国会報告(7/31〜8/9) |
★7月31日(土)〜8月9日(土) 衆議院青少年問題特別委員会視察報告(その2:デンマーク) 北欧は高福祉国家として有名です。 日本では、北欧を実際に見たことのない人が、「高福祉であっても税金が 高い。 高負担でとてもやっていけない」「行き過ぎた個人主義で社会やモ ラルが崩壊している」などと喧伝する人がいるようですが、実際にはそん なことはありません。 高負担といっても、税金は収入の約4割です。 一見高く見えますが、教育 がすべて(小学校から大学院に至るまで。 何度入学しても)無料であるこ と、医療保険や雇用保険を別途支払う必要がないこと、などを考えると、 決して高い負担ではありません。 社会のルールに従っていれば、老後の安 心も保障されている。 子どもを何人産んでも教育費はかからない。 こんな 社会であれば、4割の税金を払うことも悪くないのではないでしょうか? また、デンマークもノルウェーも、確かに「個」を大切にする国です。 でも、モラルは決して低くありません。 自分たちの快適な生活を守るため、 困っている人は社会全体で支えていこうという姿勢が見られます。 高福祉 国家であることに国民が誇りを持っていることも強く感じられました。 かえって、「日本では最近子どもの犯罪が目立っているようだけれど、ど うなっているの? 大丈夫?」などと心配されてしまう始末でした。 選択 的別姓の実現を求めるたびに、「そんなことを認めたら北欧のようにモラ ルが崩壊した国になってしまう」と常套文句を繰り返す人に、聞かせてあ げたいものです。 ◆コペンハーゲン市総合保育園 (Copenhagen Municipality's Children's House)視察 市内で2番目に大きい保育施設。 1歳〜6歳の子どもたち計152名が保 育を受けている。 特徴は、耳の不自由な子どもたち14名を保育していること。 ちなみに、デンマークでは、障害児を特別扱いしない。 誰が障害を持って いるかということをカウントすることではなく、障害を持っていてもふつ うに暮らせるようにサポートすることが行政の役割と認識されており、障 害者の比率などの統計も存在しないらしい。 視覚障害者や身体障害者は、ほかの子どもと同じように保育される。 聴覚障害の場合は、小さな頃から手話を覚える必要があるため、特別に扱 われている。 最近、補聴器を埋め込む手術が始まったので、将来的には統 合することが望ましいと考えているそうだ。 聴覚障害児は、全員、無料で保育園に入ることができる。 それ以外の子ど もは保育料がかかる(保育料は40000円程度。 ちなみに教育はすべて 無料)。 コペンハーゲン市の基準は、広さ、人員、クラスあたりの人数を規定して いる。 1クラスあたり乳児は12名まで、幼児は22名まで、という基準だが、 聴覚障害児のクラスは、乳児6名、幼児8名、と少なくしているそうだ。 ここに2名の言語療法士がいる。 ユニークだと思ったのは、保育士の腰に 負担がかからないよう、おむつ替え台の高さが自動調整できることも市の 基準になっていること。 保育園の運営には保護者の意見がかなり反映されるようだ。 保護者の理事 会があり、保育料の使い道、子どもの活動など、様々なことに保護者は意 見を言える。 理事会は保護者代表6名と職員代表3名よりなり、園長は出席するが議決 権はない。 単に法律の枠内で議論できるようアドバイスする役割を果たし ているそうだ。 子どもが4カ月になると、市の保育園係に申し込みをする。 希望者は誰で も申し込め、就労の有無は問わない。 待機児は大きな問題だそうだ。 市は基準を緩和してこれを解消しようとし ているようだが、保育の質を維持するため、多くの保育園が以前の基準に 基づいて運営されているそうだ。 ◆児童保護施設 (The Child and Family Institution Wibrandtsvej) 視察 コペンハーゲン市で最も新しい施設(開設1年)で、家族そろって利用で きるところが大きな特徴。 子どもだけの滞在施設(5〜8名分)、親子で入れるアパート(3世帯分)、 デイケア(8名定員)、と機能が分かれており、施設外の子どもも訪問し てケアをしている。 デンマークで行った調査報告によると、思春期に起こる問題は実は乳児の 頃から存在している。 そのため、市が新企画として0〜6歳を対象とした この施設を始めた。 一見非行や犯罪などとはまったく無縁の赤ちゃんたちの施設が「早いうち に犯罪の芽を摘む」ためのものだ、と説明されて違和感を覚えたが、デン マークでは、子どもの問題行動は、子ども自身の責任ではなく、子どもに 良好な生育環境を与えられていないということに周囲が気づかなかった結 果と見る考えが徹底しているようだ。 家庭や学校など子どもの環境に問題 があることをなんとなく知りつつも放置して少年犯罪を犯して初めて大騒 ぎする、という今の日本のような状況は、子どもが健康に育つ権利を侵害 しているといえるだろう。 子どもの問題環境の把握は早い。 妊娠中にかかる病院、出産をする病院、 新生児検診で訪問する保健師、といったところから、問題がありそうだと 見つけると、市内に15カ所あるローカル・センター(社会福祉センター と言うべきもの。 児童・高齢者・年金など、社会省が所管する問題を扱っ ている)に連絡が行く。 ローカル・センターから、保健師が訪問をするが、 手に負えない場合に、この施設が紹介される。 