No.7(2003.7.29)

私が日常感じていることや意見を書いていきます。

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長崎事件と鴻池大臣問題

 長崎市で四歳の男の子が十二歳の男の子に誘拐・殺害された痛ましい事件について、新たに政府の青少年担当大臣となった鴻池氏が、七月十一日、「(罪を犯した少年の)親は市中引き回しのうえ打ち首にすればいい」「(マスコミは被害者の)ひつぎの(傍らの)両親ばかり映し、犯罪者の親を映していない。十四歳未満の子は犯罪者として扱われないんだから、保護者である親、(学校の)担任、校長先生、全部前に出てくるべきだ」などと述べました。
 十二歳の子が四歳の子の命を奪う、という事件そのものによるショックも新たなうちに、「政治家がこんな程度だから痛ましい事件が起こったのだ」というメッセージを与えられ、傷口に塩をすりこまれたような気持ちになりました。
 閉塞的な子育て環境の中、明らかに子どもたちに変化が生じてきているということを私も感じています。地域における親の活動範囲の狭まりに応じる形で、子どもたちの心の成長を支える対人交流も極端に減ってきています。
 今回の事件については、詳細の解明を待たなければなりませんが、このあたりで、あらゆる大人が、それぞれの立場を乗り越えて、現在子どもが置かれている状況を虚心坦懐に見つめなおす必要があるのではないでしょうか。
 私も、自分にできることをさらに考えてみたいと思っています。


大臣への申し入れ

 青少年問題に取り組んでいると、あまり政局に巻き込まれることはないのですが、今回は、野党筆頭理事としてきちんと対応する必要を感じました。そこで、青少年問題特別委員会の野党理事会メンバーで、七月十五日に、鴻池大臣への申し入れを行いました。その要旨をご紹介します。

 青少年問題の担当大臣が、法律にないような罰や制裁を与えるべきだと公言するなど、民主主義国とは思えない。
 長崎市の事件に関しては、被害者のご遺族はもちろん、多くの国民が心に傷を受けている。そんな中、被害者への配慮のかけらもなく、そして、今日の社会を形成した政治家としての自覚も責任もなく、暴言を放つ姿勢を許されない。
 さらには、青少年育成大綱を出さないと述べていることも問題である。青少年育成大綱のもととなる「青少年の育成に関する有識者懇談会報告書」は青少年問題特別委員会でも質議・答弁の対象となり、真剣な議論をしているところである。国会の議論を無視するような青少年担当大臣が、国会に対する責任を負えるかどうか疑わざるを得ない。
 よって、鴻池大臣に対し、長崎市の幼児誘拐殺人事件に関する上記発言を撤回の上、謝罪すべきこと、また、青少年問題担当大臣として、自ら判断し、しかるべき形で責任をとられることを求める。


七月十七日の委員会での追及

 大臣からは何の回答もないまま、七月十七日(木)、青少年問題特別委員会を迎えました。ボイコットという戦術もないわけではありませんでしたが、ここはきちんと本人の真意をただすべきだという結論で野党理事もまとまりました。
 本来は虐待問題を中心とする対政府質疑となる予定で日程を組んでいましたが、十一日の鴻池大臣発言と十五日の申し入れを踏まえて、審議はほとんど鴻池大臣発言が中心となりました。鴻池大臣が青少年問題を担当する資格があるかどうかを明らかにするための審議という位置づけです。
 少年非行と虐待の関係(少年院入所者の7割が虐待被害者だというデータがあります)を考えても、また、成長に困難を抱えている子どもを地域で早期に発見してサポートすることが虐待を防止する上でも、少年犯罪を防止する上でも重要なアプローチとなるわけですが、そうした観点からも、鴻池大臣の見識を確認しておく必要があるわけです。
 私は、野党筆頭理事として、問題答弁をとらえて抗議を申し入れ審議をストップさせる、という行動を初めて経験しました。


