると考えています。 こうした少年による犯罪の増加、悪化の原因については、少年非行には家庭、学校、社会環境など多くの要因があって、これらが複雑に絡み合っている上、個々の事案にもまた特有の事情もございますために一概に申し上げることは困難でございますけれども、最近の少年の特質としては、規範意識が低下している、対人関係が希薄化している、抑制力の不足や短絡的な行動傾向が指摘されておりまして、これらもその一因として指摘できると思います。 ■水島委員 今、規範意識の低下ですとか対人関係の希薄化ですとか、そのようなことをおっしゃられて、それが少年犯罪の増加の要因というお答えであったわけですけれども、子供たちがそういうふうになっているという原因をどのように分析していらっしゃるかということをお伺いしたいと思います。 ■保岡国務大臣 それは、先ほど申し上げたように、いろいろ要因が絡み合って、複雑に関係し合って醸成する社会の背景もあれば、また直接的には、よく一番問題にされるのは家庭のあり方に原因がかなりあると。それだけじゃなくて、やはり学校教育とか、先ほど申し上げたように、いろいろな少年を取り巻く身近な環境の中からいろいろ少年の問題が発生することが見られる、こういうことだろうと思っております。 ■水島委員 先ほどからお答えが複雑とかいろいろとか、そのような表現ばかりでございますが、それでは具体的に家庭や教育にどのような問題点があるのか。複雑な要因が絡み合っていると言っているだけでは、ではどういう対応が必要であるかということが導き出されないと思いますので、具体的に幾つかお答えいただければと思います。 ■保岡国務大臣 ここで私が少年非行犯罪の要因をきれいに体系立てて申し上げるということはなかなか難しいので大まかに言っておりますが、私個人として、特に法務省としてということではなくて、個人として、少年法の改正に絡んでいろいろ経験してきてみましたことから考えると、やはり私は、家庭においてのしつけとか、家庭における親の成熟度、規範意識、つい忙しいとかいうことになって子供を放置しているようなところがないかとか、あるいは、逆に何かを期待して非常に厳しいことを言って、子供の考えやまた意見というものをよく聞くということができていないのではないかとか、一般的に最近は豊かになっていますから、そういういろいろ親子の関係、こういったことなどが家庭における要因の一つの大きな問題じゃないかと思っております。 また、学校においては先生と子供の関係、先生の資質にもよりましょうけれども、権威が非常に低下している。あるいは、先生自身、子供の状況を把握するための、心理学的なあるいはケア的な、多少なりともそういうカウンセリングのできるような資質とか、そういうものまでこれからは非常に大事にしていかなきゃならない点ではないかと思いますし、そういったあらゆる対応というものが総合的に整ってきて初めて少年法改正の趣旨も生きて、少年非行犯罪というものが減っていく傾向になるのではないかと思います。 ■水島委員 最後の部分についてこれから質問を続けさせていただきたいんですが、その前にちょっと、先ほど、豊かになっているので、親が忙しいからといって子供を放置したり、また過剰な期待をしたりする、そういうお答えだったんですけれども、豊かさとそういったこととの関係というのはどういうふうにお考えなんでしょうか。 ■保岡国務大臣 豊かな家庭からも少年非行犯罪が起こるということで、したがって、家庭が貧しいから、その困難さから、困窮さから犯罪を起こす要因というものが非常に大きかった戦後の一時期と違って、社会が豊かになっても非行、犯罪が起こるところにやはり問題があるのではないかという背景を申し上げたのであって、それが直接犯罪に結びつくということを、あるいは親のしつけの足りなさに結びついているとか、子供の意見を聞かないことに直ちに豊かさが結びついていると申し上げたつもりはありません。 ■水島委員 後ほど議事録をごらんいただくと、多分先ほどはそんな文脈で語られていたと思いますけれども、ただ大臣の真意が今のようであるということがわかりまして安心いたしました。 そして、先ほど、このような家庭環境とか教育の環境が整ってくれば少年法の改正の趣旨が生かされるというようなお答えでありましたけれども、そうすると、今回の少年法改正というものは、先ほどおっしゃっていたような家庭ですとか教育現場ですとか、そういうところへの直接の影響や効果はないというふうにお考えということでよろしいんでしょうか。 ■保岡国務大臣 少年非行犯罪ということは、いろいろな要因が重なって、長い少年の育成の歴史とか家庭環境とか学校環境とか、いろいろなことが重なってきて発生していると思うのですよ。社会のいろいろな変容ぶりの中にその要因が見られるとか。あるいは、社会全体の、私は強く感じますけれども、自浄力とか自浄作用とか、あるいはみんなで注意し合ってそういう非行事件が起こらないようにする、そういう社会の力というんでしょうか、蘇生力、こういったものなども含めて、幅広く少年非行事件というものは深く検討していく必要がある。 