国会報告 その154(2003.8.11発行)

水島広子の活動の様子をお伝えするために、毎週1回(月曜日)発行しております




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国会報告(7/31〜8/9)


★7月31日(土)〜8月9日(土)




■「衆議院青少年問題特別委員会」視察報告(その1:イギリス)




7月31日〜8月9日、衆議院の派遣により、イギリス、デンマーク、ノ ルウェーの視察をしてきました。

「衆議院欧州各国における青少年問題等実情調査議員団」という名称で、 青少年問題特別委員会の委員長である青山二三議員(公明党)と筆頭理事 の私の2名が議員団を構成しました。
同行は、衆議院委員部第三課課長補佐の原佳子氏、内閣府政策統括官付参 事官補佐の江川暁夫氏、警察庁生活安全局少年課長の荒木二郎氏の3名で した。
予定では与党筆頭理事の森田健作さんも同行することになっていたのです が、埼玉県知事選への出馬問題のためか急きょキャンセルになりました。
帰国便は台風のために5時間遅れるという事態に見舞われましたが、無事、 すべての日程を完了いたしました。
おそらく、衆議院の正式な委員派遣で100%が女性の議員だったという 派遣団は歴史上初めてではないでしょうか。
ノルウェーの河合大使が、 「日本から見える方はいつも男性ばかりで、男女共同参画の進んだノルウ ェーでは肩身の狭い思いをしていたが、今回は鼻高々だ」と喜んでくださ いました。

この委員派遣というのは、時々メディアなどで「税金の無駄遣い」とたた かれることもあるものです。
でも、今回初めて参加してみて、そして、時間を無駄にせずに充実した視 察をすることによって、大変得るものが多くありました。何となく知って いるつもりになっていたことでも、実際に現地に行って、直接見て、現地 の人の話を聞いてみるということは、本当に価値のあることです。
各国の大使の方たちも、もっと国会議員は外国を見た方が良いと口をそろ えておっしゃっていましたが、見たこともないくせに北欧を悪く言う議員 などには、ぜひ実際に出かけて視察してほしいものです。

特に、青少年問題については、日本の議論が大変混乱しているわけですか ら、過去に同じような問題を抱えて乗り越えた国々をぜひ勉強してほしい と思います。
私も、今回せっかく議員代表として現地に行かせていただいたのですから、 できる限り国会での議論に反映させたいと思っています。

私が現地で学んだことを限られたスペースですべて報告するのは不可能で すが、取り急ぎ、要点をご報告したいと思います。




◆イギリス:青少年司法委員会委員長のポラード氏との面会



青少年司法委員会(The Youth Justice Board for England and Wales)と いうのは、内務省予算の下にある政府の独立委員会。10〜12名の委員 で構成されている。
委員は内務大臣により任命され、青少年司法に関係の 深い職歴を有している。

委員長のチャールズ=ポラード氏(Sir Charles Pollard)は、2002年 2月まではテムズ・バレー警察(オックスフォード等を管轄)の警察本部 長を11年間経験している。
テムズ・バレー警察本部長当時に、全国に先 駆けて修復的司法制度(Restorative Justice)の導入を図り、同警察の 取り組みは、各国の有識者、実務家等の注目するところとなっている。

修復的司法というのは、日本でも少しは知られるようになってきている言 葉であるが、単に罪を「悪い」とする司法ではなく、なぜ犯罪に至ったの か、犯罪によって被害者がどのような立場に置かれるか、ということを、 ミーティングの中で、加害者も被害者も一緒になって考えていくアプロー チである。
犯した罪を単に「悪い」と糾弾されても、恨みを持ってますます凶悪にな ることもある。
でも、自分が犯した罪によって被害者がどれほど傷ついたかということに 共感できれば、本当に悪いことをしたと思えるし、再犯の防止にも確実に つながる。
被害者としても、なぜ自分がそのような犯罪に巻き込まれたのかを知るこ とができないのは恐怖だ。犯罪がなぜ起こったのかを知ることによって、 恐怖や不安を少しは和らげることができる。
もちろん、被害者が同席することは強制ではない。その場合も、被害者側 の視点が、ミーティングの中できちんと取り上げられる。
ミーティングには、加害者や被害者のみではなく、加害者の家族、被害者 の家族など、幅広く参加する。そのことによって、犯罪を総合的にとらえ ることができるだろうし、再発の防止に向けて関係者がみんなで考えるこ とができる。

ポラード氏が積極的に導入した修復的司法の成果は、学術論文としても発 表されており、信頼できるものである。
この研究だけでなく、テムズ・バレー警察では、オックスフォード大学に データの学術的解析を依頼している。そして、再犯防止効果が証明できれ ば、予算がとれる仕組みになっている。
このように、省庁の縦割り構造の中で知見が埋没していくのではなく、学 術的な評価ができるということ、それに基づいて政策が決定されるという ことは、まさに私が夢見ている世界である。

イギリスでも、少年非行の背景は日本と似たようなものである。
まず、不登校。学齢期の16−17%の子どもが不登校で、そのうち60 %が何らかの非行に関わっていると言われているそうだ。不登校の最大の 原因は、いじめが怖いということ、いじめに対して学校側の対応がなって いない、ということだそうだ。
そして、機能不全家族。この場合、同じことをしても叱られたり、ほめら れたり、という親の一貫性のなさが問題だとポラード氏は指摘していた。
そして、ピア・プレッシャーと呼ばれる、同世代からの影響。

このような背景を受けての、少年非行対策の第一は、何と言っても予防で ある。予防は、警察と学校の役割になる。
イギリスでも、かつて教育省は問題児を排除する方針をとっており、また、 体罰によって規範を示そうとしていたそうだ。
ところがこうした手法によっては問題が解決しないことがわかるにつれ、 体罰は数年前に廃止されたし、現在は教育省も、問題児を排除するよりも 改善させていく方針に転換したそうだ。

