国会報告(7/31〜8/9) |
■衆議院青少年問題特別委員会視察報告(その4:ノルウェー2) 前回に引き続き、ノルウェーについてのご報告をします。 ◆ライラ=ドーヴォイ 子ども家族大臣と懇談 日本にも子ども省を、と私が訴えている一つの根拠が、このノルウェーの 子ども家族省である。 今回のノルウェー視察も、主に子ども家族省を見たいという動機が強かっ た。 ノルウェーの子ども家族省は、1991年からスタートした。 子どもと青年、家族、男女平等、消費者という4つの部門からなる。 子ども家族省のドーヴォイ大臣は、キリスト教民主党に所属する54歳の 女性である。 看護師資格を持ち、文化・教会省政治顧問、副大臣、労働行政大臣などを 歴任している。 大変楽しみにしていた懇談だったが、なんと、アクシデントが起こってし まった。 懇談予定日の前日に、大臣の娘さんが出産をされ、その経過が不良で手術 が必要になったということで、オスロに戻ることができず、急きょウィッ ト副大臣との懇談になった。(翌日、娘さん・お孫さんとも手術が終わり 無事だったという連絡があった) ウィット副大臣(男性)は、「彼女は家族大臣だから、家族のことを大切 にしないとね」と言っていたが、ほかの大臣でも、このように家族の事情 で仕事をキャンセルすることがあるのか、と尋ねてみた。すると、彼は、 「そんなに多くはないですよ。週に1回くらいかな」と答えていた。これ が正確な数字かどうかはわからないが、日本よりもはるかに政治家が家庭 を大切にすることが当然視されている国なのだろう。 ノルウェーでは、毎年35億クローネ(約500億円)の予算を子ども政 策に投入しており、これは防衛費に匹敵する。 ノルウェーでの子育て支援策はいくつかの柱によっている。 一つは子ども手当。 これは、子ども一人あたり月々約1000クローネ。民主党で試算してい るものとほぼ同水準だ。 子ども手当ては、すべての子どもに自動的に支払われる。 国と地方公共団体は、保育への援助をする。 そして、保育園に入れなかった子どもには月3600クローネの現金が支 給される。 現金支給の導入に際しては、政党間でかなり議論があり、僅差で採択され たそうだ。おそらく、日本の介護保険における現金支給と同じような構造 の議論だったのだろうと思う。 副大臣(保守政権)は、「親に選択の自由を与えることが重要だ」と言っ ていた。 育児休業中の所得保障も、42週間限りの育児休業なら賃金の100%、 フルにとるのであれば賃金の8割、という選択肢がある。 また、私たちは日本で初めて育児休業のパパ・クオータを提案しているが、 ノルウェーではすでに数年前にスタートしたパパ・クオータ(4週間)を、 80%の両親が利用していると言う。 現政権は、家族政策に関する法案を提出し、この冬国会で審議する予定だ そうだ。 これは、「家族生活の義務に関する法案」。 なにやら日本の保守系議員が喜びそうなタイトルだが、中身は現実的だ。 法案の目標は、家族生活がより長く心地よいものになるように、親が子ど もの一生に対して責任を負う、というもの。 政策としては、16歳以下の子どもがいる家庭が離婚する場合は、必ず調 停機関を通すこと。これを事実婚のカップルを解消する場合にも適用した いと政府は考えている。 また、児童福祉事務所が、サポートの必要な家族を助けること。助言した り、学校との連携を強化したりすること。 このほか、現政権(保守政権)のプランは、子どもが新たに生まれた場合、 親が親になるための授業を受けること、パパ・クオータの期間の延長、な どがある。 保育については、0歳から5歳までの子どもたちの68%が保育園を利用 しているが、実際には70−90%の家庭が保育園の利用を望んでいると いう。この希望を2〜3年以内にかなえたい、と副大臣は言う。(つまり、 待機児を2〜3年のうちに解消する、ということ) 保育園の半分が私立で半分が公立だが、公立のほうがやや割安(私立は月 3500クローネ、公立は2900クローネ)。現政権は、保育園への予 算を増やして、来年の目標最高保育料を2700クローネに抑えることを 明言している。このため、8月1日から、公立保育園への政府補助金が 19%、私立保育園への補助金は33%増えた。 この点に関連して、私たちの滞在中にもニュースがあった。 保育料を軽減するために自治体に交付した補助金を、自治体がどのように 使っているかを調査し、他の目的に使っている自治体には補助金を払わな いという制裁を法的に検討するそうだ。 「保育園専用資金をほかの目的に使うことは理解できない」というドーヴ ォイ大臣の談話が発表された。 保育園に代わる現金支給について議論があったということだが、政党間で 子育て政策についての違いは見られないのか、とたずねると、いろいろな 意見はあるが、すべての政党について共通しているのは、 ●両親のどちらにも働く権利がある。 ●両親のどちらもが子どもに責任を負っている。 ●父親が子どもの養育にもっと時間をかけなければならない。 という認識だそうだ。 ちなみに、ノルウェーの出生率は1.8人。 パパ・クオータで満足している両親は、職場でも良好に機能することが確 認されており、子育て支援策はうまくいっていると言えよう。 ◆ヘランド 子ども家族省 子ども・青年局長との懇談 子ども家族省には4つの部門があるということは前述したが、このうち、 子ども・青年という部門に関してはヘランド局長(男性)が責任を持って いる。子ども家族省ができる前は何をしていたのかと聞くと、何と、財務 官僚だったらしい。私が驚くと、でも、子ども関係の仕事もしていた、と、 いろいろな経歴を挙げられた。確かに、外見も、子ども家族省の局長とい うよりは、財務省の局長という感じだ。でも、実際に話をしてみると、さ すが担当局長、青少年のことについてとてもよく知っていた。 1991年に青少年の犯罪に対する法律ができたが、これは5つの省庁が 協力して作ったものである。 また、1991年からは、ボランティア団体とも協力して、子どもの更生 プログラムを作成して更生を図っている。法務省との協力で行っているこ ととしては、罪を犯した子どもに関して、地方公共団体と協力して罪をつ ぐなうという手法をとっているそうだ。 ノルウェーでは、犯罪やいじめなどについて、研究者に資金援助をしなが ら、さまざまな調査を行ってきた。 いかにして犯罪を削減するか、という点については、更生施設は十分でな いという結論に達した。 そして、米国で発展した2つの方法が、ノルウェー全土で行われており、 効果があると報告されている。 その一つは、アリゾナのパタースン教授が取り組んでいる方法で、家族と の連携を図って更生をするもの。 もう一つは、サウスカロライナのもので、複数のシステムから成り立つ精 神療法によって、12〜18歳のアルコール依存の子どもたちを更生させ るというもの。 これらの効果を踏まえて、オスロ大学に、さらに研究を進める施設ができ たそうだ。 ここでも、行政と学術・研究機関との連携がうまくできているのは、他の 二国と同じだ。 虐待については、暴力関係を研究する施設を近年にうちに設立したいと考 えているそうだ。 また、ノルウェー人だけでなく、移民の子どもについても暴力後のケアを 行っているそうだ。 ノルウェーは失業率が低く、ノルウェー全土で4%。若年の失業は、 20〜25歳の失業率が13%と一見高いようだが、失業期間は短く、大 した問題にはなっていないとのこと。日本のような構造的な深刻な問題で はないようだ。 ヘランド局長によると、ノルウェーは、ヨーロッパ諸国の中でも、子ども だけではなく子どもと青年の両方を扱っているのが特徴的だという。日本 でも、現場の方たちの間には、子どもだけでなく青年までケアが必要だと いう意見が根強いが、まさにノルウェーはこの要請に応えているといえる。 他の省庁との関係を質問したが、子ども家族省は、基本的にコーディネー ターとしての役割を果たしているそうだ。もちろん、どこの社会でも組織 は縦割りになりがちで、ヘランド局長も率直に「他省庁と仕事をするのは 難しい」と述べていた。でも、事務レベルでは月1回定例で各省庁の代表 者からなる特別委員会が開かれるが、そこで合意がなされないと、各省庁 の副大臣が調整をし、それでもだめなときは閣僚クラスへ、と連携の主体 が上がってくる。 日本のように「縦割り行政だからできない」などと政治家が無責任なこと を言っている怠慢な国とは違うのだ。 最後に、私は性教育についてヘランド局長に質問してみた。 日本では最近、性教育を抑制しようとする動きがあるが、ノルウェーでも 政党間でそのような議論はあるのか、と尋ねると、ヘランド局長は意外な 質問だと驚いてしばらく絶句していた。 「そういうことは、ノルウェーではあまり提起されない問題だ」とのこと。 ノルウェーでは小学校から性教育をしている。ただ、授業がまじめになら ないため、先生たちにとってはありがたくない授業だそうだ。だから、 先生への教育が重要だ。「実用的な教育」がノルウェーの方針であり、政 党レベルでは性教育についての対立・議論はない、とのこと。北欧では性 教育を早期から充実させたところ性交開始年齢を遅らせることができた、 というデータも見たことがあるが、完全に日本の混乱の先を行っている、 と羨ましく思った。 スペースの都合で、ノルウェー編は3部に分けることになりました。 次号でようやく完結する予定です。長くかかりましたが、少しでも詳しく 皆様に視察のご報告をできるように、と思うと、どうしてもこのくらいの 分量になってしまいます。ご理解いただけますようお願い申し上げます。 |