アメリカのNPO

 今回は、アメリカのNPOについて書きたいと思います。アメリカに来て、やはりその格差や未だに根強い人種差別など、社会構造の問題を感じることも確かに多いのですが、その一方で、以前もご紹介したような多様性の尊重など、日本社会にはない活力を感じることも多々あります。その一つが、何といってもNPOです。
 
 アティテューディナル・ヒーリング・センターもNPOですが、とにかくアメリカのNPOの層の厚さには驚かされます。福祉分野はもちろんのこと、矯正プログラムのきめ細かさなど、このNPOの層の厚さなくしては語れません。アメリカ社会の最後のセーフティ・ネットがNPOだと言っても過言ではないと私は思っています。

 NPO先進国であるアメリカでは、総雇用に占めるNPOの割合は10%近くに達し、それ自体が、巨大な雇用市場を形成しています。センターのスタッフに聞いても、採用時の条件として「NPOでの経験」を重視することが多いそうで、営利企業とは異なる独特なキャリアとして確立しているということでしょう。地域に根づいた小さなNPOもたくさんある一方で、いくつかのNPOは大企業並の財力・運営力・人材力を兼ね備え、国内外に大きな影響力を持っています。

 「官から民へ」というときに、絶対に忘れてはならないのがこの「公」たるNPOです。NPOなくしては、「小さな政府」などあり得ません。そもそも市民社会からスタートしているアメリカでは、政府に多くの仕事をさせることを「税金の無駄遣い」「単なる依存」と考える人が多いわけですが、その意識を支えているのは、日本でしばしば報道されるような単なる「自己責任論」ではなく、伝統的な共助の精神です。つまり、「官」と「民」だけではなく、その間に存在する「公」を担うのが自分たちだという意識がしっかりしているのです。
 
 この意識は、個人のボランティア精神にも現れますし、税制にも現れます。社会人たるもの、何らかのボランティアをしているのは当たり前、という感覚は確かにあります。税制では、個人や企業が寄付をしたときの控除は大きな支えです。また、アティテューディナル・ヒーリング・センターでも、財団助成金は収入の大きな割合を占めますが、大きな財産を持つ人が税制上の恩恵も受けながら社会に還元する仕組みがきちんと活用されています。もちろん、これは指をくわえていれば自然と入ってくる収入ではありません。毎年、各財団に申請書をきちんと出すこと、助成金を受けた財団には、利用者の詳細など統計をきちんと報告すること、などが、センターのスタッフの大きな仕事になります。この統計のために、毎日のグループ利用者のデータも、しっかりしたデータベースで管理しています。

 なお、アティテューディナル・ヒーリング・センターは、すべてのグループや家庭・病院訪問を無料で行っているところに大きな特徴があります(トレーニングはかなりしっかりとしたお金をとります)。30年の歴史を持つNPOで、未だに無料でサービスを提供しているところはなかなか例を見ないようです(当然、その分財政は厳しくなります)。

 もちろん、アメリカにも拝金主義のような人はいますが、華々しいキャリアの途中で非営利活動に転身する人もいますし、どこかの時点で「社会へのお返し」を考え始める人も少なくないようです。

 私の娘が通うチャータースクール(保護者が作る公立学校)では、多忙なエンジニアである父親が、学校の理事として、校庭の設計に汗をかいています。「官から民へ」を叫んでいる方たちに、そこまでの覚悟があるのでしょうか。