青少年問題についての常識も実績もない大臣

 それにしても、鴻池大臣は、見ていて気の毒になるくらい、青少年問題担当とは程遠い方です。
 「どうすれば少年犯罪の発生を防止できると思うか」と質問されても、「それについての考えは持ち合わせておりません」。「親の責任ばかり問うけれども、子どもを虐待する親自身も、崩壊家庭で育っているというケースも多い。そういう問題をどうとらえているのか」と質問されても、「虐待の問題は大変難しいので、これから勉強したい」というような答弁。今まで国会で積み重ねられてきた議論すら認識せずに、青少年問題の責任者がつとまるのでしょうか。
 また、鴻池大臣は、「市中引き回し」「加害者の親を引きずり出せ」という発言について、「被害者ばかりメディアが押しかけて、加害者は守られて、不公平だ。加害者も同じように扱われなければならない」という趣旨のことを述べました。
 メディアが個人のプライバシーを踏みにじることを諫めなければならない立場であるはずなのに、それを加害者にもしてやれ、という発言です。まるで、「いじめ」という問題に直面したときに、「いじめをした加害者もいじめてやらなければ不公平だ」と学校の先生が発言するようなものです。


被害者を守る立法を怠り、加害者への報復感情にすり替え

 また、加害者の人権ばかりが守られて被害者の人権が守られていない、ということをさかんに鴻池大臣はおっしゃっていましたが、これについては、民主党がかねてから提出している「犯罪被害者基本法案」について尋ねました。
 というのは、私は、今回の鴻池発言の最も悪質な点は、われわれが提出している「犯罪被害者基本法案」には見向きもしないで、立法不作為を放置しつつ、被害者の権利が守られないことへの国民の怒りを、加害者への報復感情にすりかえているところだと思うからです。
 この卑怯で無責任なすり替えに、私は本当に憤りを感じています。
 鴻池大臣は「犯罪被害者基本法案についてはまったく知らない」と答えました。犯罪被害者給付金の額を知っているかという質問に対しても、何も答えられませんでした。
 同じように車に轢かれて亡くなるという場合でも、交通事故であれば保険金も給付されますが、殺意をもってひき殺された場合には、お涙程度の給付金にとどまります。被害者の人権云々を大臣として発言するのであれば、せめてそのくらいの勉強はしてからのぞむべきではないでしょうか。


度重なる失言

 発言には十分注意する、と言っていた舌の根も乾かぬうちに、今度は翌日十八日にひどい発言をしました。予算委員会で、東京の渋谷で監禁されていた四人の小学生の女の子たちのことを、「被害者だか加害者だかわからない」と言ってのけたのです。
 さすがに小泉首相も問題視したようです。それほど青少年問題をわかっていない、担当大臣にふさわしくないということだと思います。
 七月二十三日、青少年問題特別委員会の理事懇談会の席で、「小泉首相を呼んで委員会を開いてほしい」という要求をしました。前回の委員会で、なぜ青少年問題についての知識も実績もない鴻池さんが青少年担当大臣に任命されたのか、という質問に、鴻池大臣が「総理に聞かないとわからない」と答えたためです。
 また、鴻池大臣は、内閣委員会で「子どもの権利条約にそって対応するのは承服しかねる」と答弁しておきながら、それを翌日の青少年問題特別委員会で指摘されると、「そんなことは答弁していない」と言いました。この二つの発言の矛盾が、速記録によって明らかになり、この点でも大臣の責任が問われることになりました。


党首討論と内閣不信任案へ

 理事懇談会での結論は「委員長一任」ということになりましたが、私は、その日の党首討論で菅さんにこの問題を取り上げてもらおうと考え、早速菅さんに連絡を取りました。党首討論まで二時間というときでしたが、「どうしても重要な問題だから」と頼み、最終的には党首討論の冒頭でこの話題に触れてもらいました。
 「与党は犯罪被害者に関する立法を怠っておいて、そのことへの国民の憤りを、加害者への野蛮な報復感情にすり替えている」という私の主張(なかなかメディアではこうした観点からこの問題を捉えてくれませんが)を菅さんにしっかりとアピールしてもらうことができました。
 民主党が提出している「犯罪被害者基本法案」についても、党派を超えて実現したいということを小泉首相に約束させました。
 さらに、七月二十五日、内閣不信任決議案の趣旨弁明を菅さんがしたときにも、鴻池さんを大臣に任命した責任に言及してもらうよう頼み、実現しました。
 内閣不信任案の提出によって、私が求めていた「青少年問題特別委員会に小泉首相を呼ぶ」という話は幻のものになってしまいましたが、党首討論、本会議での趣旨弁明、とできるだけのことはできたと思います。
 おそらく内閣改造で交代になるとは思いますが、もしも次の国会でもまだ鴻池さんが大臣を務めているようでしたら、まともな大臣を求めて引き続きがんばってまいります。


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