滞在中にかかる費用は親子ともに無料。 スタッフには、2名の臨床心理士、看護師とソーシャルワーカーが1名ず つ(いずれも家庭問題・児童問題を扱うためのトレーニングを受けている)、 16名の保育士などのほか、2名の外部スーパーバイザー臨床心理士が時 々訪問して第三者的な目からの評価を行う。 特定の大人と愛着関係を築けるように、保育士は、1〜2人のみの子ども の世話をすることになっている。 性的虐待など難しいケースについては、コペンハーゲン大学と連携してい るそうだ。 扱っている家庭の4分の3が一人親家庭。 施設の平均滞在期間は半年〜1年。 最初の数カ月〜半年の間に、両親が子どもとともに成長できるかどうかを 見極める。 施設に滞在するのは1年を上限とし、親元に戻せない場合は、 センターが里親を必ず見つける。 施設滞在が1年程度というのは、この施 設に限らず他の施設でも同様だそうだ。 日本と違って、それほど「他人の 子どもを育てる」という里親制度が定着しているのだろう。 子どもを親から引き離すことが必要であっても親が同意しない場合(全体 の7〜8%)には、法律に基づき、市議からなる評価委員会(委員長は心 理学者)が子どもの処遇を決めるそうだ。 施設の職員はすべて市の公務員。 子どもに関わる人員は需要を満たしてい る、というのが市の課長補佐の意見。 量的に明らかに不足している日本か ら見るとうらやましい話だ。 現在市で検討しているのは、子どもたちが相談に来やすい体制を作ること。 ローカル・センターは、相談に乗ってくれる場所として一般に広く認知さ れているが、薬物乱用や不登校、犯罪といった問題を抱える子どもはなか なか自分から相談には来ない。 コペンハーゲン市では、30年前から、24時間オープンの児童支援施設 を作っているが、24時間あいていると家出少年などが困ったときに身を 寄せてくる。 こうした成功例を踏まえて、今後の方針を決めたい、とのこ とであった。 ◆社会委員会委員長(Ms. Tove Videbaek)と懇談 社会委員長ともう一人の国会議員(2名とも女性議員)と懇談した。 どち らも、くだけた服装にサンダルやスニーカー、といった外見で、日本では とても国会議員に見えないタイプ。 二人とも保守政党に属する。 委員長は、 1998年から議員になった人だが、それまでは、地方テレビでアナウン サーやディレクターをやっていたそうだ。 以下、懇談したことをテーマ別に記す。 ●子ども虐待 デンマークには社会省がある。 社会省は、いわば、デンマークを福祉国家 たらしめる省庁。 子ども、高齢者、社会保障など、国民全員が困っている 人を助ける、という考えで行われる施策全般を担当する。 1997年にサービス法が制定され、それまで子ども、ホームレス、老人 など、対象ごとに縦割りになっていたサービスを統合的に規定するように なった。 この法律は社会省が管轄している。 子どもの虐待についてもサービス法で規定している。 虐待は早期発見をモ ットーに、虐待の形跡や親のアルコール依存など、市(コミューン)の単 位で対応する。 サービス法では、子どもが何歳であろうと子どもの言い分・希望を聞くと 決めており、子どもを中心に考えることになっている。 サービス法制定前は、虐待が疑われる家庭がわざと転居したときなど追跡 できなかったが、サービス法によって、転居先の市にも情報が提供される ことになった。 ●若年の失業 デンマークでは、移民の子どもの失業率が高いが、1997年に21000 人だった若年失業者は、2000年には12000人に減少した。 若年失業率を大幅に低下させることができたのは、政府の取り組みの成果。 若者が6カ月以上単に失業していてはいけないとし、6カ月経過する前に、 ジョブ・トレーニング(職業訓練)か教育の機会を与える。 将来に向けて 一人一人にあった計画を立てる。 このトレーニングや教育を受けないと、生活保護のお金がもらえない、と いう仕組みになっている。 ●青少年犯罪や薬物乱用 ここ数年、低年齢化・凶悪化(といっても日本のようなギョッとする事件 はないそうだが)しているが、ゲーデ・プラン(gadeはstreetという言葉。 つまり、ゲーデというのは近所のような意味)を採用しており、効果を表 している。 若年の犯罪は近隣から助けていくという趣旨で、法務省が担当し、警察や 学校と連携している。 18歳未満の薬物乱用についてはサービス法によって規定されているが 、薬物依存者の更生率は高くなったそうだ。 これは、学校で、薬物に関する教育をきちんと行うようになったこと(中 学生くらいでは警官が授業を担当したりする)、放課後のクラブ(デンマ ークは女性の就労率も高いため、子どもたちは皆放課後のクラブ に行く。 日本の学童保育に相当する)で薬物に関する教育を行ったり、ゲ ーデ・プランで積極的に働きかけたことの成果だそうだ。 薬物の問題は、 単に子どもにやめろと言っても意味がないことであり、きちんとした価値 観を子どもに伝えること、また、親が子どもにどれだけ注意を払えるかと いうことが重要。 親が子どもとの時間を多く持てるように、とされている。 なお、デンマークの選挙制度はかなりユニークで、基本は、比例で政党ご との議席数が決まり、誰が当選するかは小選挙区あるいは中選挙区(選挙 区ごとに政党が選択できるらしい)で決まるそうだ。 今回の視察の本質で はないが、機会を見てご報告したいと思います。 |