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2002年5月28日

政府案と民主党案との比較

司法と精神医療の連携に関するPT

政 府 案

政府案の問題点

民主党案

《立法形式》

○現行の刑法および精神保健福祉法はそのまま存続することとし、その上に新たな「強制医療手続法」を立法

○精神障害者の犯罪率や再犯率は、一般のそれより低いにもかかわらず、精神障害者のみを対象とし、危険視することでさらに精神障害者に対する差別や偏見を助長し、社会復帰を阻害することになる。

○精神障害者の他害行為は「初犯」が多く、被害者はその者の家族が圧倒的に多い。また未治療や治療中断が原因となっている場合が多く、立ち遅れている地域精神保健福祉施策の充実こそ根本的な解決策である。

《立法形式》

○基本的に現行法・制度の運用等の改善と裁判所法等の改正、並びに精神保健福祉法の一部改正で対応

※あわせて「精神保健福祉改善10ヵ年戦略」等で施策全体の底上げを提起。

1 目 的

 心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対する適切な処遇を決定するための手続を定め、継続的かつ適切な医療、その確保のために必要な観察及び指導、病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進する。

○同様の行為の再発の防止(再犯防止)を目的のひとつにしている。しかし、池田小学校事件の事例は、その後の精神鑑定で心神喪失等の状態にはなく、責任能力ありと判断されて現在裁判中であること。また同事例は、軽微な犯罪行為を繰り返した後に重大な殺傷事件に発展し、起訴前鑑定のあり方や検察段階の責任能力の判断、措置入院や退院後の相談体制など、司法と精神医療の現状に対して様々な問題を投げかけたにもかかわらず、政府案はこれらの問題に対して、何ら解決策を示していない。

(目的)

○起訴前・起訴後の適正な司法精神鑑定を実施して、起訴・不起訴のより適確な判断を支援する。

○措置入院のより適正な判定及び適切な治療の提供、並びに社会復帰支援体制の強化を図る。

2 入院又は通院の決定手続

 殺人、放火等の重大な罪に当たる行為について

○不起訴(心神喪失又は心神耗弱を認定)

○心神喪失を理由とする無罪判決

○心神耗弱により刑を減軽された有罪判決(実刑を除く)

○政府案は、重大な他害行為に限定し、心神喪失等で罪に問えない者等を対象にしているが、これは責任主義を基本とする近代刑法の大原則に反する。

○検察段階での安易でしかも特定の精神科医に偏った「簡易鑑定」に基づき、起訴・不起訴が決定されている現状に対して、何ら解決策を示していない。

○裁判を受けている者に対して、さらに地方裁判所で審判を受けることは、憲法で禁止されている一事不再理(「二重の危険」の禁止)に抵触する。

(対象等)

※重大な他害行為に限定せず、また「再犯のおそれ」を要件とはしない。

○あくまでも治療上の必要性に基づいて、精神障害者の措置入院等の要・否を判断。

《地方裁判所の審判》

※処遇の要否は、裁判官と精神保健審判員(精神科医)の合議体で、その意見の一致したところにより決定する。精神保健参与員(精神障害者福祉等に関する専門家)の意見を聴く。

※検察官の申立てにより、審判を開始する。

※対象者には、弁護士である付添人を付する。

※不起訴処分を受けた者については、対象行為を行ったこと等、本制度の対象者であることの確認を行う。

※鑑定入院命令を発し、専門家である医師が、心神喪失等の状態の原因となった精神障害のために再び対象行為を行うおそれの有無について鑑定する。

※検察官、付添人等は、資料を提出し、意見を陳述する。

※保護観察所による生活環境の調査を行うことができる。

(裁判官の関与について)

○裁判官は犯罪事実の存否のほかに入院等の決定にも関与するが、精神科医が医学的な判断を行うのに対して、裁判官がどのような立場で何を判断するために審判に加わるのかが不明確であり、また実質的にどのように現状が改善されるのか不明である。仮に「治療の必要性」「社会復帰の促進」を根拠に処遇を決定するのであれば、裁判官の関与は不必要である。

○治療のために人身の自由を一定制限する適正手続を保障するために、地方裁判所で裁判官を加えた合議体における審判が必要であるとするならば、精神保健福祉法の措置入院や医療保護入院などの強制入院についても、裁判官の関与が必要である。

