No.4(2001.10.1)

私が日常感じていることや意見を書いていきます。

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米国同時多発テロについて

 米国の同時多発テロに対するわが国の対応は、きわめて危険と言わざるを得ません。テロリズムに毅然とした態度を取っていくということと、安易な軍事報復を行うことは全く違います。テロはあくまでも犯罪ですから、犯罪に対しては犯人の逮捕と刑罰で臨むべきです。国際的な協力によって、犯人逮捕と、テロ再発防止を徹底しなければならないときに、安易な「報復」に熱を入れているのは、あまりにも冷静さを欠いている状態だと思います。

 くれぐれも、今回ニューヨークで起こった悲劇が繰り返されることのないよう、慎重の上にも慎重である必要があります。あくまでも「一般市民対 テロリズム(犯罪者)」という構図で捉えるのを忘れてはなりません。これを「西洋社会 対 イスラム教」などという捉え方にしては(されては)ならないのです。

 私自身も、あちこちを旅行した経験上、イスラム教徒の友人がいろいろな国にたくさんいます。家族や友人を大切にし、節度を持って暮らす良い人たちが大部分です。残念ながらアフガニスタンには行ったことがありませんが、現地で働いている人によると、タリバンに実効支配されているからタリバンの思想に共鳴しているというわけではなく、タリバンに多少不満があっても二十年来の戦争に比べれば平和だと思って特に反対もしないという中間派が多いと聞いています。そのような人たちの平和な生活を踏みにじることだけは許されません。

 先日の新聞に、アフガニスタン人のコメントが載っていました。「今回のテロリストはオウム真理教のアサハラのようなもの。全ての日本人がサリン事件を起こしますか?」という趣旨でした。「今回のテロ=イスラム教徒の危険性」などと短絡的に結びつけてしまうことが、どれほど危険で愚かしいことであるかがよくわかる例えだと思いました。

 また、ミサイルなどで報復を行う場合、情報網の発達した組織のメンバーはいち早く逃れてしまうため、実際に被害に遭うのは一般市民、特に女性や子どもであることが多いということも指摘されています。一般社会に突如として攻撃が加えられることの恐ろしい現実は、今回のニューヨークで嫌というほどわかったはずです。大義が何であれ、そこで被害に遭う一人一人の人には家族や友人がいて、貴重な命なのです。
 私のもとにも、「安易な報復に反対」というご意見が多数寄せられています。その中から、ニューヨーク在住の友人のコメントを紹介させていただきます。

「報復行為は、イスラム原理主義者およびテロリストたちに『彼らなりの正義』を確信させ、さらなる憎しみを彼らに植え付けるだけです。報復はテロリズムの根元を絶やすのではなく、それに栄養を与え、より多くのテロリストを育てるだけにすぎません」



 一方、「被害者の遺族の感情を考えたら報復も必要だ」というようなご意見をいただきました。気持ちはよくわかります。でも、人それぞれの「正義」は異なり、それが極端な形で現れてしまうのがテロ行為であるとも言えます。
 今回これだけの犠牲を出した実行犯にも、もしかしたら米国やその支援国の攻撃で過去に家族を失った人がいるかもしれません。その家族のための「報復」が今回のテロだったと考えると、ブッシュ政権が進めようとしていることの本質が見えてきます。事情はどうであれ、今回のテロ行為が許されるものでないのと同じように、安易な報復は許されるものではありません。事件に直接関係のない老人や子どもたちを殺せば遺族が納得するというものでもないと思います。延々と繰り返されるパレスチナのテロとイスラエルによる報復の応酬を見ても、犠牲になるのは、いつも当事者以外の一般市民であることの悲惨さが良くわかります。どんなに精巧な作戦を立てて攻撃対象を絞ったところで、多くの一般市民が犠牲になることは、湾岸戦争のときの米軍によるイラク攻撃を見ても明らかです。

 テロによる被害をこれ以上拡大しないためにもくれぐれも慎重であるべきです。テロの犯人が捉えられてきちんと裁かれること、そして、世界がテロリズムから守られるような国際協調と真の平和を実現すること、被害者の遺族の方たちのために私たちがすべきことはそれらに尽きるのではないでしょうか。



 マスコミでは様々な識者の方たちが持論を述べています。本当に共感できるものも、かなりマユツバ的なものもあります。そんな中、9月24日の朝日新聞朝刊「テロ 戦争 日本は」に掲載された、寺島実郎氏(三井物産戦略研究所長)のインタビュー記事は、世界をバランス良く見ているという点からも、また、日本の立場を冷静に捉えているという点からも、とても価値あるものだと思いました。以下、記事から発言の一部を抜粋します。

「日本は、いかなる中東の紛争にも関与せず、武器輸出をしたことがない。中東への適切な距離を保っているという点で、日米は一枚岩ではない。」

「報復措置に使う在日基地を提供していること自体、実質的な後方支援だ。在日米軍が中東に展開することについても、以前は日本国内に、日米安保条約の『極東条項』へのこだわりがあった。日本は敗戦で、近代史の総括として、地域紛争の解決に武力をもってあたらない、という基軸を確立した。憲法の条文の問題ではなく、どんな大国であっても武力介入では解決できないばかりか、問題を複雑にすることを、骨身にしみて知った。」

「拙速な軍事支援を打ち出し、評価をしてもらいたいというのは、米国のフィルターを通してしか世界を見ていないからだ。私はこれまで、日本が武力をもって紛争にかかわらないという立場を説明し、国際社会で孤立感を覚えたことはない。憲法の『制約』があるから後ろめたい、というのは、それこそ卑屈な説明でしょう。憲法は『制約』ではなく、国際社会に説明すべき理念のはずです。議論を深めずに、この流れの中で日本が大切にしてきた基軸を修正するのは、大問題です。」

「小型武器の輸出規制や地雷廃絶、財源となる麻薬取り締まりなど、知識も金も人も結集し、根気強く立ち向かうべき課題は山積している。中東諸国と一定の距離を保ち、多様な回路をもつ友人がいるのは、米国にとっても利益です。テロ撲滅には、テロを支える構造事態を変える必要がある。長く困難な歩みでは、方向づけたり、渡りをつけたり、時には戒めたりする多くの友人がいる方がいい。多様性こそがテロに立ち向かう力です。」



 着々と報復への準備を進めるブッシュ政権、そして、訪米して新法制定まで公約してきてしまった小泉首相・・・。一方では、報復を懸念する声が世界各地でどんどん高まっています。  そんな中、民主党は「新法制定に条件付き賛成」と報じられ、また、それについても、例によって「寄り合い所帯ゆえの党内のばらつきぶり」が報道されています。が、党内では繰り返し外務部門・安全保障部門合同会議が開かれ、新法制定の是非も含めて議論が積み重ねられています。外部講師を招いての勉強会も開催されています。拙速で危うい小泉首相とは対照的な、敏速で真に世界平和に貢献しうる対応を民主党は示すべきだと思います。


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