そういう背景をしっかりとらえた上で、また一方、少年法の改正も重要な対応の柱だ、そういうふうに認識しているということでございます。 ■水島委員 そうしますと、大臣は今回のこの少年法の改正には犯罪を抑止する効果を期待されているということでしょうか。 ■保岡国務大臣 そういう一つの要素になり得る、そう思っております。 ■水島委員 法律を改正してそれに何らかの効果を期待する以上はその根拠となるデータがあるのではないかと思いますが、そういうデータをお持ちでしたらお示しいただければと思います。 ■保岡国務大臣 データといいますけれども、そういうものを何か……。 いろいろ総合的、体系的なしっかりした調査の結果、何をやればどういう効果がある、どういう要因がどういう効果を発揮するというようなデータはないんですよ。ただ、少年の矯正施設においていろいろな工夫をやっておりますね。そういった工夫がなされた後、再犯率、再入所率がどうであるかというようなことを、一定の期間の出所者を限定してその人たちの出所後の犯罪を犯したかどうかなどの調査によって、それをやる前と後とでは随分違う結果になったねというような、矯正施設における不断の努力の中の対応とその効果についてのそれなりの推測をしているデータはあったかと思うのです。 ■水島委員 この後お伺いしようと思っていたところに行ってくださったので、ちょっとそちらに進ませていただきます。 そうしますと、今大臣がおっしゃっていたことは、例えばアメリカにはアミティという民間の犯罪者更生組織がございまして、その報告によりますと、普通の受刑者が出所後二年以内に再犯で再入所する割合が六三%であったのに対して、アミティのプログラムに参加して心理学的ケアを受けた人の再受刑率は二六%であった。同じようなデータをアミティはほかにも持っておりますけれども、恐らくこのようなデータのことをおっしゃったのではないかと思いますが、これはあくまでもグループワークの中で、心のいやし、自分が今までどのような生い立ちで育ってきて、どのような目に遭ってきたことが自分が犯した犯罪につながってきたか、そのようなことをきちんとみんなで確認し合える場を持って初めてその効果が出ているという、そのような場でございます。 今大臣がみずからおっしゃったので、そのような知識は恐らくお持ちだったのだとは思いますけれども、このデータを踏まえまして、更生システムのあり方、またこれは少年院ではなく少年刑務所でも私は同じだと思いますけれども、今後日本の刑務所内でこのようなプログラムをしっかりと導入していくようなお考えはおありでしょうか。 ■保岡国務大臣 私が申し上げたのは、御指摘のあったアミティについてもいろいろ、これはアメリカの、一九八〇年代のアリゾナ州で設立された民間の更生施設を経営する非営利団体で、もともとはアルコールや薬物依存症のためにつくられた。しかし、現在はアリゾナ州とカリフォルニア州において受刑者や出所者の改善更生のためのプログラムを運営している。これで、こういう施設に入って教育改善をした人とそうでない人との比較もあることは承知しています。 私がさっき申し上げたのは、それだけじゃなくて、我が国において、例えば川越少年刑務所における職業訓練修了者で昭和六十二年度に出所した者の出所年から三年以内の再入率は一八・九%、訓練を受けなかった者は三〇・七%。そういった例はほかにも挙げればあるのですが、そういう日本における矯正施設における関係者の研究、努力の結果も出ているということを申し上げたわけでございます。 それから、今の御質問にもありましたが、それはもうもちろん心理学、教育学、あらゆる専門的な知見を活用して創意工夫をして、矯正処遇のより一層の充実を図っていくことは大切なことだ、そう思っております。 ■水島委員 そうしますと、また先ほどの質問に戻りますが、今回の少年法改正に犯罪抑止効果を大臣は期待されているかどうかという質問にもう一度ちょっと、中でどのような更生システムを行うかという、そちらの話ではなくて、今回の少年法改正に絞って、もう一度お答えいただければと思います。 ■保岡国務大臣 今度の少年法改正に犯罪の抑止力があるか、その点をどう考えているかという御質問ですか。 その点については、一つは、少年にも、社会の一員ですから、ルールを犯した場合、特に重大な結果を犯した場合にはそれ相応の刑罰、処罰、けじめというものがあるんだということをわかってもらうということはとても大切なことで、そういうことに工夫がされている。 それは、少年非行犯罪に対応する選択の幅を広げて、そしてケースによってはそういう厳罰もあるんだということを改正の内容としている点。 それから、犯罪事実をしっかりと把握して、うそを言ったまま審判が終わらない。うそを言えば通るものだというような少年の甘い考えにつなげないためにも、また被害者の人権、気持ち、配慮ということから考えても、事案を正確にきちっと認定することはとても大切なことで、今申し上げた処遇あるいは被害者の気持ちにこたえていくためにも、やはり事実の認定の適正な手続というのは今度の少年法改正の重要なテーマになって、これも犯罪抑止の一つの効果を期待するものだと思います。 ■水島委員 今のお答えからも、結局のところ、大臣が少年法改正に犯罪抑止効果を期待しているか、またその根拠となるデータはお持ちでないということが私には理解できたと思います。 本当に質問時間が限られておりますので、あと簡単に質問を続けさせていただきますが、できましたら、御質問したことにだけお答えいただければと思います。 次に、今まで少年犯罪の加害者の中では、人を殺してみたかったなどとコメントするような人もおりまして、また、ビデオやゲームソフトや雑誌などと少年犯罪の関係を指摘する声も多いわけですけれども、この点についてどうお考えか、また、それに関する研究データをお持ちかどうか。 また、今、業界の自主規制が十分な効果を示しているとは思われない状況にございますけれども、この点について法制化する必要があるかどうか、どうお考えかを教えていただければと思います。 ■保岡国務大臣 御指摘のような意見があることは承知しております。しかし、それも一つの見方とは思いますが、先ほど申し上げたように、少年の非行に至る背景は、もう極めて多くの要因があるわけですね。 それは、少年が生まれてから犯罪を犯すまでの長い期間それを取り巻くすべての環境、広がる社会の問題など非常に広い意味でございます。そういうようなことで、一概にこれが原因で、それの因果関係をどう把握するかということは、簡単には言えないと思うのですよ。これはやはり科学的な知見を駆使して総合的に研究すべきところで研究する。 例えば、家庭裁判所で、最近起こった重大凶悪事件について記録に基づいた研究をいろいろやってみよう、その中に、もしゲームソフトやビデオ、そういったものを見た少年がいて、それが大きな要因だとすれば、そこでそれがどういうことで犯罪につながるのかを研究する機会にもなります。また、文部省で、厚生省と協力して少年問題の総合的な研究を関係者と一緒にする、そういう中でも当然取り上げられて検討がなされるものと思います。 ■水島委員 ということは、今データをお持ちでないようですので、そのための研究推進の責任も大臣はお持ちだと思いますので、ぜひこれから積極的に各省庁と提携して研究を進めていただければと思います。 そして、最後になりますが、犯罪を犯す少年は、自分が他人に認められていないという感覚を持っていたり、また他人との関係がうまくつくれないというような感覚を持っていると言われております。健全な自尊心とコミュニケーション能力がないということは一般の子供たちにも見られつつある現象でありまして、また普通の子供たちでさえ、自分も凶悪犯罪を犯すかもしれないというようなことを答えているアンケート結果もございます。 昨日、法務委員会におきまして、法案提出者の麻生議員が、一部の特殊な少年たちのために普通の子供たちが犠牲になっているというような趣旨の言い方をしておられまして、普通の子供たちの心がだんだんと病んできている現状を考えますと、少年犯罪をそのようにとらえている方がこの改正法案の提出者であるということに、私は大きな不安を感じております。 子供たちの自尊心とコミュニケーション能力の低下の原因と対策をどう考えるか、最後に大臣にお伺いいたしまして、私の質問を終わらせていただきたいと思います。 ■保岡国務大臣 先ほど言われたように、自己中心的で忍耐力が欠けているとか、人間関係が希薄で少年が孤立しているとか、面接時などの対応では比較的素直なんですけれども実行が伴わないとか、親が子供の生活を十分に把握していない、自分たちの都合を優先して子供との深いかかわりを持とうとしない、子供のわがままを許している。 あるいは、この種の少年の保護観察に当たっては、社会福祉施設における社会奉仕活動に参加させたり、社会への適応を促進するための指導を行ったり、必要に応じて少年と家族との関係修復を図るための家族に対する援助を行ったり、いろいろな角度から、こういった問題については、矯正の施設においても、また学校との連携、その他関係機関との連携においてもいろいろ手を尽くして、少年非行犯罪に対して適切な対応ができるように努力をしているところでございます。 結局は、人と人とのつながりにおいて、少年たちに自分が必要とされているというような実感を持たせる、そして大人が自分の成長過程において必要だったいろいろなこと、経験したことをよく話してあげるとか、そんないろいろな工夫を尽くしていく、そういうことにやはり少年は期待をしているんだと思いますし、少年の問題を克服する一つの手だてがあるのではないかと思います。 ■水島委員 大人が自分の経験を教えることも大切かもしれませんけれども、やはり自尊心そしてコミュニケーション能力をきちんと高めるためには、何といっても子供たちの意見を頭で考えて言わせる、そしてそれをまず大人たちが聞いていくという環境づくりが大切であるということはもう専門的にもほぼ確立されたことであると思いますので、ぜひそういう観点も踏まえて今後の対策、またいろいろととおっしゃっておりますけれども、そのいろいろの一つ一つをぜひ表に見えるような形で対策を私たちに示していっていただけますようにお願い申し上げまして、質問を終わらせていただきます。 ありがとうございました。 |