○「再犯のおそれ」の判定は困難であり、不確実な将来の危険性予測に基づき、事実上の無期限の強制入院を規定し、重大な人権侵害を招く。

○憲法31条以下の適正手続や裁判の公開の保障はない。刑事裁判で認められている反対尋問権・証人尋問請求権も認められていない。

※司法と精神医療の役割を明確にしたうえで、適切な連携が図られるべきであり、民主党案は地方裁判所に入院等の決定を行う審判機能を持たすという考え方には立たない。

むしろ、現行法制度の枠内で起訴前・起訴後の適切な精神鑑定をサポートする体制を整備。

裁判所法等の一部改正

○「司法精神鑑定センター」(仮称)を設置

鑑定人候補者の選定業務、鑑定結果の調査研究等、厳格な精神鑑定をサポート。

※起訴前鑑定については検察庁法改正で「鑑定センター」を設置。

《処遇の決定》

医療を受けさせるために入院をさせる決定(入院決定)

→ 指定入院医療機関における処遇へ

入院によらない医療を受けさせる決定(通院決定)

→ 地域社会における処遇へ

※決定に不服の場合は、高等裁判所に抗告できる。

○他害行為の有無や重大さによって精神科の治療内容が変わるものではない。精神医療の現場が直面するのは、いわゆる「触法行為の有無」ではなく「治療抵抗性」などであり、また重大事件を起したことによる退院後の社会復帰の困難さである。

○劣悪な精神医療の治療ベルの改善とそのための条件整備や退院後の地域生活支援体制の整備こそ、不幸にして事件を起した対象者の社会復帰を促進するものである。

精神保健福祉法改正

□「精神科集中治療センター」(仮称)の新設

都道府県知事により、国若しくは都道府県立精神病院、又は指定病院のうち、厚生労働大臣の基準に適合するものの全部又は一部を高度の医療及び保護を提供する医療施設として指定。

□「精神保健福祉調査員」の新設

精神保健福祉士、等から都道府県知事が任命。

  • 精神保健福祉法第27条第1項に基づく調査
  • 判定委員会の求めに応じて、過去の病歴、治療状況、自傷他害の有無・内容、生活環境等を調査。

□「判定委員会」の新設

都道府県知事の指定する精神保健指定医2名による合議体。

  • 指定医による診察
  • 措置入院、措置解除、退院等に係る判定
  • 判定は委員の意見の一致が必要

□「社会復帰支援体制の強化」

都道府県等は、医師、精神保健福祉士、精神保健相談員、保健師、看護師、作業療法士、臨床心理技術者その他精神障害者の保健及び福祉に関する業務を行う者の相互連携を図るため、協力体制整備に努めることを明記。

□ その他

  • 施行日:公布の日から1年を超えない範囲で政令で定める。
  • その他、所要の規定の整備を行う。

3 指定入院医療機関における医療

○入院決定を受けた者は、厚生労働省令で定める基準に適合する指定入院医療機関(国公立病院)において、入院による専門的医療を受ける。

○保護観察所は、入院中の対象者について、退院後の生活環境の調整等を行う。

○裁判所は、対象者、保護者又は指定入院医療機関の管理者の申立てによって、退院を許可することができる。

→ 地域社会における処遇へ

○指定入院医療機関の管理者は、原則として6か月ごとに、裁判所に対し、退院許可の申立て又は入院継続の確認の申立てをしなければならない。

→ 退院許可の決定 地域社会における処遇へ

→ 入院継続の確認の決定

○「再び対象行為を行うおそれ」(再犯のおそれ)の判断は極めて困難である。特に「再犯のおそれがない」ことを立証することはなお一層困難と言わねばならない。しかも指定入院医療機関の入院期間に上限が設けられていないことから、不確実な再犯予測を前提にして、無期限の予防拘禁を制度上可能としている。

 

4 地域社会における処遇

○通院決定を受けた者及び退院を許可された者は、厚生労働省令で定める基準に適合する指定通院医療機関において通院治療を受けるとともに、保護観察所(精神保健観察官)による精神保健観察に服する。

○保護観察所は、指定通院医療機関、都道府県知事等と協議の上、処遇に関する実施計画を定める。

○保護観察所(精神保健観察官)は、対象者の円滑な社会復帰を図るため、関係機関及び民間団体等との連携の確保に努める。

○精神保健観察の下での通院治療を行う期間は、3年間とする(裁判所は、通じて2年を超えない範囲で、この期間を延長できる。)。

○裁判所は、対象者、保護者又は保護観察所の長の申立てによって、精神保健観察の下での通院治療を終了することができる。

○裁判所は、精神保健観察を受けている者につき、保護観察所の長の申立てにより、(再)入院決定をすることができる。

○保護観察所の活用は、対象者と刑務所からの出所者等を同一視するものである。たとえ精神保健観察官を新設・配置したとしても、それがシステムとして社会復帰の促進のためにどれだけ有効に機能するのか疑問。むしろ治安の維持という役割が期待され、治療的な関係の構築は困難である。

(2002年5月28日現在)





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