別姓は離婚の増加につながるのか?
(ぴぴさん)


別姓目次|HOME

 選択別姓に反対の方が以前、「自分の不安に誰もまともに回答をしてくれない」と述べていたので、それについて考察してみます。

  反対の方の「不安」は書き込みから判断するに
「別姓導入は離婚を増加させ、ひいては様々な社会問題をひき起こす」
という要旨で、別姓導入と離婚増加には
「統計からみて関係があるのだ」
と主張されていたので、資料をさがしてみました。

 まず、離婚統計で目を引くのはなんといってもアメリカです。
アメリカは諸外国に比べもともと離婚率がかなり高く、特に各州で次々に別姓が認められた70年代には離婚が激増しており、確かに別姓導入の時期と離婚の増加期がほぼ一致しています。

人口千人に対する離婚人口=離婚率で見ると

70年 3.45 
75年 4.80 
80年 5.22に増加


 ただし、70年代の離婚率の増加は程度の差こそあれ、西欧に共通した現象です。

  しかし、80年代初頭に原則同姓の法律を改正し、別姓を認めたスウェーデンとデンマークではどうでしょうか?

 
 スウェーデン
(82年改正)
デンマーク
(80年改正)
70年  1.61  1.93
75年  3.14  2.62
80年  2.39  2.65
85年  2.37  2.81


このように、別姓導入と離婚率の増加に関連を見いだせるような数値は出ていません。
 別姓を導入すると必ず離婚が増え、社会が混乱するという別姓反対者の主張にはこの時点で?マークがつきます。

  それでは、70年代のアメリカでの現象は、何が原因なのでしょうか?
私が参照した論文では、以下の要因を挙げていました。

1.女性の労働市場進出
2.離婚に対する社会的抑制の減少
3.平均寿命の伸び、少子化の進行
4.離婚法の改正
5.結婚観の変化
(「離婚の比較法的研究(アメリカ)」米倉明 比較法研究47,1985)

ここで特に注目すべきは4.の離婚法の改正です。
実は、各州の離婚法が改正され(破綻主義の導入、どちらにも落ち度がない場合でも離婚の申し立てが可能など)、離婚が容易になった時期は別姓の導入時期とかなり重なっています。上の論文でも、増加の理由は複合的なものとしながらも、離婚申し立ての増加と、離婚法改正の因果関係を認めています。

  さて、選択別姓に反対の方へ質問です。別姓の導入と、離婚法の改正、このどちらが離婚率の上昇に関わりが大きいと思いますか?
  私は実際の離婚手続きのハードルを下げた後者の影響の方が強いと考えるのが自然だと思います。

  それでは、離婚法の改正と離婚率の上昇は他の国では関係が見られるのか、確認してみます。
  実は、離婚率こそアメリカより低いものの、戦後の離婚件数の増加率がアメリカよりも高いのがイギリスです。60年代から増えはじめ、やはり70年代に激増しています。

60年 0.48 
70年 1.12 
75年 2.28 
80年 2.77 


と10年間で2倍以上の伸びです。

  イギリスでは69年改正、71年施行の改正離婚法の他、74年、77年に離婚手続きの簡素化が図られ、そのたびに離婚率が跳ね上がりました。別姓の導入とは無縁のイギリスでも、離婚法の改正によりやはり離婚が激増しています。
  また、上のスウェーデンの数値をもう一度見てください。
  別姓が導入された80〜85年間より、70〜75年間の方が増加率が高いですよね?
実は、73年にスウェーデンでも離婚法の改正があり、その影響が出ているのです。

  論文の筆者も述べていた通り、離婚の増加の理由は複合的なものであり、離婚法の改正を主因と断定することはできません(私は専門家でもありませんし)。
  しかし、以上の国を分析しただけでも、「別姓導入が離婚増加の原因」とする事は非常に難しいと思われます。
(参考資料:「人口動態統計の国際比較」厚生省大臣官房統計情報部 1994.3)

  さて、最近別姓が導入された国と言えばドイツです(93年)。
  上記の参考資料では90年代に入ってからの情報がないので、国連の「世界人口年鑑1995」(これが最新版)を参照しました。
  最新版には91〜94年のデータが載っています。それによれば離婚率は

91年1.70
92年 1.67 
93年 1.93 
94年 2.04 


です。これだけを見ると、「別姓導入年から跳ね上がっているじゃないか、離婚法の改正もないのに、別姓のせいに違いない」と結論づける人も出てくると思います。でも、もう少し長い目で見て見ましょう。1971年からの東西ドイツの離婚率を参照します。

 71年75年80年85年86年87年88年89年
東ドイツ1.311.731.562.102.012.122.192.04
西ドイツ1.531.88 2.422.36 2.81 2.63 2.88 2.60


(1990年、東西ドイツ統一の年のデータはありません。)


東西ともに80年代の後半には離婚率は一定の範囲で落ち着いていました。90年のデータは公表されていませんが、翌年の91年にはいきなり離婚率が下がっています。これは、統一に伴う社会の変化が落ち着くまで、離婚を控えた夫婦がかなりいたということではないでしょうか。
  確かに93年からまた離婚率は上がっていますが、89年の東西ドイツの平均を越えてはいません。この現象が別姓の導入によるものか、社会が落ちつき始めて以前の水準に戻りつつあるだけなのか、判断をすることはまだ無理であり、断定はできないと思います。

※その後の調べで、ドイツの民法改正は『公布』が1993年12月であり、『施行』は1994年4月ということが分かりました。少なくとも93年の離婚率上昇と別姓導入は無関係と言えます。尚、95年の離婚率は2.07であり、ドイツでの離婚率は統一以前の水準に近づいたところで落ち着ききつつあるようです。


  選択別姓に反対の方は
「別姓は別にしても今回の民法改正案には5年別居で離婚を認めるなど、離婚を容易にする事項が入っているから、やはり欧米と同じ離婚の激増を招くのでは?」
と懸念するかもしれません。しかし、欧米と日本とでは離婚手続きの事情が全く違うのです。
 欧米のほとんどの国では離婚は裁判所の審判を仰いだり、許可を得たりしなくてはなりません。
 しかし、日本では役所への届け出のみの協議離婚が9割を占めます。破綻主義は裁判所に持ち込まれた場合の話ですから、日本での離婚増に直結はしないでしょう。
  もちろん、
「とにかく5年間逃げまわって別居の実績を作った上で離婚を申し立てる」
などの信義に反する場合などには離婚を認めないことになっています。




質問:また、別姓制度を導入したスウェーデンを例に出しますが、
1.20歳から24歳までの間に法律婚を拒否して事実婚をするものが全体の61パーセントに達している。
2.法律に基づく結婚した男女の間からではない婚外子の比率が全体の46パーセントに達している。
別姓導入後、こんな問題が起きていますが、これも別姓とは関係ないのですか?

スウェーデンで事実婚が多い理由は
・「内縁夫婦の財産関係に関する法律」等が整備されており、事実婚夫婦にも法的保護が保証されている
・嫡出子・非嫡出子の区別自体が廃止されており、子どもに法的デメリットをあたえることもない
・よって、日本のような事実婚によるデメリットが非常に少ない

 上記の理由に加え、社会的にも抵抗が少ないことももちろんあると思います。
  婚姻届を出す前に、同棲などで「お試し」をするのが悪いこととは思いません。事実、スウェーデンでは、結婚(法律婚)後1年以内の離婚率は日本の3分の1以下です。



別姓目次|HOME