教育省の取り組みとは別に、青少年司法委員会では、地域の警察官を学校 に配置している。
警官が、3日間の研修と1週間の修復的司法についての研修を受けて、学 校に配置され、学校の内外(通学バスや子どもたちがうろつく繁華街など も含む)に常駐し、学校へのアドバイスを行う。警察官が力で子どもを制 圧するために配置されているのではない。
この方法は、政府もサポートしており、現在100名程度が配置されてい るそうだ。でも、採用するかしないかの決定権は校長にあるため、「学校 に警察官なんて」という先入観のため、配置を望まないところもある。

 予防は警察と学校の役割だが、ひとたび非行が発生すると、非行少年対 策チーム(Youth Offending Team (YOT))の出番になる。
 非行少年対策チームというのは、自治体レベルで、10〜17歳の非行 少年に関する具体的指導・対処を、専門知識を交換することにより行い、 当該少年の能力を高めることを目的として、青少年司法に関連を有する複 数の行政機関(警察、保護観察、教育・保健等)の代表者からなる組織で ある。つまり、それまでも少年非行について取り組んできていた人たちが 連携して有意義な機能をするよう、作られたものだと言える。3年前から パイロットチームが始まり、2年前から実働している。
 ここまでが社会的処遇である。

 殺人などの重大犯罪を犯した場合や、犯罪を反復する場合には、施設に 収容するということになる。どのような施設に入るかというのはやはり年 齢により、11−12歳であれば福祉施設、13−14歳は矯正機能のあ る福祉施設、15−17歳は少年院、という具合である。

イギリスでは、少年犯罪(17歳以下)は、全犯罪の約3分の1と言われ ているが、すでに今後減少する兆候が見られている。施設への収容処遇か ら社会的処遇に転換することによって、再犯率を22.5%低下させたと いうデータがある。
また、現在、ロンドンの難しい地域で第二弾のパイロットスタディが行わ れているが、学校への警察官の配置と、修復的司法の実践により、学校か ら排除される子どもが3分の2減少したそうだ。

さらに、イギリスでは、5歳以上からリスクファクター(危険因子)の認 識をし、情報管理をする、YISP( yough inclusion and support program) というプログラムも始めている。
初回の非行では、警察が注意や警告をする。犯歴も残らず、経費もかから ない。
2回目になると、非行少年対策チームが対応することになる。丁寧な面接 ツールを用いて、リスクファクターが何であるかを分析する。
3回目以降は、裁判所に送致するが、それでもなお非行少年対策チームと 密接な連携をとる。

イギリスの現状を聞いて、やはりその根底に流れているのは、「子どもの 問題は地域で」という思想だと思った。
学校でのいじめ、家庭の機能不全など、子どもがうまく育っていないとい うことを、いかに早く見つけ、援助の手をさしのべるか、というところに、 少年犯罪の根本的な解決があるということを確信して初めてできる対策だ。
次号で書くが、デンマークで視察した施設でも、ほとんど同じことを言っ ていた。孤独で閉鎖的な育児環境が大きな問題だと考えている私としても、 自分の意見の裏付けをもらって自信がついた。
日本でも「加害者の親は打ち首に」などと時代錯誤なことを言っていない で、こうした本質的なことを議論すべきだ。

なお、青少年司法委員会の目的と活動は、青少年司法の運用及び運用シス テム全体の監視・評価である。
非行少年対策チームの活動の監視、青少年司法運用システム及び収容施設 の全国的基準の改正に関する内務大臣への勧告、青少年司法運用システム へのアドバイス、青少年司法の運用に資する活動に対する補助金・助成金 の支給などを行う。



◆イギリス:ロンドン警視庁で児童保護担当者と懇談



ロンドン警視庁で、児童保護担当の方たちと懇談した。
ロンドン警視庁では、28000名の警察官のうち、450名(半分以上 が女性の警官)が児童保護にあたっているそうだ。
日本はどうかと言うと、そもそもこのようにすっきりとした数も出てこな いようだ。日本の警視庁では、少年事件課に数十名、少年育成課(こちら が児童保護に当たる)に70−80名という数だそうだ。

そもそも、犯罪のうち4割が少年犯罪なのに、少年担当の刑事は全体の 10分の1しかいないそうだ。暴走族から離脱したくてもできない子ども たちに対応できるのは警察くらいなものだが、人手が足りなくて全く手が 回らない状況だそうだ。政治も同じだが、どこの世界でも、子どもの問題 には市民権がないようだ。
ロンドン警視庁では、ハイテク犯罪に対する戦略、虐待された子どもたち への対応などを聞いた。
司法手続きは実際の虐待よりも子どもにダメージを与えうるので、反対尋 問はビデオを使うなど工夫しているという。

青少年問題とは直接関係ないが、私たちがロンドンにいたときに、ちょう どイラクをめぐるブレア政権の情報操作疑惑についての調査が始まり、さ かんに報道されていた。
人が一人自殺しているとは言え、疑惑からこんなに短期間で、政権につい ての調査ができるということは、イギリスの民主主義のレベルの高さなの だと思う。日本ではまずあり得ないことではないだろうか。
実際に、国会も見学したが、国会を有権者に開かれたものにしようとする 努力はすばらしいものだと思った。かつての権力の象徴である上院と、そ こから権力を奪い取った下院、という対立構造も重要な背景なのだろうが、 下院は徹底して国民のものというイメージが貫かれている。


※視察報告はデンマーク編、ノルウェー編へと続きますが、来週はお盆で 事務所がお休みになります。
来週の国会報告はお休みとし、8月25日に次号を発行させていただきます。




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