国会報告 その202(2004.09.25発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回、発行しております



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国会報告



■青少年問題特別委員会北海道視察



 過日の台風のために延期となっていた北海道視察が、9月21日・22日に行われました。なお、台風は北海道にかなりの被害を生じており、死者・行方不明者を出した他、今回の視察でも、かなりの樹齢の大木が倒れていたり、施設のガラスが割れていたり、と、その片鱗が見られました。
 前回は2泊3日の日程でしたが、今回は1泊2日の日程となりました。が、文化祭直後で振り替え休日だった北星学園余市高校を除く全ての行程を2日間に詰め込むことができたようです。

 現在私は委員会の理事ではありませんので、視察行程については口を挟むことができませんが(9月22日に連絡を受けたところによると、次期国会からは理事になるようです)、うかがった施設では、貴重な勉強をさせていただきました。台風のためとは言え、予定を一旦キャンセルした後に再び迎え入れてくださった皆さまには本当に感謝申し上げます。



全体の視察行程


札幌

●北海道における青少年行政の概況説明及び意見交換
●天使の園(児童養護施設)
●紫明女子学院(女子少年院)
●北海少年院(職業訓練などを行う長期処遇の男子少年院)

函館

●函館児童相談所
●北海道立大沼学園(児童自立支援施設)
●函館少年刑務所
●函館保護観察所

 以下、スペースの関係上、特に印象に残った2つの施設について報告します。

天使の園

 フランシスコ修道会が明治44年に札幌に天使病院を作り、入院患者の遺児を院内で養育したことが起源となっている、キリスト教系社会福祉法人による児童養護施設。
 ショートステイ、子ども家庭支援センターなど、多様なプログラムに挑戦しています。

 特徴的なのは、「子ども自治会」というものがあり、施設内のことを子どもたちが自主運営しているという点。例えば、テーブルでお菓子を食べるときの電灯は、子どもたちの意見によって作られたそうです。
 古い施設でもあり、確かに面積は他の児童養護施設同様に狭く、一部屋を数人で共有しなければならず、個室とはほど遠い現状です。
 でも、感心したのは、机やベッドなど温かい木製家具を使っており、部屋ごとに色調が少しずつ違っていたり、と、家庭的な雰囲気であること。これは施設長のこだわりだそうです。以前、宇都宮で視察した施設では、扇風機も壊れて、網戸もないという環境で、学習机も一人一つどころではない、という状況でしたので、大きな違いを感じました。

 人員配置はやはり最低基準をやや上回る程度。特殊学級(学区外にしかない)への送迎や、札幌の病院への送迎などで、常に人手がとられるため、人繰りは厳しいそうですが、パートの方は最も必要な時間指定で採用するなど、効率的にやりくりしているとのことです。
 リビングには「世界人権宣言」の本が置いてあり、施設内の壁には「子どもたちの権利と義務」が貼ってありました。子どもの権利に大変敏感な施設であると感じました。また、先生たちも他の施設の先生たちと連携し、自分たちの仕事ぶりに問題がないかを常に自己チェックしているそうです。
 当事者の皆さんの努力は想像を超えるものがあるのでしょうが、限られた条件の中で、本当に心のこもった仕事をされている様子に頭が下がりました。

大沼学園

 児童自立支援施設とは、児童福祉法に基づいて設置されている児童福祉施設で、様々な問題を起こした子どもたちや、環境上の理由で生活指導を必要とする子どもたちのための場です。先日の佐世保事件の加害少女が送られることになったため、にわかに知られるようになったのではないでしょうか。
 大沼学園は、大沼国定公園のすばらしい自然に恵まれた児童自立支援施設です。4つの寮舎と本館が生活の場となっていますが、それぞれの寮舎では、夫婦である児童自立支援専門員と児童生活支援員、その家族と生活を共にしています(小舎夫婦制)。多くが被虐待児で、自らの感情表現が苦手であるという特徴を踏まえて、子どもの愛着に焦点を当てた「育ち直し」(閉鎖的な環境での育て直しではない)に主眼を置いているそうです。
 本館では、児童自立支援専門員が、小・中学生に授業を行い、学力の回復や向上を図っています。中卒生は、園内作業や地域の工場・商店での職場実習を行い、働くための基本的な力を養います。また、地域の高校に通っている人もいます。

 園長先生をはじめ、先生方も大変温かい雰囲気で、とても好感の持てる施設でした。園長先生自らも敷地内に住んでおられて、毎朝子どもたちと一緒に歩くそうですが、「公務員は公私混同してはいけないと教えられるものですが、ここでは公私混同することが必要なのです」とおっしゃっていたのが大変印象的でした。

 児童自立支援施設を出た後に、結局少年院に入ったり刑務所に入ったりすることになる人たちも残念ながらいます(もちろん、とても健康な生活を送るようになる人もいます)。このことについては、児童自立支援施設での処遇が不十分だと考えるよりも、やはり社会の偏見というものを考える必要があるでしょう。スタートラインから遅れてしまっているわけですから、それだけ問題にも多くぶつかりますし、挫折・脱落する危険性も高まります。つい悪い仲間を頼るということも当然あります。
 地域の人たちが、施設出身者を温かく公平な心で迎え入れるのが理想的ですが、そのためにはもっと地域との交流を行っていくことが課題となるでしょう。私が以前勤めていた精神病院も、運動会やお祭りなどに地域の人を招いて一緒に楽しむことで、患者さんを知ってもらうことができました。よく知るということは、偏見を減ずると同時に、施設退所後のサポート体制を作っていくことにもつながると思います。

全体を通して

 今回の視察を通して深い感銘を受けたのは、子どもたちと関わっている人たちが、子どものことをとてもよく理解して関わってくださっているということ。当たり前のことと言われそうですが、日頃一般社会や国会でピントのずれた意見ばかり聞かされている立場としては、とても心強く思いました。
 例えば問題行動を起こす子どもたちの問題点として、真っ先に上げられたのは「コミュニケーションがうまくできない」「感情表現ができない」ということでした。また、「子どもたちがここに来るまで置かれてきた環境を知ると、やはり大人社会の被害者だと言える」と明言してくださいます。処遇によって子どもたちは変わるけれども、受け入れる側の大人たちが変わらないことがやはり大きな課題となるそうです。女子少年院を出た女性が「やっぱり優しくしてくれるのはあの人しかいないから」と暴力団関係者のところに戻っていってしまうというのも、少なくない現実です。
 よく「若い親は育て方を知らないから虐待をする」などと言う人がいますが、実際にはあらゆる年齢層に虐待が起こっており、大人が経済的・精神的に不安定になったところに起こりやすいことを児童相談所の方もきちんと認識されていました。虐待のリスクを減らすには、やはり、親の経済的・精神的安定をはかるしかないのです。

 国会では、子どもたちの問題として真っ先に挙げられるのは「規範意識の低下」となりがちです。行政でも、現場から離れてトップに行くほど、そういう傾向があります。何と言っても、このギャップを埋めることが急務です。そうしなければ、不毛だったり逆効果だったりする対応しかとれないでしょう。規範意識も、周りの大人たちが、愛情を注ぎながら示すべきものです。

 道全体としては、「北海道青少年健全育成推進本部」(本部長は知事)を作って健全育成と非行防止に取り組んでいるとのことですが、なぜか虐待は別組織になっているのが気になりました。子どもの問題行動と被虐待体験(ネグレクトも含む)には重大な関係があります。この二つを切り離してしまうために、健全育成施策なるものが現実離れした(時には有害な)ものになってしまうのではないでしょうか。





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