国会報告 その182(2004.03.22発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回(月曜日)発行しております



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国会報告(3/15〜3/21)


■臓器移植法改正に向けて




自民党の脳死・生命倫理及び臓器移植調査会が臓器移植法改正案をまと めたことをきっかけに、この問題についての議論が国会で本格的に始まっ てきました。

民主党では、すでに党議拘束を外して各議員の判断に委ねるということ が決まりました。
これは、臓器移植法が作られたときにも党議拘束がかけ られなかったという経緯を踏まえたものですので理解はできますが、何も 法律がなかった時と、すでに法律ができて数は少なくても運用されている 現在とでは、議論の内容も違ってしかるべきだと思っています。
最終的な判断は各人に任されるとしても(私はほとんどの法案がそうある べきだと思っていますが)、内向きの議論に陥らないよう、様々な立場の 方を招いて党としての勉強会を進めるべきだと主張しています。

私自身の立場は、国会の中でも独特のものだと思います。
法律が制定さ れたときの議論を見ると、「脳死は人の死か否か」というところにばかり 議論が集中していて、移植医療そのものにはあまり目が向けられていない ように思います。
私は、日本において新しい医療技術である脳死移植というものに、もっ と科学的な目を向けるべきだと思っています。
新しい技術なのですから、 本来は臨床研究から入るべきだと思います。
新しい薬を使おうとするとき も、新しい手術を行おうとするときも、同じことです。
現在移植が行われ ている施設を見ても、こうした位置づけは十分可能だと思います。

臨床研究としてのインフォームドコンセントを十分にとり、データをき ちんと残していくことが、何よりも重要なのではないでしょうか。
その部 分の議論をとばして「脳死は人の死か否か」という議論から入るというこ とは、どう考えても現場から離れた議論に思えてなりません。
「脳死は人 の死か否か」を議論するよりも前に、詰めなければいけないことがまだま だあるのではないでしょうか。

現行法の問題点は、何と言っても、子どもの臓器提供です。
これは、臓器提供の意思表明を「遺言」と同様にみなしているため、遺 言可能年齢以下(15歳未満)の子どもには事実上臓器提供ができない仕 組みだからです。
でも、明らかに、臓器提供を受けることだけが治療の選 択肢となる子どもも存在しています。
親にとっては、我が子の臓器を提供するという判断は簡単なことではあり ません。
私自身、自分の子どもを臓器提供者にする決断ができる自信はあ りません。
でも、子どもの臓器を提供したいと考える人もいるでしょう。
そういう人にとって、価値中立的に、それを可能とするシステムが全くな い、というのは制度としては欠陥だと思います。

臓器提供の是非を家族が決めるという仕組みの問題点については、私も 現行法が議論されていたときにアンケート調査をして論文を書いたことが あります。
ただでさえ大変な混乱状態に陥っている家族に何かを押しつけ るようなことがあってはいけません。
私が「臨床研究」にこだわるのは、 あくまでも自発的に参加するものだという位置づけを明確にしたいという こともあります。
また、特に臓器提供を決意した家族に対して、どのようなサポートが最 も望ましいか、ということも、ガラス張りの中で議論(研究)すべきだと 考えております。

臓器移植を臨床研究として位置づけ直した上で子どもに臓器提供の道を 開くべき、という私自身の考えについては、厚生労働委員会でも質問した ことがありますし、以前から変わりませんが、今回、国会での議論が本格 化する中では、せっかく党議拘束も外されるのですから、あらゆる立場の 方たちの話を、時間が許す限り聞いてみたいと思っています。
3月17日には、法改正に慎重な立場の方たちによる勉強会に参加し、 光石忠敬弁護士のお話をうかがいました。
今後は、賛成派の方たちの勉強 会にも参加してみたいと思っています。

自民党調査会案についても、脳死判定の実施条件など、疑問の点がいく つかありますので、その点も明確にしていきたいと思います。




■児童福祉法改正案について




児童虐待防止法改正案は、先日衆議院を通過したということをご報告し たばかりですが、虐待関連の審議の第2ラウンドがやってきます。
厚生労働委員会で審議される児童福祉法改正案です。
私はこの法案担当 の責任者として、修正案づくりに着手しました。
今回の児童福祉法改正案では、虐待対策の一次的な担い手が都道府県 (児童相談所)から市町村に変わります。
児童福祉司を必ず置くことが規 定されているのは児童相談所だけですから、市町村がこの負担にどうやっ て耐えるのか、まず疑問のところです。

