No.5(2002.6.1)

私が日常感じていることや意見を書いていきます。

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瀋陽総領事館事件について

 北朝鮮住民5名が中国・瀋陽の日本総領事館に亡命を求めて駆け込み、 中国の武装警察官によって連行された事件については、すでに報道で いろいろなことが指摘されています。日本の外務省の機能不全、外交無能 ぶりを国際社会にさらけ出した事件だったと言えますが、まずは、5名が 北朝鮮に強制送還されることなく、無事韓国に到着したことを心から喜び たいと思います。
 そうは言っても、妊娠5ヵ月の女性が暴力的な扱いを受け、2歳の女の 子が地面にたたきつけられた上に、目の前で母親たちが暴力的に取り押さ えられるのを見ています。この方たちの心身の健康を心から祈るものです。

 在外公館の不可侵を定めたウィーン条約に違反しているかどうか(つま り、同意があったかどうか)については、現在のところ、日本と中国の言 い分が完全に反しており、事実解明にはまだ時間がかかると思われます。 この点についてはマスコミでも十分に語られていますので、本紙では、別 の角度からの意見を述べさせていただきたいと思います。


民主党調査団は「自虐主義」か?

 まず、国民の「知る権利」から考えてみましょう。
 今回、事件後に外務省が調査結果を発表しましたが、この時点での世論 調査では多くの国民が「日本の発表も中国の発表もあまり信用できない」 と答えています。自分の国の政府の発表を信用できない、というところに 日本の現在の行政のレベルがうかがえますが、そんな中、民主党の調査団 (海江田万里議員、中川正春議員)が現地に赴きました。「外務省の問題 を外務官僚に調査させても肝心なことはわからないのではないか?」「立 法府の人間が行政をきちんとチェックしなければならないのではないか?」 という問題意識に基づく行動でした。

 この調査の結果、外務省の報告書にはない事実がいくつも明らかになり ました。
 これが大きなニュースになると、小泉首相は「日本の悪さばかりあげつ らうのは自虐主義」という趣旨の発言をしました。後日の委員会でこの発 言の撤回を求められても、頑として応じませんでした。
 今回、民主党が調査をしたことは「自虐主義」だったのでしょうか。多 くの国民が「外務省の調査結果は信用できない」と思っていたときに、民 意を付託された国会議員が自ら調査することは「自虐主義」なのでしょう か。
 いい加減な政府報告を盲信する国民だと思われる方が、よほど国際社会 では「自虐主義」なのではないでしょうか。少なくとも、私は、日本にも、 矛盾に満ちた外務省報告を鵜呑みにせずに自ら調査をしようとする人たち がいるということを国際社会に示せたことは、むしろ誇りに思っても良い と思います。そんなことすら「自虐主義」と封じ込められてしまうようで は、国民の「知る権利」も守られないのではないでしょうか。
 人の行動に「自虐主義」というレッテルを軽々しく貼るというのは危険 な考え方だと思います。少なくとも一国の首相の取るべき態度だとは思え ません。

 今回の対応を振り返ると、日本政府のお粗末さを国際水準に載せてみた ら通用しなかった、ということだと思います。政治に無関心な日本国民が 相手だったら、「あまり信用できない」と言いながらもそのままうやむや にできたかもしれない。でも、中国という相手国がある土俵では、とても そんないい加減なことでは許されなかったということなのでしょう。行政 のレベルをチェックするのは立法府の役割です。「あまり信用できない」 行政を放置しては、立法府の役割を果たせていないということになると思 います。


まずは日本の失政を省みるべき

 ここで一つ、気になるのは、中国に対する感情です。
 今回、民主党の調査団に対しても、「中国を利するだけだ」というよう な批判の声が一般の方たちからも上がりました。小泉首相も、「そんなに 中国がいいのかね」と言っています。
 中国がウィーン条約に違反しているとしたらそれは大変な問題ですし、 国の主権は守られるべきなのですが、それにしても、「主権の侵害をした 中国を断じて許してはならない」という論調が日に日に大きくなるのは気 になります。

 この背景にあるのは、おそらく、日本の現在の不況が「中国のせい」で あるかのような感情なのでしょう。確かに、日本の製造業が空洞化してし まったのは、人件費の安い中国に製造の場が移ってしまったことと大きな 関連があります。私も日頃地元を歩いていて「まったく、中国の奴らは安 い金でどんどん仕事を持っていきやがって・・・」という声を聞くことも あります。でも、本当に責めるべきは中国なのでしょうか。
 人件費の各国間のバラツキは当然の現実です。そんな中、自国の産業を どうするかというビジョンに基づいて政策を作るのが政治の役割なのでは ないでしょうか。
 私は、日本の製造業や農業が空洞化していくことの最大の原因は、人件 費や物価の安い外国にあるのではなく、国内の失政にあると思います。目 先の利権ばかりを追いかけてしまった結果、長い目で見て日本の産業をど うするか、ということが全く検討・実行されずにきてしまったのです。

 今、小泉首相の「そんなに中国がいいのかね」という発言に代表される ように、あたかも中国だけが悪いかのような雰囲気が醸成されているのは、 自分たちの失政から目を逸らさせようとする政治の意図によるものだと感 じます。
 同じような構造は、よく見られます。経済・雇用不安を抱えた国は、外 国人排斥運動などが起きます。最近も、ヨーロッパ諸国で極右が票を伸ば しやすい背景には、同じような「論理のすり替え」があるのだと思います。

 もちろん、外国が必ずしも正しいわけではありません。また、北方領土 の問題に見られるように、日本として、毅然とした態度をとり続けなけれ ばならないテーマもあります。でも、最近の日本が中国を仮想大敵に仕立 て上げて国内の失政を覆い隠そうとする中には、外交上の必要性という大 義よりも、姑息さばかり感じてしまいます。まずは、失政をきちんと検証 して政治を変えていくことが何よりも重要なのです。

 将来に責任の持てる政治を日本に実現させ、自信を持った外交ができる よう、さらに頑張ってまいります。今後ともどうぞご指導・ご支援をいた だけますようお願い申しあげます。


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