また、今回の改正案では、虐待をした親への指導に「司法が関与」する とされています。
司法関与は従来から現場でも要望の強かったものですが、 何と、政府案では、指導を受ける必要性を家庭裁判所が「都道府県(つま り児童相談所)」に勧告する、という仕組みになっています。
指導を拒否 する親に対して、「裁判所の勧告があるから」と言えばお墨付きを与える、 と役所側は言いますが、裁判所から直接親に勧告されるものでなければ、 実際のところあまり意味はありません。
さらに、今回の改正案では、小児慢性特定疾患を初めて法律に位置づけ ることになりますが、これによって、医療費の自己負担が生じてきます。
自分の責任でもなく難しい病気を持ってただでさえ苦労しているのに、さ らに経済的な負担まで、というのは、簡単に納得できる話ではありません。

また、虐待防止法改正案づくりのときから私が提案していることですが、 入所措置を解除した後、つまり被虐待児を親元に戻してから、一定期間指 導しながら観察する期間を設ける、という制度も提案したいと思っていま す。
子どもが施設に入っている間は「良い親」でいられるかもしれないけ れども、親にとって、子どもが戻ってくるということは環境の変化であり ストレスを生むものであることは間違いありません。
こうした期間が事実上野放し状態になってしまっている(ほとんどは、 児童相談所の人手不足が原因。
親の非協力も一部の原因)のは、問題だと 言わざるを得ないと思います。

以上のポイントを踏まえて、修正案の準備をしています。




■年金改革案について




3月17日の「次の内閣」で、民主党の年金改革案の骨子が概ね了承さ れました。
基本的には、スウェーデンの年金制度にならった、昨年秋の総 選挙でマニフェストに掲げた「一元化・一階建て年金+最低保障年金」で す。
全ての人が同じ年金制度に加入し、現役時の所得に比例する掛け金を払 い、それに比例する額の給付を受ける、という大変わかりやすい制度です。
いろいろな事情によって現役時代に十分な保険料を払えなかった人には、 税を財源とした最低保障年金を作ってあります。
税制なども含めてさらに 議論しなければならない点はたくさんありますので、今後も議論を続けて いくことになります。

政府案が、最も深刻な事態に陥っている国民年金問題に一切手をつけて いないことだけ考えても、民主党の改革案こそが将来の安心に向けての持 続可能な本当の改革案であることを理解していただけると思います。




■年金物価スライド法案について




3月19日、年金の物価スライド法案についての審議が厚生労働委員会 で行われました。
年金額の物価スライド(物価の変動に合わせて年金支給額を変動させる) は、法律上規定されているもので、インフレの時に物価に合わせて年金額 を上昇させることについては誰にも異議のなかったものです。
ところが、 ここのところのデフレ下では、物価スライドということは、年金額がマイ ナス改定(減額)されることを意味することになります。

2000年〜2002年度については、「年金額が下がると高齢者が消 費を抑制するため景気が冷え込む」という理由で、物価スライドを凍結す るという特例法が政府によって提案され、可決されてきました。
当時の政 府には「いずれ物価も上がるだろう」という楽観的な見通しがあったので す。
ところが、ついに現役世代の賃金額も低下したということを受け、 2003年度分からは前年1年分の物価下落分だけ年金給付額を削減する、 という特例法に変わりました。
この法案を昨年審議したときには、私が書 いた附帯決議がそのまま通り、「高齢者の生活においては消費者物価のみ ならず医療や介護のことを配慮しなければならない」という趣旨のことが 決議されましたが、その後も、医療や介護について政府は何ら措置を講ぜ ず、負担は高まる一方です。
そこで、今年は、基礎年金の満額支給(月額66000円)未満の世帯 については物価スライドを適用しないという特例法を民主党案として提出 しました。
これは民主党が総選挙のマニフェストで提案している「最低保 障年金」という考えにも符合するものです。
残念ながら、民主党案は否決され、政府案が可決されましたが、民主党 案の方がはるかに良い案であったことをご理解いただければ幸いです。







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